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声劇台本「Talk on the mafia」

利用に際して

好きにご利用頂いてかまいませんが、作者を名乗る行為や二次配布はご遠慮ください。また、配信などでご利用の際は作者ツイッターにご連絡いただければ聞きに行きます。

上演所要時間は約40分です。

登場人物

ジョン・ライ
 警察官。バレバレな嘘ばかりつくため、「嘘つきジョン」のあだ名をつけられている。

シャドウマン
 指名手配されている、マフィアお抱えの殺し屋。

ブライアン・クロフォード
 ホテルマン。ジョンの嘘を信じ、潜伏中の殺し屋の逮捕作戦に協力する。

ダニー・パッカード
 客その一。口が悪く、荒っぽい感じだが暴力は振るわない。箸で食事をする。

ロイ・フォックス
 客その二。スーツを着た痩せ型の男。常にどこかと電話をしていて忙しそう。拳銃を持っている。

ジョーズ・ブラック
 客その三。老人。自分の見た目をやけに気にしている。

その他の登場人物
警察署長(電話のみ)
ホテルスタッフ
シャドウマンらしき声
後輩警察官

本編

■シーン1 ジョンとブライアン


〇電話をしているホテルマン、ブライアンを神妙な表情で待つジョン。

ブライアン「ええ、はい。明日十六時のご宿泊ですね。承りました。お気をつけてお越しくださいませ。はい、失礼いたします」

◆電話を切る音
〇振り返るブライアン

ブライアン「申し訳ございません。お待たせいたしましたジョン様」

  ジョン「いえ。ではブライアンさん。で、このホテルのレストラン……封鎖、できそうですか?」

ブライアン「はい。既に封鎖済みです。ちょうどさきほど、スタッフが各部屋への謝罪を終えたところでございます」

  ジョン「ああ。謝罪……しなきゃいけないんですね。そりゃあそうか。犯人逮捕のためとはいえ、申し訳ないです」

〇頭を掻くジョン

ブライアン「いえ。当ホテルは夕食をお部屋でとるお客様が多いので、さほど苦労はしておりません。なにより、私どもは日ごろから警察の皆様にお世話になっておりますので、これくらいはお安い御用でございます」

  ジョン「……そう言っていただけると助かります」

ブライアン「とんでもないことでございます。しかし、当ホテルにマフィアが潜伏しているなんて」

  ジョン「正確には、マフィアお抱えの暗殺者ですね」

ブライアン「暗殺者でございますか……」

  ジョン「ええ。奴の通り名はシャドウマン……サルヴァトーレ・ファミリーお抱えの、凄腕暗殺者です」

ブライアン「あのサルヴァトーレ・ファミリーの!」

  ジョン「そうです。シャドウマンはその名の通り神出鬼没、正体不明。ヤツの正体を知るものは一人としていないそうです」

ブライアン「はぁ……しかしそんな相手に……その、失礼ですが、ジョン様おひとりで?」

  ジョン「えっ?」

ブライアン「いえ。そんな相手なら、もっと大人数で、こう……周囲を取り囲んで、とか……」

  ジョン「あ、ああ。今回の捜査は極秘中の極秘ですからね! 私のほかにはそうですね……署長くらいしか知りません」

ブライアン「さようでございましたか。大変失礼いたしました。ジョン様は精鋭中の精鋭、という事なのですね」

  ジョン「まぁ、そうなりますかね……精鋭なんて、プレッシャーでしかありませんがね」

ブライアン「はぁ……」

〇怪訝な顔をジョンに向けるブライアン。

  ジョン「さて。宿泊客リストに一通り目は通しましたが、怪しい客を数名まで絞れました。気になった客の部屋には、私が直接行こうと思います」

◆紙束の音

ブライアン「かしこまりました。では、こちらを」

  ジョン「これは?」

ブライアン「ルームサービス係の制服でございます」

  ジョン「なるほど、ありがたい」

ブライアン「どうぞ、着てみてください」

★少し間を置く
◆ジッパーの音

  ジョン「変じゃないですか?」

ブライアン「よくお似合いでございます」

  ジョン「よし、ありがとうございます。じゃあ……そろそろ、行ってきます」

ブライアン「お気を付けて。ワゴンは厨房の裏手にございます。回収は本物のルームサービス係がいたしますので、ジョン様は配膳だけしていただければ結構です」

★少し間を置く
◆ワゴンを押す音

  ジョン「ずいぶん、本格的になっちまったなぁ……まっ、でもシャドウマンを逮捕できたら俺も大出世だ。やってやらぁ!」



■シーン2 一〇四号室ダニー・パッカード


◆ワゴンを押す音

  ジョン「最初は……一〇四号室、ダニー・パッカードか。職業は……会社員? 嘘だろ。監視カメラ映像じゃ、ロードオブザリングのドワーフみたいな見た目だったぞ?」
     「ま、少し話せばその辺も分かるか……さぁて、どうやってマフィアの話を切り出そうか……」

