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失敗★蓮ストール 27-Ⅱ

【 雨宮蓮へのインストールに失敗しました! 】

♯夢小説 ♯ペルソナ5ロイヤル ♯女主 ♯成り代わり
夢主は周回プレイ記憶者です。



 \前回までのあらすじァ!!/

 5/25、マダラメパレス攻略成功。
ファミレスで『勇者の試練』をやりながらワイワイ騒いで、
夜、予告状への反響を確認しているところに、モルガナと改めて真面目な話をしたり、
深夜、更に突然来訪したカスミ先生と話し合ったりして、床についた。

しばらく日常よ〜






 5月26日


 ピピピピ。
電話? 朝から? 珍しいな…。 ピ。

『喜多川だ』

喜多川だったかぁ!
朝食もすませ制服に着替えて身支度を整えた俺を、カバンの中からモルガナが見上げている。

「おはよう」
『おはよう。斑目の様子だが、とりあえず廃人になったりはしてない。後は…物腰が柔らかくなったかもな。あれが…改心なのか?』

……。俺たちが見ていた斑目さえ、物腰を演出していたのか…

「……まだわからない」
『そうだよな…』

祐介を不安にさせてしまう答えであることはわかっている…。

『気になって鴨志田のときの事も調べてみた。…人が変わったようになるらしいな。なら、先生も……』

“先生”も…。

『…時間を取らせてすまなかったな。話は、それだけだ…それじゃあ……ああ、例のパレスで聞いた、黒い仮面の人影の話も、折を見て訊いてみる。それじゃあ、今度こそ』
「ああ。行ってらっしゃい」
『え?』
「? だって、これから学校だろう?」
『え?』

え?

『……行ってきます?』



 昼休み。

「雨宮くーーーーん!!」

危なかった。
立っていたら多分今頃胸元に三島の頭突きを受けていたに違いない。授業終わりのベルからどこで昼食を取ろうというためらいが俺を救った…!

「ねえねえねえねえねえねえ!! 見た!?見たよね!?雨宮なら見てるよな!?」

と、目が完全に星と化した三島がガッチリ肩を掴むものだから「あゎわわ」みたいな変な声は出るし、前の席の杏がドン引いている。

「予告状!!!!!」
「こ、声がでかい……」
「だってさ! やっぱり怪盗団はやってくれたんだよ!!」
「だ、それは、中庭とかの、話で……」
「全然予想すらしてなかったよ! 文面もカッコよくなってたしさ、けどさ、俺的には全然相手が何してるかわかんないワケで、怪盗団はどうやって、何を、突き止めたか…!」

 バシッ!!

「いったぁ!!」
「これ以上うるさくするなら外出ろ、三島!」

杏が分厚い世界史の教科書を手に構えていた。た、助かった…?

「い、いてててて……。高巻さん、容赦ないよぅ……」「フフッ。電子辞書でも良かったんだよ?」
「うわあ! すみません!!」
「この教室でマトモに怪盗信じてるのなんて、三島くんくらいなんだから…蓮まで変な目で見られてるし、仲良く話すなら外出ろ、外」

と、からかって楽しそうにゆらゆら教科書を揺らす。
俺はやっと解放されたため息を大きくつき、カバンを大きく開けて、席を立つ。「話なら聞くから、ごはん食べよう」と言うとパーッと三島の目が輝いた。
俺が聞かないと、どうなるかわかったもんじゃなし。


「…………でも、監視カメラには何も映ってないらしいんだよ? こんなの絶対怪盗の手口だよ!」

うんうん、と笑って頷きながら弁当の解凍グラタンに箸を入れる。
三島はその場にスマホを置き、画像フォルダをスライドしていく。全て、今回の予告状に関する写真だ。中にはそれを手にしている者もいれば、あの斑目とスタッフの予告状についてのやり取りを撮ったものもある。

「怪チャンはどうだ?」
「もう荒らしがいっぱい!」

ニコニコして話す内容ではない。

「でも代わりに、斑目巨匠のこんな悪いウワサが…って持ち込む人もいてさ。大討論会になってるから、どれがただの荒らしかわかんないよ」

フォルダを移って、今度は画面スクショをゆっくりスライドしていく。斑目への予告状に憤慨する者、著名人への黒い箔に嫉妬から来る喜びを剥き出しにした書き込みをする者、関連リンクを貼り付ける者…。

