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[WSH]90マイルの4シームでも活躍できるTrevor Williams

突然ですが今のナショナルズの投手といえばだれが思いつくでしょうか。

97マイル近い剛速球4シームでねじ伏せる剛腕左腕、マッケンジー・ゴア。

どれだけ打たれようともローテを守り、若手の肘も守り続けるパトリック・コービン。

あるいは、メジャーデビューからドジャースやアストロズを相手に好投した期待の若手ミッチェル・パーカーを思い浮かべる人もいるかもしれません。

ですが今回そんなメジャーなピッチャーはガン無視し、現在ナショナルズ投手陣のなかでfWAR1位に輝く、トレバーウィリアムズ(Trevor Williams)を取り上げたいと思います。(ミッチェル・パーカーはさすがにメジャーではないでしょうけど)

以下、スタッツなどについては5月11日時点の数値を用いています。


トレバー・ウィリアムズの成績

5先発 26.2IP 1.96ERA 3.00xERA 2.50FIP 3.80xFIP
21.1K% 8.5BB% 0.0HR%
fWAR-0.8 (ナショナルズ投手1位)

普通にいい成績が並んでいますね。
ここまで被本塁打が0なのでxFIPは悪いですが、xERAやFIPで見ると、中身も優秀な成績だと思います。

ですがタイトルにもあるように、Williamsの4シームは90マイル程度しかありません。
どうして、こんなに遅い球速でも抑えていけるのでしょうか?

遅くとも、なぜか使える4シーム

まずはタイトルにも書いた、Williamsの4シームを見てみましょう。

  • 平均球速 89.2マイル(ワースト10位)

  • 投球割合 36.4%

  • whiff%    :17.1%(2024年MLB平均21.9%)

  • Run Value  :+5

  • RV/100      :2.5


やはり最初に目を引くのは球速ですね。ワースト10位に入るレベルの遅さです。
しかもこの4シームを最も多く投げつつ、Run Valueはプラスを出しているわけですから意味が分かりません。
球速が高速化する現代のMLBとは完全に逆を行っています。

ですが、データ分析が進む今のMLBでは、球速が全てではありません。
球速以外に優れた要素があれば良いのです。
ということで、いくつかの仮説を立てて立証していきたいと思います。

①回転数が多いため、平均的な4シームよりもホップしている。
②VAAが0°に近くなっている。

ひとまず、この2つをもとに検証してみます。

①回転数が多いため、平均的な4シームよりもホップしている。

回転数2177(平均以下)

さっそく一つ目の仮説が否定されました。
4シームがホップするかは、「回転効率」や「回転軸」にも左右されるはずなので、この2つも見てみましょう。

  • 回転効率     :67%

  • 回転軸(spin-based)  :1時15分

  • 回転軸(Observed)  :12時45分

そもそも回転効率が低すぎますね。
ホップする4シームが投げるなら、最低でも85%くらいはないと厳しい印象です。

回転軸はSSW(シームシフトウェイク)のおかげで、より地面と平行に近くはなっています。
そして最も肝心の「4シームがホップしているか」についてですが、平均より、2.6インチ多くドロップしています。
「回転数」、「回転効率」がジリ貧なので、ホップする4シームにはならなかったようです。

以上より仮説①は否定されました。

なお、SSW(シームシフトウェイク)とは何だ?と思った方は、メジャトピさんが投稿された下記の動画をご参照ください。
すごくわかりやすいです。

②VAAが0°に近くなっている

まず先にVAAとは?と思った方は、メジャトピさんが同じく投稿されているこちらの動画をご覧ください。
端的に言うと、VAAが0°に近いほど、バッターの予測よりも4シームがホップしているように感じるというイメージです。