◆ノック音

  ジョン「パッカード様、ルームサービスです」

  ダニー「あぁ? ああ、晩飯か。ちょっと待ってろ」

★少し間を置く

◆ドアを開ける音

  ダニー「入れ」

◆ワゴンを押す音

  ジョン「失礼いたします」

〇ダニーがジョンを見上げて眉間にしわを寄せる

  ダニー「んん?」

  ジョン「何か?」

  ダニー「な、なんでもねぇよ! そこに置いてけ」

◆ダニーが座る音

  ジョン「かしこまりまし……えっと、どこにですか?」

  ダニー「あぁ!? テーブルの上だよ! わかるだろ、それくらいよ!」

  ジョン「えっと……テーブルが書類と酒瓶だらけで、置けないのですが」

  ダニー「気が利かねぇなぁオイ! 片づけて乗せろって意味に決まってんだろぉ!?」

  ジョン「あぁ……」

  ダニー「てめぇ、ほんとにホテルのボーイか?」

  ジョン「えーと……申し訳ございません。新人でして」

  ダニー「フン、新人ね。デルモンテホテルも落ちたもんだな、お前みたいな素人を雇うなんてよ」

〇ジョン、振り返って小声で文句を言う

  ジョン「そりゃマジで素人なんだから仕方ねぇだろ……」

  ダニー「ぁあ!? なんか言ったか?」

  ジョン「あ、いえ! では片づけさせていただきま……」

  ダニー「ああー、やっぱいいい。気が変わった! 俺がやるからお前は出てけ!」

  ジョン「え? しかし……」

  ダニー「いいからテーブルの上は俺がどうにかすっから、いったん出てけ! そのあとまた呼ぶからドアの前に居ろ!」

  ジョン「はぁ……」

★少し間を置く
◆ドアを閉める音

ブライアン「ジョン様、いかがですか」

  ジョン「ぶ、ブライアンさん! どうしたんですか?」

ブライアン「いやぁ……潜入捜査のプロの技を拝見できればという、野次馬根性でございます。で、パッカード様がシャドウマンなのですか」

  ジョン「まだわかりませんが、あの男、私を見て妙な反応をしていました」

ブライアン「なるほどなるほど……どういう事でございましょう?」

  ジョン「ホテル従業員の顔をひそかに記憶していて、潜入捜査を警戒していたのかもしれません」

ブライアン「ああ! それで初めて見かけたジョン様を警戒して?」

  ダニー「おい! 入っていいぞ!」

  ジョン「おっと呼ばれました。また後で」
     「ただいままいります!」

◆ドアを開ける音

  ジョン「失礼いたします」

  ダニー「ほら、これでいいだろ 綺麗だろ」

  ジョン「……ありがとうございます」

〇ジョン、振り返って小声

  ジョン「床においただけじゃねぇか」

  ダニー「早くしろよ!」

  ジョン「申し訳ございません!」

◆食器の音

  ダニー「おい、素人」

  ジョン「え? 私ですか?」

  ダニー「てめぇ以外いねぇだろ……ってこっち向いてねぇで手元見たまま聞け!」

  ジョン「は、はい」

◆食器の音

  ダニー「てめぇよぉ、この仕事の前は何やってたんだよ」

  ジョン「えーと、その……あーっと、アパレルショップの店員を」
  
  ダニー「はぁ?」

  ジョン「え?」
 
  ダニー「あ、いや。服屋か。それがホテルに? 服屋の前は?」
 
  ジョン「えっと、アパレルの前は学生で」

  ダニー「ふぅん……そんならまぁ……いいんだけどよ」

  ジョン「何か?」

  ダニー「いや、あんまり手つきがたどたどしいからよ。気になっただけだ」

  ジョン「それは失礼しました。パッカード様はどこにお勤めなので?」

  ダニー「俺は……大した会社じゃねぇよ」

  ジョン「フフフ……そういう事をおっしゃる方はだいたい大手なんですよ」

  ダニー「言うじゃねえか。まぁ、たしかにでかいっちゃでかいトコだよ」

  ジョン「そうですか。どんな組織で?」

  ダニー「組織……だ? 妙な言い方しやがるな。カタギに見えねえってか!?」

  ジョン「いえ、特に深い意味は……」

  ダニー「フン。まあこんなツラだからな……って俺の顔をじろじろみてんじゃねぇ!」

  ジョン「すっ、すいません」

  ダニー「置いたらさっさと出てけ。ったく。素人の相手してたら腹減ったな」

〇ジョンに構わず食事ととり始めるダニー。

  ジョン「えっ」

  ダニー「なんだよ」

  ジョン「その、それ……日本の箸ですよね」

  ダニー「あっ……いや、それがどうしたんだよ」

  ジョン「珍しいですね」

  ダニー「そうでもねえよ。チャイナタウンでもよく使われてんだろ。スシ食うときも箸だろ」

  ジョン「そうですけど……私の先輩にトムさんって方がいましてね! 器用に箸を使うんですよ。で、トム先輩がですね、箸で食事する器用な人は数えるほどしかいないんだーって自慢してて……」