「今は審議待ち! って、俺の中では絶対怪盗に正義があると思ってるよ!」

三島が夢中になっている隙に、モルガナにクッキーを与える。

「虚飾…盗作…。この斑目って先生、いったい何をやったんだろうね? どうせ鴨志田みたいに、全っっっ部悪いこと自白しちゃうんだろうけどね!」

信頼が重すぎて言ってることが怖い。
三島は改めて、予告状写真フォルダを見る。

「やっぱり気になるのは、この新しい『マーク』だよね! かっこいいなぁ〜…」

お気に召されたみたいだぞ、祐介。
俺もひと通り終わってから、予備の一枚をもらっている。もちろん、家にあるので、軽々しく出せはしない。ものすごく欲しそうにしているのを見ると、所有者に凸をかまし始めそうで怖い。

「……まあ、そうは言っても、近頃の人のウワサってすぐ鎮まっちゃうからね。ウーン、それでも数日は徹夜で奮闘かなあ…」
「午前の授業、思い切り寝てたものな…」
「こんな大事な時だもの。午後だってぐっすり寝て、怪チャン運営に備えるよ」
「おいおい…」

次のクッキーをモルガナが俺の指ごとくわえてしまっている。三島には怪盗団の取り決め『高校生活をおろそかにしないこと』を聞かせてやりたい。
 モルガナの口がしっかりクッキーをくわえたのを確かめて、俺は最後の緑のバター炒めを食べる。

「そうだ。三島、ちょっといいか? 今、連絡すべきことを思い出して」
「ん? いいよ?」
「ちゃんとお茶飲んで食べろよ……って食べれてない」

三島のハムエッグサンド、半分も食べてない。あとコロッケパンもあるのに大丈夫か。
俺は祐介へのチャットを開く。
内容は簡単に言えばメメントスと、俺の独自選定ターゲットについて、説明するから一度アジトの通路に来てほしいという内容。もう少し休んでほしいから今日はみんなで集まるわけじゃないが、というのも付け加えて。

「雨宮ってホント大変そうだよねー」
「そうだな…」
「…ところで聞いたんだけど、『丸喜先生に目つけられてる』ってホント?」

 へっくしゅん!!
…それはどういう意味だ!?(!?!?)

「いやいや、ホントに一部の女子が流してるだけのウワサだから、俺は気にしてないけどさ。カウンセラーを入れたのは、鴨志田の被害者もそうだけど、犯罪者の更生プログラムの一環がどうこうとか…。根も葉もないから、丸喜先生ファンが適当言っただけなんだろうけどね〜」

どうすればいいんだ。
丸喜先生とコープ関係にあるのは事実!




 ……放課後。
いくつかの連絡を受けつつ、一番に祐介と合流していた。下校時間を合わせてのことだ。

「……メメントスの中でも欲望がデカくなりすぎたヤツが持つのがパレスなのさ」

と、モルガナが講義を終える。

「ふむ…」

今日はターゲットの大きなファイルを持ってこれなかったため、名前のリストだけ渡しておく。これも全会一致で決めるから、一応、と。

「メメントスか……。聞き覚えが、ある気がするな……」
「聞き覚えぇ?」

モルガナが首を傾げる。

「本当に、朧気な記憶だが…。食事の席で話されていたことが、独特な言葉だったから、覚えているんだと思う……。何だったかな…抽象画、宗教画のモチーフ…メメントス…ケテル…クリフォト……」

ラスダンの名前ぇ!

「……いや、考えても仕方あるまいか。あの先輩の絵のテーマは、俺とは違ったからな」

思考放棄の切り替え早っ!
…いや、モチーフに気付かれても困るのだが。しかし、そうやって話題に出るということは、図書館で調べれば単語がヒットするジャンルなのかもしれない。ネットは…そういうのをヒットさせるのは至難の業の場だからな。

「ところで……これは本当にもらっていいのか?」

 できるだけカモフラージュできるよう、使い終わってすぐ乾かしたジャム瓶の中には、蜂蜜漬けにした果物が入っている。

「ユースケを甘やかすと、他の2人が怒るぞー?」
「いいんだ。改心したかどうかわからない人物との生活、負担もあるだろうと思って。それでも、絵は描き続けているんだろう? 完成への応援、差し入れだ」
「……蓮……!」
「やれやれ…」

