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拝啓 ジョン・マクレーン

俺の首からぶら下げた社員証の写真を見た取引き先のアイツが、


「え?これ、CKさんですか?いつの頃の写真ですか?昔は痩せてイケメンだったんですね〜。これ、また痩せなきゃダメですよ!」


と言う。


「何でよ?」


「何でって、その方がモテるでしょ」


「モテてどうするよ。もうカミさんもいるし、子供もいる。仕事も女性を相手にする仕事じゃないし、笑いも取れない。モテるメリットが一つも無い。人生も残り少ないし、俺は好きなモノたらふく食って、ビール浴びるほど飲んで、ダラダラと寝っ転がってロック聴いていたいんだよ」


「そんなもんすかね。俺、キャバクラでモテたいっす」


「お前とは価値観が違うんだよ」


ある日、営業先のビルのエレベーターの中に閉じ込められた。中には、やたらダンディなオッサン、足がスラッと伸びた綺麗系のOL、そして俺の3人だ。ダンディがインターホンを連打するが、通じない。これって、安っい深夜ドラマとかでよくあるシチュエーションじゃないかよ。

停止から2時間が経過。暑い。とにかく暑い。ダンディは既に上半身裸だ。日焼けした肌と鍛えられた筋肉。ほのかに香るオーデコロンまじりの爽やかな体臭。おい、こんな鍛え抜かれたバッキバキの身体を先に見せつけられたら、この俺の白ブタのようなボディ、とてもじゃないが晒せないだろ。さっきから美脚はダンディとしか話していない。優しい声掛けで美脚を励ますダンディ。2人ともまるで、俺の存在は視界に入らない感じ。入れたくない感じ。俺の存在自体が邪魔な感じ。俺がこのエレベーターの室温を上げちゃってると言わんばかりのプレッシャー。ああ、今、「3人のうち誰か1人殺す」となったら、あっさり俺に決定するな。いや、お前達に殺されるくらいなら、腹かっさばいて自害してやるよ。ああ、苦しいな。できる事なら、今すぐエレベーターの壁になりたい。

突然、ダンディが俺に話しかけてきた。


「あの、ダイ・ハードって映画、知ってますか?」


「あ、はい」


知ってるわ。絶対にお前の何十倍も見てるわ。こちとらパート3もパート4も見てんだからな。


「あの映画で見たんですけど、エレベーターの天井って開くんですよね」


「はあ」


「これ、上を開けたらちょっとは涼しくなるかなあって思ったんです」


だからなんだよ?開けたらいいだろうが。え?届かないって?俺に踏み台になれって?なんだよ、美脚、その「ナイスアイデア!」って顔は。ああ、わかったよ。なればいいんでしょ、踏み台に。壁じゃなくて踏み台の方に。

小さく丸めた背中の上をダンディの足が踏みつける。おい!靴を履いたまま乗るんかい!ダンディが靴を脱げない理由は直ぐに分かった。この靴、恐ろしい程に底上げされたシークレットブーツじゃないか。ハイヒールの如く分厚い踵が俺の背肉にメリ込む。痛え。あ!今、クッションみたいだなって思われた?チクショウ、まったくツいてない日だ。今夜はクリスマスイブだってのに、何で俺だけこんなヒドイめに会うんだってんだよ。チクショウ、チクショウ。

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