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失敗★蓮ストール 33-Ⅱ

【 雨宮蓮へのインストールに失敗しました! 】

♯夢小説 ♯ペルソナ5ロイヤル ♯女主 ♯成り代わり
夢主は周回プレイ記憶者です。

オリ展開回だよ!後編
夢小説だよ(夢小説)(強調)



 \前回までのあらすじァ!!/

 5/30、清掃活動の終わり、朝に助けた少女“芳澤かすみ”の新体操の特訓を受けることにした蓮。
彼女の身体能力を見抜く技から早々に女性とバレたが、互いにあまり気にしないどころか嬉しそうな芳澤ちゃん。
 しかしそこにかかってきた電話。
会いに向かった喜多川祐介は、最近の生活から不眠に陥り、情緒不安定になっているようで…?





 ……あばら家に着いた。
祐介が鍵を開けてくれて、俺は空き部屋に入って手早く着替えた。さすがに色んな物が付いたままのジャージ姿ではいけない。まさか、持ってきたラフな格好が役に立つことになるとは。
斑目は本当にいない。
祐介の部屋からはパサパサと布を整える音が聞こえてくる。「着替え終わったよ」と部屋向こうから声をかける。「ありがとう、頼む」と返ってきた。深呼吸して、襖をガラガラガラ、とゆっくり開ける。
 画材で散らかったままの部屋の、その隙間。
紺色の私服に着替えた祐介が、シーツを脇にどけた布団の上に膝を軽く抱いて座っている。こちらを見上げて、ふっと口元が笑う。
いやあ…本当に…寝かしつけイベントが発生するとは…。顔がいい(現実逃避)

「嬉しい、蓮」
「そ、そうか…。昼寝…………くらいで、いいんだな? 俺はどうしたらいい?」

襖を開けたまま尋ねる。
祐介は「ああ」と返して、もそもそとその場で腰をずらすと、
 ぱたん、
と、そのまま布団の上に仰向けで倒れ込む。

「……祐介?」
「こっち」

と、ポンポン、と、敷き布団の上を叩く。

「こっちってどこ」
「横」
「ええと…膝枕とか…したらいい?」

俺を見上げたまま、ゆるりと首を振る。待って待て待て、祐介の感性バグが止まらない。目が泳ぐ。

「…あの、俺のこと、何だと思ってる?」
「……? 今一番、信頼できる相手」
「いやその…違う、あの、じゃあ、そうだ、杏のことは?」
「? なぜ杏の話を、今?」
「い、いいから…答えてくれ?」
「そうだな…華麗で、人間の形として整っていて、美しい人だな」

俺は華麗じゃないのかも、違う、今はそういうことを言いたいんじゃない。祐介が仰向けからゆるく寝転がって、俺の方に体を向ける。

「あの……あのな? い、今さら言うことじゃ、ない…と思うんだが。俺はいい、いや、よくない、せめて少し考えてほしい、」
「どうしたんだ?」
「……ふ、ふつうの人間は、その、お前が求めている物を添い寝と呼ぶんだと思うんだな」
「うん」

コクリじゃないって。心臓がおかしくなるから。祐介が手を伸ばす。ぱたっと落ちる。眠くなると幼児退行するタイプか。

「一緒に寝てって言った」

言われたよ。言われたけどな。

「だから…そういうことは…ッ お、男が女に頼んで、女が、簡単に受け入れるものじゃないから……ッ!」
「…………」

 言い切った。急に胸奥から熱い物が顔に上がってくる。
あ、『?』って顔してる、とにかく同じ過ちを他の人に繰り返さないでくれ、頼む、ほんと、今までもやっていないか。

「男とか、女とか、じゃなくて…俺は、蓮がいい」

まっすぐな瞳。
過ちは他人に繰り返さないかもしれないが、俺の心拍の、ばくばくが、悪化する。

「蓮が隣にいると、安心する。息を、聞いていると、息ができる、気がする。優しい声がすると、落ち着く。おやすみって言われたら…眠れる……から、蓮がいい…。一緒に寝てほしい、眠れないの、つらいんだ…」