モルガナが呆れて呟く。祐介は高い背に小さく見えるジャム瓶を胸に抱いて、フッと笑う。

「ありがとう……いただきます」



「そうだ! 私、例の特訓始めたから。良かったら付き合ってよ」

 渋谷駅地下モール。杏がそこにいると聞いて訪ねた。
彼女の『例の特訓』とは、『心を強くする特訓』のことだ。

「どんなのだ? 聞かせてくれ」
「やった! じゃあ、行こっか」

杏はパッと笑い、俺の手を引く。

「わわっ、引っ張らなくても…」
「……ふふっ! 蓮の手、ゴツゴツして力強いのに、指先はちゃんとしてて…綺麗に保ててるみたいだね!」
「そ、そうだな…料理してる時とかに、割れてたら痛いし」
「冬場の主婦みたいな話しちゃって。でも、久しぶりだね、蓮と普通にこういう話するの。ふふふ…香水もちゃんとつけてくれてるみたいだねー」
「……か、髪も、まだよくわからないけど、最近はセットしてる」
「カワイイ〜」
「か、!?」

モルガナがカバンから顔を出す。

「やれやれ、カップルみたいに見られてるぞ。ワガハイ、渋谷駅で散歩してるから、帰りにちゃんと拾えよな?」


 そうして杏が連れてきたのは『井の頭公園』だった。
今度のゴミ拾い企画にもピックアップされている、東京の中でも一際自然豊かな場所だ。中には池もあり、ボート乗り場も併設されている。
それはさておき。さておき?
杏は思い切り体を伸ばしている。

「広い場所だと、やっぱ気持ちいいねー! 特訓、はかどりそう! こないだ言ったでしょ? 心を強くしたいって。その方法、考えついたの!」

天真爛漫に笑いながら話す彼女に、「どんな方法なんだ?」と座った身を乗り出す。

「あのね、心が強いっていうのは、動じないってことだと思うんだ。動じないでみせるから、私に何か言ってみて!」
「……それが特訓?」

どやっと仁王立ちになった彼女に、確かめるために尋ねる。

「もう始まってるよー! そんなんじゃ動じないよー! ほら、何か言ってってば!」

彼女もたいてい自由な人だ。
何を言おうかな…。罵倒はあまりしたくないし…

「個性的だな」
「はいはいはい、それで?」
「杏はがんばりやさんだなあ」
「ほうほう、それからどしたー?」
「そんな杏を愛してる」

 ━━魅力全開━━
ひゃあっ!と杏が女の子らしい悲鳴を上げる。

「ちょっ…な、何言ってんの!? ていうかそれ、反則だから! 蓮、反則負けね!」

もー!と赤ら顔を膨らませて地団駄を踏む杏が本当にかわいらしい。思わずクスクス笑ってしまう。

「…あれ、そういうゲームだっけ?」
「違う違う」
「蓮のズルし!」
「杏は本当にかわいいなあ」
「ばか! 撫でるな! 蓮は女の子! まったくもう!」

ムスッ!と杏はそっぽを向くと、そのままその場に座り込んだ。…耳をふさいでしまっている。

「第二回戦っ! よーし、来い!」
「動じないとかの問題…?」
「…………」

(´・ω・`)な顔で目を開けた杏が、うんしょと立ち上がる。

「ねえ…これでペルソナが強くなっても微妙じゃない……?」
「そうだな」
「おっかしいな、なんか違うなぁ…」

 ぴぴぴぴ。
杏のスマホが鳴る。「あっごめん、事務所からのメール」と、手早く中を確認する。

「今度の現場は…うわ、遠い…へー、なんだそれ…」

俺が彼女の呟くさまを見つめていると、彼女が顔を上げる。

「モデルの事務所から、業務連絡。次の現場の場所と、注意だって。『最近、モデルが現場に来ないことがある』って。スタッフが確認すると、みんな『日程が変わったって聞いた』って…代役のモデルを立ててしのいだりして、現場が混乱してるんだってさ」
「杏、モデルもやってるんだな」
「言ってなかったっけ?」
「ヌードモデルじゃなくて」
「普通の!」

ぽこっと杏が叩く。ごめんごめん。

「杏は平気か?」
「うん、今のとこ何もないよ。いきなり代役とか、現場が混乱してそー。当たらないといいけど…あ、でもね」

杏が自分の髪をくるりと揺らす。

「最初のステージも代役だったんだ。まだ、フィンランドにいた時。親のイベントで、モデル足りないって言われて。…あ、両親家にいない理由も言ってなかったっけ?」
「聞いてる。ファッションデザイナーで、色んな国行ってるんだろう」
「そうだね。……今は、半年も家に、いないかな」
「寂しい?」
「んーん。さすがに慣れた」

