序: 中年団への入団
「ギターをやれ」
「ベースでもいいぞ」
「ドラムでもかまわねえ」
しつこいぐらいに俺が発し続けたこれら「人生における大変重要なアドバイス」を無視し続け、息子が選択したのはサッカーだった。
息子がずっとずっとず〜っと「サッカーを習いたい」と泣いて訴えかけるので、重い腰を上げてサッカー少年団とやらに入団する事にした。
サッカー少年団とやらは、まあ予想通りだったが、すこぶる居心地が悪い。グランド着後3分で帰りたくなる。
やはり、サッカー好きの父親が多く、父親全員が子供と共に練習に参加している。
俺はというと、M65ジャケットにジーパンというまるで映画タクシードライバーの主人公トラヴィスのコスプレのようないでたちで、監督よろしく腕を組んでグランドを眺めているだけだ。
俺のモヒカンに刈り込んだ頭を見て、
「あ、もしかして、ナインゴランですか?」
「あ、ビダルですか?」
とやたら聞かれる。
誰だそれ?
どっちも違うな。これ、どっちかっていうと、ランシドだから。
ミニゲームが始まった。大人対子供だと?
「一緒にプレイしましょうよ」
と爽やかに誘われる。俺はサングラスをかけて、ニヤニヤするだけだ。
どっちかっていうと、俺のプレイはヘッドバンキングしながら弾く方だからな。
帰りに昼食で立ち寄ったマックで、ハッピーセットを頼んだ息子が、全然ハッピーじゃない調子で口を開いた。
「どうして父ちゃんは、他のお父さん達みたいにサッカーの練習に入らないの?」
「ああ、父ちゃんはな、キック力がもの凄く強くて、本気でやったら子供達皆んな怪我しちゃうんだよ。で、父ちゃんはいつでも本気出す人間だから、手加減とかできないんだよ。知ってるだろ?しかもな、父ちゃんの履いてるこの靴な、「安全靴」っていう名前なんだけど、これ爪先の所に固い鉄板が入ってて、蹴ると全然安全じゃないんだよ。触ってみ」
「そうだね」
「わかってくれればいいんだ」
「うん」
確かヤツラ、
「来週は暑いからタープ張りますね!」
って言ってたな。
タープって一体なんだ?
仕方なくスマホでタープを調べる。ああ、こいつの事か。
俺、タープなんてもんは、産まれてこの方張った事無いぞ。ヤツラ、多分、俺に頼んでくるな。本当にムカつく現実だが、おそらくタープ張り作業だけが、あそこで俺が生き残る唯一の道になるだろう。
帰りにホームセンターでタープを買って帰った。タープ張りを庭で練習する為だ。
今、ガスコンロで意味無く拳を炙った後に、1人でタープを立てて、そいつを畳む訓練を開始した。
まったく、中年団への入団は辛いぜ。
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