……ずるずる、と、襖を掴んでいられなくなって、手と足腰から力が抜ける、その場に座り込む…。

「頼む、蓮…俺を、寝かせてくれ……」

祐介の前髪がずれて、乞い願う両目が俺を求めてくる。
今さらと言ったし、本当に、逃げる気もない、けどこれは、訊かない方が良かったのか、良かったんだろうな、自分もバカか、なんでわざわざ意識したかな、逃げないけど、布団にくるまって隠れたい。
鍵かけたっけ? そこは大丈夫、家着いた時に真っ先にかけたし、かけたから何だって? 密室に男女2人、何も起こらない、起こさないって祐介は最初から約束してるだろう。

「ほ、ほんとに……」

ゆっくり這って、

「…お、俺以外の女に、そんな誘いかけるなよ」

自分も何言ってるんだ、独占欲強めの言葉になってしまってる。彼の枕元につく。そろそろ夕日の差す時間だ。眠たげな目が、嬉しそうに細められる。
 ぱたっと俺も布団に倒れる。
祐介が枕を俺の方にずらす。うん、これを、枕に、寝ろって、祐介は枕、使わないで、ええと。顔が近い、さっきあんなこと言った男の顔が近い。ジョーカーにほだされる女性の皆さん、こんな気持ちですか。

「……傍にいてくれ」

はい。
すうっ、と、祐介の腕が俺の方に伸びて、ビクッとした。俺の向こうのシーツを引っ張っただけだった。シーツがかぶさる。俺の体に触れないまま、彼が静かに目を閉じる。
すう、と、呼吸の音。
あ、枕の高さの分だけ、息と耳が近くなるのか。
俺も固まってないで、肩から力を抜かないと。俺が普通に呼吸してないと、祐介も寝られないんだ、よな。ああ、えっと、それと。

「おや、すみ」
「ん……」

俺自身が、リラックスしないと。深呼吸しよう。

「息を、ゆっくり吸って…」

…息を、もっと、ゆっくり吐く。別に、呼吸法を唱える必要はないのだ。ないけど、 俺の声で、祐介が安眠できるなら…、

「すう……、 はあー……」

繰り返す。
大丈夫。ほら、彼はこの間熱でうなされていた幼い子供。と、同じだから。今は顔色は、赤から青になっているけど、眠ろうとして、拠り所を俺に求めている、小さな子供。
彼がゆっくり息をする。

「もう、 安心して、 いいから、な」

俺も落ち着いてきた。

「がんばってる。 から、ゆっくり」

やっと彼に、ほほえむ顔を向けることができた。

「ゆっくり、おやすみなさい」



 ━━で、あ、れ?
真っ暗だ。デジャヴ。今何時だ?
当然だ、寝る前に部屋の電気はつけていなかったし、ということで、というわけで、今は7時頃、とか…?
本当に、一緒に寝てしまった、字面がまずい。
で、その祐介は今どうして…
今どうして……

「……ゆうすけ……?」

すぐ傍で穏やかな寝息がする。
傍も傍、というか、…胸元があったかいなあ。
暗いが間近なら少しは見える。
俺の胸に頭を寄せて、服の胸元の近くをキュッと握って、すうすう、すやすや、寝息がかかるから、それはとうぜん温かい、んだけど、それ、それを認知した途端、俺の心臓が、ああ心音が彼に聞こえる距離だ、!
べったりではないが寄り添う距離で、俺の腕もいつの間にか彼をゆるく抱き込むようになっていて、あれれ、これじゃあ、右と左が、逆じゃあないですか、誰がこんなことを。

「ゆうすけ…ゆうすけ?」

 ぽんぽんと背中を叩く。ぐっすり寝てる。しっかり掴まってぐっすり寝てる、ああ、もう。

「起きて、先生が来るから、起きて」
「ん……」

待ってこれ以上俺の胸に顔を埋ずめないで
クッション性皆無だから

「ゆうすけ、もう……」

仕方ないな、みたいな。
彼の頭を撫でる。指によく髪が梳き通る。

「……ふふ、いいこ、いいこ……なーんて」

あ、じばくした。
ああああああ…恥ずかしい…。
祐介は「んぅ、」とまた呟いて布団の中で少し体勢を変える。服から、手を、離してくれれば起きられる、んだけども!