  ダニー「いいから出てけ!」

  ジョン「はい、失礼しましたぁ!」

◆慌てた様な足音

  ダニー「おい」

  ジョン「はい?」

  ダニー「今の仕事、簡単にあきらめんなよ」

  ジョン「え?」

  ダニー「いや、ホテルの客は俺よりうるせぇヤツが多いって事だよ! ホント素人だな!」

  ジョン「す、すいません」

  ダニー「じゃあな」

◆ドアを閉める音



■シーン2.5 ポンコツ捜査の片鱗


◆ドアを閉める音

  ジョン「ふぅ……」

ブライアン「ジョン様!」

  ジョン「うおっ!? まだいたんですか!」

ブライアン「ええ。実は、お客様から何かご指摘があったらお助けしようと思いまして」

  ジョン「なるほど……私はホテルマンとしては素人も素人ですしね。助かります」

ブライアン「で、いかがでしたか」

  ジョン「怪しいところはありますが……まだ、分かりませんね」

ブライアン「そうですか……何かかわったところは無かったですか?」

  ジョン「テーブルの上の書類を触らせてもらえなかったので、それが少し怪しいのと、私の経歴を探ろうとしていました」

ブライアン「経歴を?」

  ジョン「ええ。やはり潜入捜査を疑っていたのかも。一応、彼はシャドウマンの候補なので外出には注意してください」

ブライアン「かしこまりました。次は……三〇七号室のロイ・フォックス様ですね」

◆書類の音

  ジョン「フォックスの情報……っと。自営業、実業家という事ですが、ここに長期滞在しています」

ブライアン「当ホテルは長期滞在のお客様も多くいらっしゃいますが……」

  ジョン「自営業の人間が何日もホテルに滞在するとは思えません」

ブライアン「えっと……そういうものなのでございすか?」

  ジョン「だってそうじゃないですか。自営業だったら、こんないいホテルに何日もいたら費用がかさみます!」

ブライアン「は、はぁ……」

  ジョン「まぁ、そんなわけでフォックスも怪しいと思いますよ。ワゴンは?」

ブライアン「三階のスタッフ室に待機させております」

  ジョン「わかりました。では!」

◆エレベーターの音

  ジョン「まぁ、たぶんダニーがシャドウマンだろうけど、念のために見ておくかぁ。楽勝だったな! なんで今まで逮捕できなかったんだろ!」

◆ドアを開ける音

  ジョン「どうも、捜査官のジョン・ライです」

 スタッフ「ああ、あなたが! 暗殺者なんて怖いですねぇ。ジョンさんは怖くないんですか」

  ジョン「え?」

 スタッフ「え、だって暗殺者と部屋で二人きり、下手したら殺されちゃうじゃないですか。警察のエースは命知らずだねって話してたんですよ」

  ジョン「あっ……」

 スタッフ「え?」

  ジョン「え、ええまぁそうですね! それが我々の仕事ですから!」

 スタッフ「かっこいい!」

  ジョン「じゃ、じゃあワゴン借りていきますんで、ブライアンさんは……」

 スタッフ「ブライアンさんなら今ほかのお客さまに呼ばれたから、一緒には行けないとジョンさんに伝えておいてくれと連絡がありました」

  ジョン「へ?」

 スタッフ「がんばってくださいね!」

  ジョン「え、あ、はい……」

★少し間を置く

◆電話の音

ブライアン「お電話ありがとうございます。デルモンテホテル、お客様係のブライアンでございます」

 警察署長「レオン・スミスだ」

ブライアン「スミス様! いつもお世話になっております。本日はどのようなご用件でございますか?」

 警察署長「いや、レストランの予約をと思って。急で申し訳ないが、今日使いたいんだ」

ブライアン「あぁ……申し訳ございません。スミス様もご存じの通り、本日はジョン・ライ様が捜査のためにレストランを封鎖しておりまして」

 警察署長「ジョン・ライ?」

ブライアン「え? あの、凄腕の潜入捜査官の……」

 警察署長「知らんな……おい、君。ジョン・ライという名前を知ってるか。なに? そうか…… ああ、待たせたね。ジョン・ライという男は、我が分署の一般警察官の様だが、彼が何か?」

