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真昼の決闘

今日は昼またぎの出張だ。
運悪く昼食の時間が特急の乗車時間に重なっちまった場合、車内が空いている事を確認した上で、特急列車内で昼食を済ませることにしている。
前にも書いたが、俺は混んでいる店が苦手だからだ。


駅弁を喰らうのはいつもあまり気が乗らないので、パンをチョイスしている。
パンか・・・相変わらずふにゃふにゃしてんな。
なんだか逃げの選択を打っているようで、我ながら情けない。たまには、豪快にEKIBENをキメるべきだよな〜・・・なんて心の中で独りごち、何の気なしに後ろを振り返ると、俺の通路またぎ斜め後ろの席で豪快にEKIBENをキメている女性の姿があった。まず、キメているEKIBENのサイズがデカい。さらにそのEKIBENは、どデカいトンカツが大盛りの白米の上に乗っかっただけという破壊力抜群のEKIBENだ。そのインパクトあるパワービジュアルに負け、反射的に目を逸らしてしまった。あ、しまった。女性の顔を見逃した。「下半身は黒のタイトスカート」「長くて細い足、しかしボリューム感のある太腿」ってことだけが確認できる。
俺は、自分が買った 「ちょこっとチョコのクロワッサン」を恥じる。どうせなら、「デカあ〜んパン」か、「ビッグ・ソーセージ・ドッグ」の方にすればよかったと物凄く後悔する。

もう一度、女性の方をさらっと振り返る。やはり顔は見えない。今、まさに箸でドデカいトンカツを持ち上げて揺らしている瞬間だ。顔が気になる。顔が見たい。トンカツを頬張る顔。美人なのか、そうじゃないのか。

女性の方からは、恐らく俺の姿は見えているはず。俺が、「ちょこっとチョコのクロワッサン」をちょこちょこふにゃふにゃ食べているのを確認し、心の中で思いっきり嘲笑しているに違いない。
チクショー、こんな屈辱ってあるだろうか。後ろから女性に豪快にEKIBENをキメられ、自分は「デカあ〜んパン」を食べているなんて、ご先祖様が知ったら失望の底の底に沈んでしまい、二度と浮かび上がってきやしない事であろう。
いや、俺がいま食べているのは「デカあ〜んパン」ではなく、「ちょこっとチョコのクロワッサン」の方だ。いや、そんなもん、どっちだっていい。


なんて事を考えているうちに、いつの間にかウトウトしちまったようだ。やがて、車両内に俺の目的の駅に到着するアナウンスが流れる。思い切って、女性の顔を見る前提で水平に後ろを振り返ってみた。だがしかし、もはや女性の姿はそこには無かった。ただ、喰い荒らされたEKIBENの残骸だけがシートテーブルに置いてある状態だった。

降りがけに俺は、女性が捨て置いたEKIBENの残骸を拾うと、それをあたかも「自分が食べたEKIBENです。我が人生に一片の悔い無し」といったかのように天に高く掲げ、車両のダストBOXにマイケルジョーダンばりのスラムダンクを豪快にキメて、忌々しきEKIBENを葬り去った。

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