「ダメだって…今日はもうおしまい、ね? 帰るよ?」

指をつまみ、手首を掴み、

「ゆーうーすーけ、かーえーるーよ」
「うー……」

幼児相手か。俺は、それにもう気持ちをめちゃくちゃにされているんだけどな。
一応片手を掴んで、もう片手でゆっくり俺を掴む指先をゆっくりほぐしていく。もう少し…もう少し……。

「よし」

…抜け出せた。
最後に胸元にすがりつこうとしたのが胸が痛んだが、危険性に比べれば、仕方ない。祐介は眠りに戻ったようだ。すう、すう、と寝息が聞こえる。しばらく、その大きな影を覗き込む。そっとその頬に触れる。ふっと笑いが漏れる。
あんなこと恥ずかしげたっぷりに言っておいて、結局ぐっすり寝落ちして、今はこうやって心置きなく触れて、撫でてする馬鹿、俺。でも、これだけ祐介が熟睡できたから、御の字、返済、ということで。
胸の奥に湧き上がる感情。
たまらないな。
ああ、あの時もこんな風に思ったんだったかな。

「おやすみなさい」

もう一度頭を撫でる。
 カバンはどこに置いたんだっけ、ええと、部屋の出入り口か。


 ━━叫ぶかと思った。


 せいかくには、喉が引き攣って、声が出なかった。廊下に、じっとり古い電灯からの影を落とす、小さな影が立っていた。それが、開けた襖から、こちらをじっと見下ろしている。
ほとんど、妖怪か何かかと思って、腰が抜けた。
見直してみても、姿だけがあって実体のない幻なのではないか、と思うほど生きている動きとか音とかがわからない。背と、立ち姿は、男の、老いたもので、つまり。
 それが、変わり果てた、
 ……斑目一流斎であることを、
認めるのに、ずいぶん心の時間がかかった。
怪異を見たのではない、現実的な、別の恐怖が襲ってくるが、それと共に恥ずかしさもわっと体を染み渡っていく、まさか、まさか、先生、さっきの俺が祐介にしていたことを、見ていらしたんですか。
これもまた、デジャヴか?
見ていたならなぜ声をかけなかったのか、
なぜ見ていたのか、

「あ…………」

声、が。俺から、声が、

「あ……あー、…あ……、……て……ない、……ごぇん……い、ゆー、すけ……」

ゲホッ、ゲホッ。
深呼吸しろ、深呼吸。まただいぶ違う、息を取り戻す必要がある。俺は、そもそも、通報対象、なのか。だって、モデルの女の友達だって、あの日にわかっているはず、だ。
斑目は動かない。
立とうとして、その場にドサッと膝をついてしまう。
冷たい汗が首を伝っていく、冷や汗に気付いた瞬間、体中に服がべっとり貼り付いた、この認識も不正確。

 ……ガ ラ ラ ラ
「ぅ…… え……?」

顔を上げると、老爺が襖を開き切っていた。そして、一歩、二歩、と下がる。
目ばかりだった顔が見えた。
くしゃくしゃの髪、げっそりとこけた頬、ぼうっとした表情。枯れ枝のような指、曲がった背中。

「…………寝て、いる、か」

ヒッ、と悲鳴が漏れた。壊れた楽器から音が発された。しばし意図的に黙り込む。喉の準備は、できているか。

「………てます」

……。老爺がゆっくりと、頷いた。
 なんで。
俺、これ。早く逃げないと。逃げる?彼から? 祐介から?
なのにどうして、俺はこの場に、座り直して、

「……聞いても、いいですか。…祐介は…祐介は……」「…………うむ」
「どんな…子、でしたか……?」

沈黙。ただ、そう、…聞きたくなったのだ。彼の十年以上を唯一知っている人に。…聞ける内に。老爺は…ぼんやりとした顔で、俺を見ている…。

「……思い出した……」
「   え?」
「……、聡明な子でね」

かさついた声が、ゆっくりと紡がれる。

「私のことは……早々と……親として、切り捨ててしまったに…違いないよ……祐介の、親は、絵だからねえ……」
「……あ、では、それまでは?」
「どうだった、かなあ……」