ブライアン「え? でも今、シャドウマンを逮捕すると仰って……」

 警察署長「シャドウマン逮捕? サルヴァトーレ・ファミリーの? それを一般警察官が?」

ブライアン「ええ。極秘任務だからと……」

 警察署長「はっはっは! ブライアン君、キミぃ、冗談がうまくなったね! 去年いた前任の者は、君ほどうまいジョークは言えなかったよ。
      やつは君にろくに引き継ぎもせず、退職したそうじゃないか。君が来てよかったと、支配人も言っているよ」

ブライアン「えーと……ハハハ……恐れ入ります。ただ本当にレストランは現在工事中でして……」

 警察署長「そうか。それは残念だ。じゃあ、またの機会に」

ブライアン「申し訳ございません。お待ちしております。失礼いたします」

◆電話を切る音

ブライアン「ジョン・ライ……あの嘘つき男め、そういう事か……」


■シーン3 三〇七号室ロイ・フォックス


◆ワゴンを押す音

  ジョン「やべぇ……殺される可能性なんて考えてなかったよ……やっぱ報告して皆で捜査したほうがよかったかなぁ……いや。だめだ」
     「嘘つきジョンってバカにしてきたやつらを見返すんだ。俺だって警察官なんだからできるさ! 地方警察の分署勤めだけど……」

◆ノック音

  ジョン「フォックス様、ルームサービスです」

     「フォックス様?」

◆再度ノック音

  ジョン「もしかして、逃亡……?」

★少し間を置く

◆ドアを開ける音

   ロイ「これは失礼しました。電話中なものですか……ら……」

◆ワゴンを押す音

  ジョン「失礼いたします」

   ロイ「ええ。そうです……」

  ジョン「電話長いなぁ……っていうか、さっき、なんで目そらしたんだろ……」

   ロイ「そうですねぇ……やはり慎重に進めたほうが……ええ。確かにそれも一理あります」

  ジョン「出直すか……」
     「あのー、お料理はそちらのテーブルの上に置かせていただいてよろしいですか?」

   ロイ「片づけてからにしましょうか」

  ジョン「かしこまりました」

   ロイ「ええ。そうですね」
  
〇ジョン、振り返って小声で文句

  ジョン「電話しながら片づけてくれよ……」

   ロイ「それではまたのちほど」

◆電話を切る音(ピッ)

   ロイ「あれ? 料理は、わたしが並べなくてはならないのでしょうか?」

  ジョン「え? だって片づけてからって……」

   ロイ「ああ。これは大変失礼いたしました。あれは電話先の相手に言ったんですよ。申し訳ない。一流ホテルのスタッフが、私の電話の邪魔をするなどとは、思っていなかったので」

  ジョン「……そうですか。では置かせていただきますね」

◆食器の音

   ロイ「一流ホテルともなると、食器を置く音も一流の音量ですね?」

  ジョン「え?」

   ロイ「ジョークですよ」

  ジョン「えっと、アハハ……」

◆食器の音

   ロイ「あなた、今日が初仕事ですか?」

  ジョン「ええ。そうですね……」

   ロイ「どおりで。なかなかスリルのある置き方をしていらっしゃるものですから」

  ジョン「それはどうも」

   ロイ「……ところでなぜ、急にレストランが使えなくなったのでしょうか?」

  ジョン「えっと……スタッフがお伝えした通りですが」

   ロイ「ええ。聞いています。厨房の水道管が破裂したんだとか。でもおかしいんですよ」

  ジョン「おかしい? なにがでしょうか」

   ロイ「じゃあ、なぜこうやって料理が運ばれてくるんですかね?」

◆電話のコール音

   ロイ「おっと失礼 はい、フォックスです。ああこれはどうもお久しぶりです!」

  ジョン「そうだよな……料理ができてるんだよ……作戦ミスだなこれは……どうしよう」

   ロイ「ええそうです。今日はデルモンテホテルにおりましてね。ただ残念ながらレストランが使えなくてですね」

  ジョン「っていうかブライアンもスタッフも気付いたら教えてくれたらよかったのに……」

   ロイ「ええ。ルームサービスも新人がやってきておりましてねぇ」

  ジョン「なんて言い訳しよう……」

   ロイ「ええ。はい。はっはっはっ」
 
  ジョン「っていうか電話が長いんだよ……さっきもずっと目を逸らすし、俺なんて眼中に無いよ、ってか。嫌味なやつ」

〇ロイ、ジョンを一瞥して少し離れる

   ロイ「もちろんです。私の成功率、ご存じでしょう?」

  ジョン「成功率だって?」

   ロイ「当然です。私の通り名を知らないとは言わせませんよ。フフフ……」

  ジョン「通り名……! まさか……」

   ロイ「ではまた今度」

◆電話を切る音(ピッ)

