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ジョー

小学校に入学したばかりの三男が、早くも登校拒否気味だ。
毎朝、「頭が痛い」だの「腹が痛い」だの「今すぐ体温計で熱を測れ」だの、こちらに訴えかけてくる。


次男「おい、小学校1年生こそが長い学校生活で1番楽しい時期なんだぞ。今が楽しくないと、この先は、地獄しか待ってないぞ」


父「お前、もしかして、イジメられてるのか?」


黙って首を振る三男。
三人の息子の中では、1番長身でイケメン。スポーツ万能で頭も悪くない。正直、イジメられる要素は皆無だ。


長男「もしかして、オヤジがつけた狂った名前のせいじゃないのかな?」


父「え?俺のせいなの?」


長男「こいつさ、サッカー少年団でもコーチから、「その名前ならボクシングやれよ」って言われてたよ」


次男「こいつさ、色んな所で、「ネジりんぼう食わせるぞ」って言われてるよ」


父「それは嘘だろ」


長男「こいつが名前書く時さ、親父は「ジョーだよ」ってずっと教えてきたじゃん。こいつ学校で、自分の名前を「じょー」って書いて、バツもらってた」


父「じょうってさ、なんか「う」の主張が強すぎじゃない?俺の中では、やっぱジョーだから」


次男「でも、戸籍上は「じょう」なんだろ?」


父「次男、お前、夢が無い事言うね〜」


長男「だいたい、なんでそんな名前にしたの?」


父「諸説あるんだよ」


次男「はあ?諸説?」


父「まずね、昔、ジョー・ストラマーってパンク・ロッカーがいて、なんと、こいつは誕生日がそのジョー・ストラマーと一緒なんだよ」


次男「その人、死んでるんでしょ」


父「まあね。後はね、ルー・リードっていう人の歌で、「ワイルドサイドを歩け」って曲があるんだけど、その曲の中盤で、「ヘイ、ジョー、テカウォコザワイルドサ〜イド」って歌詞があるんだよ。んで、こいつが産まれた時の報せを電話で受けた時に、ちょうど車でその部分が流れてたんだよね」


次男「出産、立ち会って無かったのかよ」


父「まあ、三人目だからさ、思いっきり気ぃ抜いてたわ」


長男「そのルー・リードって人は生きてるの?」


父「死んでる」


次男「ダメじゃん。さっきから不吉ずくめじゃん」


父「うるさい。人はいずれ死ぬんだよ。後はね、ジミ・ヘンドリクスってギタリストがいてね、その人の曲で・・・」


長男「もういいよ。変な外人の名前ばっかりじゃん。オヤジ何言ってるか、さっぱりわかんないよ」


父「・・・」


三男「出産立ち会って無かったんだ・・・」


父「あ、そこ引っかかっちゃう?もしかしてショック受けちゃった?」


次男「ますます落ち込んじゃったじゃねーかよ」


父「あ!最近、いい事もあったんだよ!サッカー少年団で、こいつの背番号が7番になったんだよ!」


長男「へ〜」


次男「何がすごいの?」


父「バカヤロウ。こいつのサッカー少年団のユニフォームの色が、真っ赤なんだよ。真紅のユニフォームに7番で、誰を思い出す?」


長男「クリロナ?」


父「ま、お前達はそうか。俺はさ、マンチェスターユナイテッドの7番、ベッカムだよね」


次男「その人、死んでる?」


父「生きとるわい!いや〜、赤いユニフォームに7番背負うなんて、テンション上がりまくるよね〜。ちなみにカントナも7番だったけどね」


長男「こいつは、キャプテン翼の10番がよかったみたいだけど」


父「甘い。甘いよ、10番信仰は」


次男「ていうか、入団順でたまたま7番目だったんだろ?」


父「うるさい、黙れ」


長男「でも、赤いユニフォームといえば、昔、名古屋グランパスにいた元ブラジル代表のジョーも7番だったけど」


父「え?」


長男「そういえば、少年団の監督、名古屋の出身だったけど」


次男「あー、絶対そっちの線だわ」


父「・・・。ジョーよ、学校までワイルドサイドを歩いて行くんだぞ」


三男「もう一回、体温計で熱測って」

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