ゆっくりと目を閉じる。いつを、何を、思い出しているのだろうか。

「……知っているのかね」
それは……「3歳の時から、貴方がずっと、面倒を見ている……、ということを」
「そうか…、そうか……」

どこか、寂しげで、嬉しげな調子。

「……私は、父親ではない。祐介は、わかっていたよ。幼い頃……何度、父と…母を…ねだられたことか……」

父母が欲しい。

「…それも、ある日を境に、止まってしまった……。私は、祐介にそれらを、与えられもせず…父にも、なれなかったねえ……、私も、もっと、良く、向き合えたはずなのに……私は…私は……」

背中を壁に預けて、虚ろな目でどこかを見つめる。

「…絵で、学ぶことを、育つことを覚えた…そんな子供だ。何度かそれらしいことも、試してみたが、すぐに絵の方を向いて、…私の方など振り返らずとも、……こんなに、立派に、育ってしまったね。……ああ、もっと、私が育てれば、よかった」
「…まだらめせんせい…」
「そうだ……、父と呼んでもらえるよう…育てれば、よかった……」

その言葉がどこから来るのか、今の俺には、ある程度想像がついた。…彼を恩義や情で縛り付けるために、親になりたいと言っているのではないと、わかってしまった。
 ふらふらと、老人が体を起こして、襖にすがりつく。

「祐介……寝ているのかい。よく寝ているのかい…。ここ最近、お前が眠れていないことは…わかっていたよ。……どうして、眠れているのかな……」

…祐介は、布団に身を預け、シーツをゆるく握って、穏やかな表情で、眠っている。もう俺は離れているが、それで眠りが浅くなったような様子はない。
老人は笑みを浮かべている。安堵と…少し悔しそうに曲がった唇。

「……、……君のおかげかね……」

目を向けられて、どくんと心臓が跳ねる。
俺は…頼まれて、寝かしつける切っかけを作った。それだけか、それ以上なのか、以下なのか…俺にはわからない。だから、はっきりとは答えられない。

「頼りになる友達も…できたんだねえ。……ああ、私の元を離れていく」

悲しげな声が、濁っていく。

「すまない…すまない…すまない……、思い出したよ…思い出した……」

これ以上……何を?
震える体で、膝をつく老人。その近くに置いてある荷物を、そっと取る。

「……ゆっくり、おやすみになってください……」

月並みの言葉しか、かけるものは見つからなかった。
そっと、古い板張りの廊下を、できるだけ足音がしないように、歩いて、家を出る。
俺が音を立てない代わりに、老人の悲嘆が家の中に満ちていった。



 駅前広場に着いた途端、モルガナが人混みもはばからず…飛び付いてきた。

フシャー!!
「……遅い!! 遅すぎるぜ!!」
「わっ……!」

引っ掻かれるかと思ったが…、前から俺が抱き止めたまま、腕の中に入っている。時間は、7時を回る。

「……その……、すまん、つい」

と言って、ピンと立っていた尻尾が、ぱたりと落ちた。

「ごめん、遅くなって…」
「…こちらこそ…ごめん、レン。ワガハイ、わざとじゃないんだ、けど見ちまって…。オマエがユースケと、連れ立って、歩くの…。それからずっと…戻ってこなくて……」