そうなのか。こちらの方が寂しく思えてきそうだ。

「小ちゃい頃は、やっぱりね…ずっとお手伝いさんと2人とかでさ。友達もいなかったし… …って、暗いな! あはは…」

うつむきかけた杏が、作り笑いをする。

「親と…繋がってるって気がするのかも。モデルやってると。キレイな服着れるし、嫌いじゃないけどね。モデルとしてやってこう…とかはないかな。鴨志田みたいのに目つけられたりするし、クラスでヒソヒソされたりするし…」杏の疎外感は、モデルをやっている理由もあったか。「それに今は、怪盗団の方がずっと大切だし。代役なんてナシ。私にしかできないこと、だもん。だから、もっと強くならなきゃね!」

いよっし! と杏は、気合いを入れ直した。

「そうだ、そう言えばね、小さい頃見てたアニメで、いたの。怪盗の女ボス。ヒーローのライバルってとこ。最後、いっつもやられて逃げ帰るんだけど、なんかね、カッコイイなって思ってた。ヒーローじゃないから、『いい人』じゃないんだ。美人で、強くて、一途で、ちょっとセクシーなの」

 ドロンj……

「憧れのお姉さんだな」
「うん。言いたいこと言って、やりたいことやって…正義を、自分で決めてる。いいな、カッコイイなって。そういう人になりたいなって思ってた。ちょっとずつ、近づいてるといいな」

じゃあね、とその日は別れた。


ピピピピ。

『おーっす、私。今日は付き合ってくれてありがと! あの後さ、カッコイイ女性をイメージしながら、帰り道にウォーキングしてみたんだ。そしたらね、近くにいた女の子が真似して、一緒にモデル歩き始めたんだよ! 私を見て、少しでもカッコイイって思ってくれたってことかな?』
「ふふ。そうかもな」

さすが杏。本当に美人だもんな。もちろん、中も強い女性だ。

『えへへ、なんか照れちゃうかも。でもさ、だったらあの子に申し訳ないよ。本当の私は、全然カッコよくないんだから…。うーん…まだまだ先は長そう。でもね、私諦めないよ。強くなる、って決めたんだから。そのためには、何だって乗り越えなきゃ!』
「ああ、応援してる」
『話、聞いてくれてありがとう! じゃあ、またね!』

スマホをしまう。

さて、コインランドリーに洗濯物を持っていこう。…収入があったから、洗剤を変えるのもいいか…こういうことは杏に相談だ。佐倉さんの渋い顔を想像したが、なぜか出てきたのは笑顔だった。




 熱心に家事に取り組んでいたら、すっかり夜だ。
『夜の街』が動き出す時間帯━━。


 渋谷駅・駅前広場。
俺はまたこの場所に来ていた。
演説に夢中の、吉田寅之助先生を電車裏からモルガナとじっと見つめる。

「なあなあ、ヨシダの演説スキルだけど…シャドウとの交渉に役立てるってのはどうだ?」
「俺も同じこと考えてた」
「さすが、レン! 目の付け所が冴えてるな。ワガハイ、ちょっと隠れてるから、頼んでみろよ!」

するりと猫が抜け出したのを確認して、俺は彼に歩み寄った…。

「こんばんは━━」

かくかくしかじか、ないない…

「…なぜ、そんなことを?」

と、少しの驚きを交えながら、吉田先生は真剣な眼差しで俺を見つめた。

「吉田先生と同じことをしてみたいんです」
「それは是非、力になってあげたいが…どう教えたものかねぇ。…演説の時間だな。この件は後で話そう」
「……では、今日も手伝わせていただけませんか?」
「そう言ってくれるのかい? 私なんかのために…助かるよ、ありがとう」

今日も吉田先生を助けるのは、小さな高台とプラカード一枚だ。


「豊かに見える日本社会ですが…たくさんの若者は恩恵を受けていません。仕事がない、保障がない、蓄えもできない…未来を担うはずの若者が、未来を描けないでいるのです」

 そう話をしていた駅前広場の視線が、にわかにある方へ移り始める。ケンカ騒ぎが始まったらしい。

「…これはいかんな」
「止めましょう」
「もちろんだ」

すぐにその答えが出る吉田先生、やばい(語彙)