   ロイ「なんどもすみませんね。で、新人さん。で、なぜ料理が作れたんです?」

  ジョン「えっと、それは……」

   ロイ「まあ、新人さんに聞いても仕方ないですね。あとで支配人をよこしてください。私はここのレストランが好きで宿泊しているのですから」

  ジョン「いえ、私がお答えします。実はですね……」

   ロイ「実は?」

  ジョン「ここだけの話……アレが出まして」

   ロイ「アレ?」

  ジョン「ええ。それ以上は言えませんが……お察しいただければ」

   ロイ「衛生面に問題があると。じゃあ、この料理は?」

  ジョン「出たのは厨房ではなくホールなのでご安心ください。ところでフォックス様……」

◆電話の音

   ロイ「おっとまた電話だ。ありがとう、もういいですよ」
  
  ジョン「……」

   ロイ「ああどうも。ご依頼の……」

  ジョン「依頼……」

〇怪しまれないようにゆっくりとドアに向かうジョン
◆足音

   ロイ「いつもの口座に。ええ」

  ジョン「口座……」

   ロイ「捜査は……」

  ジョン「捜査だって?」

〇振り返るジョン
◆バッという音

   ロイ「ちょっと失礼。かけなおします」

◆電話を切る音(ピッ)

   ロイ「新人さん。いけないな。立ち聞きは……」

◆足音

  ジョン「ひえっ! 撃たないでください! 失礼しましたァ!」

◆ドアを閉める音


■シーン3.5 チャンスを掴んだとっさの嘘


  ジョン「……ふぅ……フォックスのやつ、内ポケットに手を突っ込んでやがった……拳銃を持ってるのか?」

  ジョン「ブライアンさんは……まだ戻らないか。次は、一三〇六号室、ジョーズ・ブラック……」

◆エレベーターの音

  ジョン「なんだか怖くなってきたな……こんな捜査……無謀だったのかな……数時間前に、あんなこと聞いちまったばっかりに……」

◆シーン切り替え音

◆車が行きかう都市の環境音

  ジョン「ピーピッピー♪(口笛) はぁ、今日も平和だねぇ。一応、こっちも見回りますか」

  ???「シャドウマンです……」

  ジョン「えっ」

  ???「デルモンテホテル……そうです」

  ジョン「今、シャドウマンって」

  ???「そろそろ動かなければ……ええ」

  ジョン「おいおいマジかよ、指名手配中のシャドウマンか?」

  ???「捜査も……そう……警戒して……ですから」

  ジョン「捜査を警戒! マジかよ、こりゃ間違いねぇ!」

◆走る音

  ジョン「警察だ! アレ? 誰もいねぇ……って、ここ、デルモンテホテルの裏手か……」

◆車が通り過ぎる音等の環境音

ブライアン「あの……」

  ジョン「はい?」

ブライアン「当ホテルに、なにか御用でしょうか?」

  ジョン「え? ああ、その……実はそう、そうなんです! このホテルに指名手配犯が潜伏しているという情報がありまして!」
     「捜査にご協力いただきたく……」

◆エレベーターの音
◆エレベーター到着音(チン)