あ……、駅前広場、確かに通った。もぞもぞと腕の中のモルガナが顔を擦り付ける。

「…祐介なら、もう大丈夫だ」
「レンは? なあ、レンは、何もないか?」
「…大丈夫だよ」
「嘘こけっ。すげー顔色だったじゃねえかっ」

すごい顔色してたのか……。
モルガナを前に抱きかかえたまま、銀座線方面まで歩き出す。

「でも、今日のことは、誰にも秘密だ。そうだよな。わかってくれ」
「ワガハイ、やだ……」

くるんと俺の胴に尻尾が巻き付く。モルガナのワガママなんて珍しい。ただ、今、それを笑う元気が確かにないのも事実。
その背中を撫で続ける。
やだ、心配だ、と呟き続けるモルガナの背を根気強く撫で続ける…わかってくれるまで。
 結局、そのまま、四軒茶屋まで帰り着いた。
泣き疲れた子供のようにぐったりしたモルガナを抱えて、ルブランの戸を開けた。



 寝ていたはずが、どっと疲れて一度布団に倒れ込んだ。モルガナが甘えたがりの猫のようにくっついてくる…撫でようとすると逃げるのも猫。
今日はやる気が出ない。
祐介に寝起きのチャットを送るのはもう少し後でいいかと思う。それに…………斑目のことについて……何かあれば、すぐに連絡が来るだろう。し、祐介の身に何かあったら、チャットは返ってこない。
あのブッキングを、あの老人が黙っていてくれればいいと思う。
彼の言葉を考えようとしたが、思い返す気にならない。
 ぴぴぴぴ。
跳ね起きた。…怪盗団チャットだ。

【かれっす!】
{それを言うには遅くない?}
【いやあ、ついでみたいなもん】
   【何かあったか?】>
【この間言ってた野球選手とか
 怪チャンに書き込んどいたぜ】
{ちょっと!
 全会一致のルールは?}!
【あー、それは、祐介入る前の話だし
 って、祐介もここ見てるよな
 すまん】
   【彼らのシャドウも出るのかな】>
【ワカンネ】
{もう!
 無責任なことしないでよね!}!
{次からはちゃんと
 全会一致だから!}!
【ごめんって】
【新しいターゲットの情報ある?】?
   【今はまだだ】>
{ていうか個展終了まで
 1週間切ってる…?}?
{ヤバ
 緊張してきたかも
 いいお風呂入ろ}
【いいなそれ
 俺トレーニングして
 汗流してくるわ】
【あれ?】?
【祐介どこ行った?】
{どうしよ、そっちも心配になってきた}
{連絡しようかな}
   【チャット見てないのか?】>

打ち込む指先が少し震えている。
チャットを閉じて、怪チャンを開いてみる。匿名で『○○にも予告状来ないかな?』という調子で、俺が指名した数人が書かれている。
一種の笑いの種のようになっていて、話はすぐに斑目の現状と、鴨志田のその後について戻っている。


 5/30 個展終了まであと6日
 清掃活動に参加し、色々あってよしざわちゃんからの誤解を解くことができた。あと女とバレた。何も問題ないというか、より良くなった気もする。

 それで、どうしてこうなった。
 緊急の祐介からの救助要請電話。というか不眠。添い寝を頼まれる。全てはあの、スケッチの日のせいか、祐介を俺は歪ませてしまったのか?
顔を合わせた祐介は、顔色がおかしくて、挙動がおかしくて、怖い男の人になっていた。
十分話を聞いて、なだめるのに、傷つけられ、傷つけもしてしまい、罪悪感から後に引けなくなって、結局彼に言われるがままに従ってしまった。自分でも言ったが、普通女は男と床を共にしない。
 何が恋愛イベントだ。
一歩間違えればホラーイベントだ。
祐介も情で人を今のなし。
あの時は傍で座っていただけだったのに、一緒に寝てほしいと要求するなんて過激化している。今度抱き枕にしようとか言われたら、そう、断らなければ。
“雨宮蓮”は女なんだ。
俺はこの“雨宮蓮”を守らなければならない。
 そして、 マダラメだ。
 思えば1週間近く。
こんなしょぼくれた老人に本当になったのか、と今でも疑って、いや、信じているが、信じがたい。数日で師が同居老人があの有り様になれば、祐介も眠れなくなるのも頷ける。
だって、彼は祐介の幼い頃の話を、要領を得ないがしてくれた。
……親としてのマダラメを早くに見切り、絵の自主練に夢中になって、勝手に育っていったという、賢い、子ども? それを後悔している?
改心を施されたマダラメが今さら嘘をつくとは思えない。
無言を貫き通すことはできるかもしれないが、ごまかすことはできるかもしれないが、予告の内容に関係ないことで今更嘘を作り出せる精神状態じゃないよななななな?
不眠と知っていたという、眠れた祐介の部屋の前で泣き崩れていた男の言うことを疑えない。
会って何もおかしなことにならないよな?
何に気付いた?
何を思い出した?
俺が起き出した後の何かか?
俺の問いかけか?

