【読書ログ】なぜ働いていると本が読めなくなるのか
働き始めて数年がたつが、心の底ではいまだに社会や仕事というものに慄きながら生きている今日この頃。みんななんであんなに働けるんだろうとつくづく不思議に思ってきた。
なんにも気にせずゆっくり本を読んでたい。と思う日が頻繁にある。
就職した時、これからはすきなだけ本が読める!と喜んでいられたのは一瞬で、いざ働きだしたら読書時間は減る一方だった。唯一増えたのが緊急事態宣言下で出勤日が減った時期だったという皮肉。
いろんな経験を重ねるうちに興味の幅は広がったし、昔はよくわかんないやと思って途中で投げ出しちゃった本も今ならもうちょい理解できる気がする。
なのに読めない…
だからこそ、この本のタイトルに目が釘付けになったのだ。
『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』
三宅香帆著
「ちくしょう、労働のせいで本が読めない!」
冒頭の叫びに私の共感はいきなりMAXになった。この言葉の後、著者の実体験や働く人々の現状、なぜこのテーマを選んだのかの理由が語られるのだが、読みながら何回頷いたかわからない。
みんな、みんな辛かったんだ!
おぼろげに感じていた精神的に自由になることと労働との相性の悪さ。それが非常にわかりやすく言葉になっていて感動した。
それにしてもこんなにたくさんの人間がみんなして苦しい方に走り出してしまっているのはなぜなのか。いったいいつから、どうして、こんなことになってしまったのか。著者はこうした疑問についても丁寧に答えてくれようとしている。
謎を解く鍵となるのは、日本の読書と労働の歴史だ。この歴史がまた大変興味深く、テーマのことも忘れて、へー!そんなことがあったんだ〜とページをめくる手が止まらなかった。時代が移り変わるにつれ読書習慣や読者層、出版事情や売れる本も様変わりしていくのだが、それらの変化に対する分析の面白いこと!
さて、個人的には本書に登場するこの言葉が胸に刺さった。
『仕事以外の文脈を思い出すこと。そのノイズを、受け入れること。』
思えば小説を読む余裕のなかった時期は、なんでもかんでも仕事に関連づけて物事を考え暗い気持ちになっていた。
意識したことはなくとも著者のいう「仕事以外の文脈やノイズ」を私は小説から受け取っていたのだと思う。
余裕があるから本が読めるのか、本を読むから余裕がうまれるのか。ふと考え込んでしまった。
最後に著者が提案する解決法はとてもシンプルだ。具体にどう行動に落とし込んでいくのかはまだまだ議論の余地があるとは思う。働くのも休むのも自分ひとりの問題ではないのが厄介なところで、読みながら「それができたら苦労しないよ!」という気持ちにちょっとなったのも事実。著者自身そのことについては認めている。
だが、この本が売れているということは、多くの人が同じ問いを共有しているということで、それは希望がもてることかもしれない。
読書と労働の歴史の転換点がまたきているのだろうか?
できれば自分も新しい流れをつくるひとりなのだと思いたい。
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