  ジョン「はぁ……勢いで嘘ついたのはいいけど……これからどうしよう……」
    
◆ワゴンを押す音

  ジョン「悩んでても仕方ねぇ。やるか……!」


■シーン4 一三〇六号室ジョーズ・ブラック


◆ワゴンを押す音

◆書類の音

  ジョン「ジョーズ・ブラック……監視カメラじゃ体格のいい男としか分からなかったが……七三歳か。こいつはハズレっぽいな」
     「一応、見るだけ見てみるか」

◆ノック音

  ジョン「ブラック様、ルームサービスです」

◆再度ノック音

  ジョン「ブラック様!」

◆ノック音

  ジョン「ブラック様ぁ?」

★少し間を置く

◆ドアを開ける音

 ジョーズ「なんだ?」

  ジョン「あ、あの、ルームサービスです」

 ジョーズ「ああ。晩飯か。入れ」

◆ワゴンを押す音

  ジョン「失礼します」

◆どかっと座る音

 ジョーズ「そこに置いて行ってくれ」

  ジョン「あ、あの……テーブルの上の書類はいかがなさいますか」

 ジョーズ「……」

  ジョン「あの、書類は……」

 ジョーズ「……ん? どうした、料理を置かんか」
  
  ジョン「え、あの……テーブルの上の書類はどうなさいますか?」
 
 ジョーズ「横によけておけ」

  ジョン「……はい」
    
◆書類の音
◆食器の音

 ジョーズ「お前……」

  ジョン「は、はい!」

 ジョーズ「わしの顔をどう思う」

  ジョン「へ?」

 ジョーズ「どう思うと聞いておる」

  ジョン「えっと……お若くて精悍なお顔つきでいらっしゃいますが」

 ジョーズ「なに!?」

  ジョン「ひえっ……そ、その、年相応でよろしいお顔かと!」

 ジョーズ「ふむ……」

◆食器を置く音

  ジョン「あの……さっきから耳を触ってらっしゃいますけど……」

 ジョーズ「なんだって?」

  ジョン「あ、いえ……」

 ジョーズ「お前、さっきからわしに遠慮をしてないか。わしは何かおかしな顔をしておるか!?」

  ジョン「いいえ! ぜんぜんまったく!」

 ジョーズ「なら良い……」

〇ジョン、振り返って小声でつぶやく

  ジョン「さっきから圧がすごいんだよ……」

 ジョーズ「若いの」

  ジョン「はっ、はい!」

 ジョーズ「さっきは年相応と言ったが……わしは、本当に老人らしくできているか」

  ジョン「えっ……」

 ジョーズ「体つきがこんなだろう。筋肉があるのでな」

  ジョン「あ、ああ。お体つきは非常に頼もしいですが、お顔はご年齢相応……いやぁ、やっぱりお若いかな……」

 ジョーズ「そうか」

  ジョン「あの……お若くても、良いと思いますけど」

 ジョーズ「……うむ。まぁ、そうか……」

  ジョン「何か、お若くて気になることがあるんですか?」

 ジョーズ「ん? あ。いや……」

  ジョン「お若く見えていると……お仕事に、支障があるとか」

 ジョーズ「ん、そうだな……若く見えていると、舐められるというのはある」

  ジョン「そういうお仕事なんですね。依頼料もお高いお仕事とお見受けしました」

 ジョーズ「……依頼?」

  ジョン「え? ああ、こう、クライアントから依頼を受けるようなお仕事なのかと」

 ジョーズ「……そんな大層なことはやっとらん」

  ジョン「そうですか……ところで、さっきから耳をさわっていらっしゃるのは? 古傷とか?」

 ジョーズ「ん? あ、ああ。耳が遠くてな」

  ジョン「それで耳を触るんですか?」

 ジョーズ「何が言いたい!」

  ジョン「い、いえ! 気になっただけで!」

 ジョーズ「……気にしすぎはよくない事だ。聖書にも、おおらかであれという教えがある」
  
  ジョン「はい……」

 ジョーズ「だが、君の様な者がいて、救われる者もいる。偽らず、素直にものを言えるのは良いことだ」

  ジョン「そうですか? 普段はいい加減な事ばっかり言うから、名前をもじってザ・ライアー・ジョン……嘘つきジョンって言われるんですよ。ハハハ……」

 ジョーズ「嘘つきジョン……か」

  ジョン「ええ。」

 ジョーズ「いいや。そんなことはない。この顔を若いだとか、耳を気にして触っていることを教えてくれた者はいなかった。君は素直だよ」

  ジョン「あ、ありがとうございます」

 ジョーズ「君は人につけられたそのあだ名に、引っ張られているだけだ」

  ジョン「あだ名に、引っ張られているだけ……」

 ジョーズ「そうだ。それだけ根が素直なら、正直に生きると良い。私も本当は、嘘は嫌いだ。だが……今は嘘で塗り固められている様な状態だ。気分が悪い」

  ジョン「……俺と違うなら……、すぐに変われるなら、素直でもいいと思います」

 ジョーズ「ん?」

  ジョン「俺、嘘つきジョンだけど、すぐばれるから嘘つきって言われるんです。つい、口から出まかせがでちまう。本当は直したいんです。でもなかなかできなくて。素直なんて言ってくれたのは、初めてです。うれしかったです」

 ジョーズ「君は自分に自信が無さそうに見える。自信を持ちなさい。そうすればそのうち、嘘なんぞ口から出てこなくなるだろう。素直な気持ちに、自信を持つんだ」

  ジョン「ありがとうございます。ブラックさんも、どうか素直になれますように。それでは」

 ジョーズ「ああ」

  ジョン「失礼いたします」

◆ドアを閉める音


■シーン5 シャドウマン


  ジョン「自分に自信持てたら、こんな事にはなってねぇんだろうなぁ。うう……嘘つきジョンの馬鹿野郎……いや、まだ間に合うか。うん、正直に、嘘だったってブライアンさんに話そう」

