今夜、ハードロックカフェにて @第9夜
昼下がりの東京。ここは上野、ハードロックカフェ。
今日もまた、客もまばらな店内の片隅で
ニューウェーブ好きな先輩とギターロック好きな後輩君の
ビール片手にダベりタイムが始まる。。。
「なぁ、後輩君」
「なんすか?」
「最近さあ、電子マネーって普及してきてるじゃない。あれ実際、どうなの?」
「わたし、当然使ってますよ。お釣りでもらう小銭とか、結局使わないでしまい失くしたりするじゃないですか。それが無くなったので、その分節約になってる気がしますよ。買い物するとポイントも貯まりますし、いい事しかないですよ。先輩は始めてないんすか?」
「俺はどうも抵抗があってね。ほら、今までスマホとか何回も失くしてるしさ」
「それは、もったいないですね。だって、先輩って毎朝コンビニで昼メシ買ってくるじゃないですか。あれを電子マネーで買うことに変えるだけで、結構なポイントつきますよ」
「いや、あれはダメだ!あれだけは絶対にダメだ!」
「そこなんで固辞なんですか?」
「あれは、敢えて現金払いなんだよ」
「え?」
「毎朝恒例のササキのふれあいタイムなんだよ」
「なんすか?ササキのふれあいタイムって?」
「あそこのコンビニね、早朝シフトに入ってるパートの人妻ササキヨウコさんなんだけど、お釣りを渡してくれる時、いつも俺の手をそっと優しく触れてくるんだよ」
「はあ」
「小銭をね、落としちゃいけないっていうササキの気遣いからなんだけど、なんかこう、ササキのぬくもりがクセになっちゃって」
「はあ?」
「毎朝、敢えて小銭が出るように計算して買い物をして、千円渡すみたいな」
「はあ」
「でね、ササキはね、冷え性だってのにね、いつも手をあっためてくれてるんだよ。俺の手に触れる為に」
「それ完全に気のせいでしょ。だいたいササキさんが冷え性ってなんでわかるんですか」
「夏はね、冷たいの」
「井戸水じゃないんですから。しかし、どんだけ長期間にわたって触ってるんですか・・・まあ、先輩が1日で女性に触れる機会って、その一瞬だけですよね」
「うるさい!こうなるとね〜、ササキの旧姓が知りたいよね」
「え?」
「いや名札にね、ササキヨウコって書いてあるけど、あれ、結婚してササキヨウコになってるんだよ。結婚前の苗字は何だったのかな〜?って」
「それ、知りたいですか?」
「ほら、レコードだってさ、再発盤じゃなくてオリジナル盤にこだわりたいじゃん」
「ササキさんの旧姓とレコードのプレスは関係無いでしょ」
「できれば、ササキヨウコの下にカッコ書きで、(旧姓誰々)ってちっちゃく書いといてほしいよね」
「その情報知ってどうするんですか」
「あ!マネー・フォー・ナッシングかかった!」
「いつの間にリクエストしてたんすか!って、今回はまたベタなリクエスト曲すね」
「世の中が便利になるとね、俺、この曲が頭の中で流れるんだよ」
(2019年2月5日)