 ジョーカー・雨宮蓮はしっかりしなければならないが、今の俺、雨宮蓮は、折れそうで不安でいる。ゲームの雨宮蓮の心労は、誰が助けたのだろう?


 勉強に打ち込んでいた。
ネットサーフィンしようと思うと、無意識に斑目の情報が目について追ってしまう。
はっとして、10時を回っていて祐介にチャットを打ち込んだ。起きたら返事を頼む、と。
 ぴぴぴぴ。

「祐介?」

11時だ。

〈おはよう〉
〈まさかこんなにずっと
 寝ているとは思わなかった〉
〈まだ眠い…眠れそうだ〉
   【よかった】>

「よかった……」

〈才能あるんじゃないか〉
〈本当に久しぶりにぐっすり眠れた〉
   【あのなあ…】>
〈不快にさせたか? すまない〉
   【そこは大丈夫】>
〈今度から蓮のことを
 思い出して寝ることにしよう〉
   【ま】>
   【斑目はどうしてるか
   確認してきてくれ】>

こ、この、こいつ…。顔がわっと赤くなる。この御手洗!味噌出汁!白味噌!箱入り息子! (?????)
しばらくチャットに時間が空く。
(脳内絶叫ビーバー)
頭を抱える。いつ『好き』だとか『お前がいないと』とか『毎朝味噌汁作ってくれ』とかシラフで言われるかわからない、夢見がちなこと言ってる。まだ5月だぞ?どうする?この後明智っていう殺したいほど攻略対象筆頭みたいなのが出てくるのに?
女主がジョーカーってこんなに頭痛いというか悩ましいものなのか。
奪え!(アルセーヌ)

〈ただいま〉
〈斑目は机に向かっていた
 今日の集まりのことは
 何も言っていない〉
〈声をかけても空返事と
 いったところだ〉
〈集会で何か筆を執らねば
 ならないことがあったのかもしれない〉
   【変わらずか】>
〈そうだ!〉!
〈蓮こそ大丈夫だったか?
 斑目と何もなかったか?
 ぐっすりで……〉
    【何もないよ】>

嘘だ。親子に揃って心を乱されている。

〈よかった〉
〈そしてありがとう
 本当に感謝している〉
〈久しぶりにしっかり
 絵が描けそうだが
 さすがに寝なくてはな…〉
〈おやすみ〉
   【おやすみ】>

そう打ち込んで、チャットを閉じた途端、新着が鳴る。

〈やはり蓮のおやすみを聞くと安心する〉

 ああああああああ
 男が一人壊れたああああ
机にうつ伏せになる。

「どうしたレン、急に叫び出して?」
「え? 叫んでたか? どこから?」
「あ、叫んではないから近所にはダイジョウブだけどな。アーッて」
「……ああああああああ」
「レン……」

モルガナが憐れんだ様子で座る俺にトコトコ近付いてくる。

「なあ、ワガハイ、前に言ったよな?」
「?」
「親切にしすぎると、ケガするぞ?」(ニコッ)

机に伏した。まったく、モルガナの言う通りかもしれない。けどこの猫はどこまでわかっているんだ。恥ずかしくて体が震えてきたし。それから何も言わないし!





☆★ To be continued!! ★☆

 

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