◆走る足音

ブライアン「ジョン様! ブラック様とフォックス様は、いかがでしたか」

  ジョン「ああ、ブライアンさん! そうですね……ブラック氏は、たぶん違うと思います」

ブライアン「そうですか。では、パッカード様かフォックス様が怪しいと」

  ジョン「……そうなりますね……あの! 実は……」

◆携帯電話の音

ブライアン「失礼。 ああ、私だ。なに? 分かった。ちょうどジョン様も一緒にいらっしゃる。ありがとう」

  ジョン「どうしました?」

ブライアン「早くこちらへ!」

  ジョン「えっ? えっ?」

◆走る音
◆エレベーターの到着音
◆エレベーターの音

ブライアン「パッカード様がお部屋を出られたとのことです」

  ジョン「それは……」

ブライアン「怪しいですね。駐車場に向かっているそうです」

  ジョン「……間に合いますか?」

ブライアン「従業員勝手口が駐車場に出るようになっておりますので、間に合います!」

◆エレベーターの到着音

ブライアン「さ、こちらです」

◆走る音

ブライアン「こちらです。私は駐車場のシャッターを閉める様に指示をしてまいります!」

◆ドアを開ける音

  ジョン「……仕方ねぇ。嘘つきジョンはこれで最後だ。捕まえりゃ、これも嘘じゃなくなるしな」

  ダニー「ああそうだ。俺はもう出ていく。バレてるかもしれねぇ」

  ジョン「バレてるかもだって? やっぱりあいつがシャドウマンか……」

  ダニー「そうなんだよ。まさか単独で捜査しにくるなんてよ……」

  ジョン「間違いない!」

◆足音

  ダニー「ああ。頼むぜ」

  ジョン「警察だ!」

  ダニー「え?」

  ジョン「シャドウマン! 逮捕する!」

  ダニー「おい、俺は……」

  ジョン「言い訳は署で聞く!」

  ダニー「ジョン! あぶねぇ!」

◆銃声
◆ナイフの落ちる音

  ジョン「へ?」

   ロイ「大丈夫か!」

  ジョン「あ、あんたはロイ・フォックス! やっぱり銃を持って……って、ブライアンさん!? なんでここに! 手を撃たれ……え? ナイフ?」

ブライアン「うぐ……」

  ダニー「やっぱてめぇがシャドウマンか! ブライアン・クロフォード! 逮捕だ!」

  ジョン「ええ?」

   ロイ「そのナイフ……ジョン君を殺そうとした現行犯だ。観念しろ、シャドウマン!」

ブライアン「くそっ……お前らも捜査官だったのか……こうなったら!」

  ジョン「は?」

◆ガバっという音

ブライアン「こいつがどうなってもいいのか! お前らの仲間なんだろう!」

  ダニー「ジョン!」

  ジョン「ぐっ……ぶ、ブライアンさん……あんたがシャドウマン……?」

ブライアン「そうだ。すっかりしてやられたよ。お前みたいなポンコツ捜査員をおとりにして、俺を誘い出すなんてなぁ……」

   ロイ「ジョン君を放せ! すでにほかの捜査員も呼んでいる! 逃げられんぞ!」

ブライアン「ここは駐車場だ。逃走用の足がゴロゴロあるんだぜ? 来い!」

  ジョン「ぐっ……」

ブライアン「おかしいと思ったんだよ。お前みたいな下手くそな嘘しかつけないやつが、単独で捜査に来るなんて」

  ジョン「ううっ……」

ブライアン「まさか奴らが、俺をあぶりだすためにこんな手を使うなんてな……」

  ジョン「あ、いや、それは」

ブライアン「このホテルは駐車場が一番、殺しをしてもバレない。俺がお前とパッカードを殺そうとするのを、フォックスが止めて逮捕って筋書だったんだろ。こんなだまし討ちにあったのは初めてだ。最近は警察も賢くなったじゃないか」

  ジョン「そ、そうだろ……俺は精鋭だからな……」

ブライアン「嘘ついてんじゃねえ。お前はただ命令されて捜査に来ただけなんだろう? 何も知らない哀れな囮野郎が。バレバレなんだよ」

 ジョーズ「だがな、そのバレバレの嘘のおかげで、私がここにいる」

ブライアン「なっ?」

◆鈍い殴打音

ブライアン「がはっ……」
 
◆倒れる音

  ジョン「た、助かったぁ。ブラックさん、ありがとうございます! でもなんでここに?」

 ジョーズ「君は素直だ、と言ったろう。何かを探っているのがバレバレだった。気になってつけてみたら、我々が目をつけていたブライアンと駐車場に向かったのが分かったから、先回りしたんだ」

  ジョン「バレバレでしたか……」

  ダニー「ジョン! ……って、シャドウマンを一撃でのしちまってら。さすがは特殊部隊」

  ジョン「え? その年齢で特殊部隊?」

 ジョーズ「変装だよ」

◆ビリビリと破れる音

  ジョン「うわ、若い! だから歳の事気にしてたんですか!」

 ジョーズ「そうだ。変装なんて初めてだから気になって気になって。ようやく脱げたよ。嘘をつくのが嫌で、変装すること自体、気分が悪かった。耳元がマスクの継ぎ目でね……耳を触っていたのを指摘されて、びっくりしたよ」