それで、肝心のWilliamsのVAAですが、
VAA
-5.0°
MLB平均:-4.8°

ということで、仮説②も否定されましたね。心が折れそうです。
これで終わるのもアレなのでもう少し詳しく分析してみましょう。

VAAを地面と平行に近くするためには、以下の2つが必要だと考えられます。
①低いリリースポイントから
②高めのゾーンに投げる

①低いリリースポイントから投げる、に関してWilliamsのリリース位置の高さを見てみましょう。

Williams:5.02ft
MLB平均:5.84ft

このように、Williamsはすごく低い位置から投球していることがわかります。
これほどリリース位置が低い理由として

  • トップクラスのエクスンテンション6.9ft

  • 身長およそ190cmと、平均か少し低めの身長

といったことが考えられます。

次に②高めのゾーンに投げる、という点ですが、Williamsはこれができてるわけではないようです。


4シームのヒートマップ

4シームは全体的にバラけており、やや低めのほうに集まっている印象を受けます。リリースポイントが低くとも高めに投じてなければ、VAAは0°に近くはならないようです。

以上より、
①回転数が多いため、平均的な4シームよりもホップしている。
②VAAが0°に近くなっている
という2つの仮説は否定されました。


別の推測

ということで、上記2つの仮説では、イマイチ納得ができなかったので、他の方法で行きましょう。

先ほどはVertical Movementに着目して見てみましたが、次はHorizontal Movement、すなわち横変化の量に着目してみましょう。
Horizontal Movementは、平均に対し-3.7インチの変化量でした。すなわち、平均的な4シームよりもシュート変化していないのです。
平均よりもドロップし平均よりもシュートしないことから、ウィリアムズの4シームはカッター寄りの軌道をしているといえます。そしてこのような軌道を描く4シームの使い手は少ないのかもしれません。

これらより、①ウィリアムズの4シームの軌道が珍しいために、バッターは打ちにくい
という推測ができます。

また、ウィリアムズの投げ方は完全なスリークォーターです。

このような投げ方であれば、バッターはシュート回転するシンカーのような速球が来ると予測するでしょう。しかし前述したとおり、実際にはシュート変化が少なく純粋なまっすぐに近い速球がやってくるのです。
バッターの予測と実際の軌道とにギャップを生じさせることができているというのが2つ目の推測です。

また、ウィリアムズはシンカーを14.2%投げており、Run Valueは+4とこちらも非常に有効な球種となっています。
4シームの球速は89.3マイル、シンカーの球速は88.0マイルと球速差が非常に小さくなっています。

一方で同じ球速にもかかわらず変化量については、縦変化で9.4インチ、横変化で10.1インチもの差がついているわけです。これは、バッターからすればかなり厄介だと思います。

以上から③球速差が無いが変化の異なる4シームとシンカーのコンビネーションにより、相乗効果をもたらしている
という推測が立てられます。


まとめ

以上より、4シームに関して三つの推測が立てられました。
①ウィリアムズの4シームの軌道が珍しいために、バッターは打ちにくい

②スリークォーターの投げ方からシュートしない4シームが来るため、バッターの予測と実際の軌道とにギャップを生じさせることができている

③球速差が無く、かつ変化の異なる4シームとシンカーのコンビネーションにより、相乗効果をもたらしている

といった推測を立てることができ、回転数やVAAによる優位性は否定されました。これらの推測の裏付けは現状ありませんが、ウィリアムズの4シームおよびシンカーの有効性に関する秘訣としては、なかなか納得できる推測が得られたと思います。

また、今シーズンのウィリアムズは、球数が80球前後で降板する試合が多くなっています。昨シーズンは球数が90球を超えたのが16試合ありましたが、今シーズンの90球越えは初先発となった4/3の91球のみとなっています。さらに、それ以外の先発における最多は81球であり、ウィリアムズの球数はかなり抑えられているのです。これもウィリアムズの好調につながっているのかもしれません。

以上で考察を終わりたいと思います。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


VAAなどのデータ参照元

シンカーのSpin Axis一覧

トレバー・ウィリアムズのスタッツ参照元

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