「━━ケンカはやめなさい! 大した理由でもないのに、争いにしてどうするんです!」

持ち前の声の張りで、男同士がこちらを見る。

「て、てめえにゃ関係ないだろ!」
「お前、リアルにうるせぇんだよ!」
「なんなんだ、コイツ…」

男達は興を削がれた様子で、道を分かれていく…。

「…演説に戻りたいと思います。━━みなさんと共に、未来を創りたいのです…」
「『ダメ寅』が! 何偉そうに語ってんだ!」

突如投げかけられた罵声。その『蔑称』は、電車でも聞いたことがある…。
なっ、と吉田先生が体を強張らせる。

「誰がお前なんかを当選させるか! また金チョロまかすのか? また有権者をバカにするのか? この政治犯罪者が!!」 
「いやま…それは…昔の…昔のことで……」

吉田先生が、完全に竦んでしまっている。心配の目を向ける。


 …………。

「…やってしまったな」
「選挙妨害ですよ」
「選挙公示前に、そんなことは言えないが…ともかく、『ダメ寅!』と怒鳴られるとパニックですくんでしまう…」

肩を落としていた吉田先生が…星の輝かない空を見上げる。

「…二十年来のトラウマがあってね」
「そんなに…?」
「…君には伝えておかないとな。かつて、私は国会議員だった。有力議員が後ろ盾の『蔵元チルドレン』というブームに乗って当選したんだ。もう二十年近く前のことだ」

吉田先生が俺に向き合う。

「当時の私は浮ついていた。議員として、人間として、未熟だった。その未熟さから…派手な連続スキャンダルを起こしてしまった。それが『ダメ寅のトリプルプレー』だ」

…そして、頭を抱える。

「私的な旅行で大事な議会を欠席。これが1アウト。続いてなぜか多額の党費の使い込みが判明…で2アウト。その釈明会見のはずが、有権者をバカと呼ぶ舌禍事件を起こして…3アウト。政治家失格の烙印を押されたんだ」

それがさっきの罵倒に繋がるのか。

「…君は議員になりたいと言ったが、私はこの通りの人間だ。こんな私の指導を受けたいのか?」

 そうは言うが…見かけて、何度かに分けて話して、彼の『今の』人格と信念は伝わっている。…呑気なゲーム画面の向こうではない。衝突する男たちの仲裁…ぴりぴりする空気に踏み込むには、相当の度胸が要るはずだ。逃げることだってできた。

「あなたが今持っている信念を信じたいんです」
「そう言ってくれるのは嬉しいが…。当選の見込みもないと言われる男だぞ。なぜ、私なんだ?」
「技術に興味があります」

押しに押す。

「…演説の事か。教えるほどのものとは…、……、演説で最も大切なのは、自分を信じること… …もう一度、信じてみるか。自分を」

…感慨が来る。すごい。今、1人の人の人生を変えた気がする。吉田先生が、俺に向かってほほえみかけてくれる。

「いや、一本取られてしまったな。君は不思議な子だな、雨宮君。よし、こんな私の演説術でいいなら君に伝授しよう。その代わり、君には今後も手伝いを頼む。取引、といこうじゃないか」

こちらも笑って頷いた。
よろしくお願いします。

 ━━【太陽】に生誕の風を得たり!

「国会議員の夢、実現させようじゃないか。…と、少し話し込んでしまったか。今日はこの辺りにしておこう」
「はい。またお手伝いさせてください」

互いの荷物を背負う。チョコッとモルガナが顔を出すのが見えた。

「…ああ、雨宮くん!」

と、声をかけられて振り返る。

「すまない、言い忘れていたことがあってね。今後の演説のスケジュールについてだ。良かったら聞いてくれないかな?」
「わかりました。今、メモします」
「ははは、君は若いのにしっかりしているね。なに、時間は取らせないよ。私は、毎週日曜日にここで演説をしている。都合のいい時でいいから、手伝いに来てほしい。私からの話はそれだけだ。さ、気を付けて帰りなさい」

『日曜日は寅さんの演説』…と。何も間違ってないな?
帰りまで俺のことを心配してくれて、本当にこの人はレッテルさえ知らなければいい人なのにな、と思う。もちろん、前貼りのレッテルなんて剥がしてでもだ。





☆★ To be continued!! ★☆

 

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