  ジョン「なるほど。でも、なんでわざわざ、嫌いな変装を?」

 ジョーズ「私はサルヴァトーレ・ファミリーと戦った事がある。だから、顔を変えていたんだ」

  ジョン「じゃあ、パッカードさんも?」

  ダニー「まだわかんねぇのか。警戒して損したぜ。俺だよ、嘘つきジョン」

◆ビリビリと破れる音

  ジョン「ああー! トム先輩じゃないですか! 髭のせいで分からなかった! 出世して異動した事しか教えてくれなかったのは……こういう仕事をしてたからですか!」

  ダニー「そうだよ。いやぁ。お前が突然俺の部屋に来て……経歴で嘘をついたもんだから、転職したわけじゃなく、何かの捜査をしてると思ったんだ。バレちゃいけねえから、さっきは捜査から降りようと思って、電話してたんだよ」

  ジョン「はぁ……そうだったんすね……」

  ダニー「そうだったんすねじゃねぇ! お前のせいで半年がかりの捜査がダメになるところだったんだぞ!」

  ジョン「す、すいません!」

   ロイ「まあまあ。いいじゃないですか。トムさん。我々だけだったら、逃げられていたかもしれませんよ」

  ジョン「ろ、ロイさんも変装ですか?」

   ロイ「いや、私はこの管轄の人間じゃないから、変装はしていなかったんだけど……君は分署で見かけたことがあって。思い出されると厄介だったんで、目をそらしていたんだ」

  ダニー「分かったか、ジョン。特殊部隊一人借りてまで仕掛けた作戦だったんだぞ。お前の独断は……」

  ジョン「あわわわ……」

  ダニー「大手柄だ!」
   
◆肩をたたく音

  ジョン「へぇ?」

 ジョーズ「当然だ。あのシャドウマンがあそこまで油断したのは初めてだ。君の素直さのおかげだな」

  ダニー「お前のバレバレな嘘が、今回は役に立ったぜ。だが二度と同じようなことはするなよ」

  ジョン「は、はい……」

   ロイ「ジョン君は私が作戦に引き入れたことにします。出世できるかもな、ジョン君」

  ジョン「えっ!?」

  ダニー「あんまりこいつを調子づかせないでください。また嘘つきますよ」

 ジョーズ「それはやめるんだろう? ジョン君」

  ジョン「え、ええ、そうですね……」
 

    
■エピローグ 嘘つきジョン


〇ジョンのナレーション

 ジョン「こうして、嘘つき新米捜査官の俺、ジョン・ライは指名手配の暗殺者シャドウマン逮捕に、思わぬ形で貢献したのだった」

 ジョン「俺の嘘はブライアン……シャドウマンには早々にバレていて、あのとき俺は、ヤツに駐車場に誘い込まれて、トム先輩ごと、殺されるところだったらしい」

 ジョン「シャドウマンはもともと、一年前からあのホテルで働きながら、サルヴァトーレ・ファミリーからの依頼をこなしていた」

 ジョン「前任のホテルマンも、ヤツに殺されたらしい。自分がホテルに入り込むために従業員を殺すとは、恐ろしい男だ」

 ジョン「そして、捜査の手が伸びてきたことに気づいたシャドウマンは、逃亡を企てていたのだが……ちょうどそのとき現れた俺を、自分を追う捜査官だと思ったらしい」

 ジョン「ところが、俺が立てた作戦は穴だらけ、推理や嘘も下手だったこともあり……すっかり油断したヤツは、俺を始末してから逃亡しようと考えた。それが、仇となったのだった」

 ジョン「まぁ、俺はといえば、たまたま駐車場で電話をしていたダニー・パッカード……トム先輩のおかげで、命拾いしただけなんだけど」

 ジョン「嘘は下手くそだし、戦いでも足を引っ張ったけど……俺は潜入捜査をしていた三人を怪しいと見抜いてコンタクトを図ったことが評価されて、ロイ・フォックス……本名アラン・ウルフさんが俺の事を見出してくれたのだった」

 ジョン「自分はバレバレな嘘しかつけないくせに、嘘を見抜く才能は、どうやら人並み以上だったらしい。おかげで今では、それなりに活躍できているってワケ」



 警察官「ライ捜査官!」

 ジョン「おう、どうした」

 警察官「聞きましたよ。5年前のシャドウマン逮捕、ライ捜査官のお手柄だったんだとか!」

 ジョン「ああ。その話か。あれはな……俺の作戦勝ちだったんだよ」

 警察官「へぇ! どんな作戦を?」

 ジョン「それは……俺がおとりになるという作戦でな……」

 警察官「へぇー! さすがライ捜査官、勇気ある作戦です!」

ジョーズ「ジョン君」

 ジョン「あっ!」

ジョーズ「君、素直に生きるんじゃなかったのか」

 ジョン「それは、そのぉ……ほ、ほら! あの時は結局、俺の作戦があったから逮捕できたわけで……」


 ジョン「俺の嘘つきクセはまだ、治りそうにない」

END

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