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失敗★蓮ストール 36-Ⅱ

【 雨宮蓮へのインストールに失敗しました! 】

♯夢小説 ♯ペルソナ5ロイヤル ♯女主 ♯成り代わり ♯微改変
夢主は周回プレイ記憶者です。

全てを吹き飛ばすオリ展開。



 \前回までのあらすじァ!!/

 5/31、祐介からの連絡で緊張が走る怪盗団一行。それでも希望的観測を天命に見て、普段通りに過ごすことを心構える。
そんなんで夜にメイド(担任)を家に呼びつけたりする不届き者、雨宮蓮。
日記を書き、床につく…。





『━━どうかね、虚飾の大罪人を、己の手で下した気分は』
「…………」

 ベベベーベ・ベーベベ

夢の中。
横縞の服。
鉄格子。
青い部屋。
長鼻の老人。

「何か言ったらどうだ、囚人!」
「主よりのお言葉に、無礼ですね」

ガァン!
それと、青い服の少女2人。

『異世界の外での活動が功を奏するとはな。私にも予測できなかったことだ。お前には見立てがついているのやもしれないが…フフッ』
「ネタバレ、やめてくれませんか」

ほんとそういうとこヤルダバイゴール。俺は明日どんな顔で過ごせばいいんだ?

「無礼だぞッ!」
『そう、いきり立つな。私は興味深いのだよ。何がこの結果を導いたのか…』
「俺の心の赴くままに。ただそれだけです」
『フフフ…そうか。異世界での役目も型無しかな?』
「それは有り得ないでしょう」

交互に携わったから、相互干渉できたのだ。

『お前の果たしたいことの結果も、これから明かされるというもの…。健闘を祈る』






 6月1日


 …………。

『私は…画家としてあるまじき罪を犯しました。世に言う…その…「盗作」を、私は… 我が国の、美術界にも…そして…『サユリ』に、も…』

━━ドン━━! バン、バンバン……!

『くっ! 皆様に、どう…お詫びを、申し上げ…う…申し上げ、たら…いい、か…んぁっははぁぁ!』


 スマートフォンを一度閉じ、水曜の昼休みの教室を見渡す。

「やっば! 顔、おもしろすぎ。泣きすぎー!」
「うわー、失望。でも顔スクショ撮っとこ」
「MAD間違いなしだわ。職人はよ」
「んっはああああ!!」
「最低だわ〜、やっぱ老害放っとくと調子乗んね」

 イヤホンを耳に挿す。ピッ……。

『先ほど行われた、斑目氏による、緊急謝罪会見の模様をお伝えしました。斑目氏は盗作の事実を協会に申告したのち、警察からの出頭要請に応じたとのことです…』
「……蓮……?」

トントン、と肩を叩かれる。杏が驚きの、しかし悲しさの混じった目でこちらを見上げている。

『…斑目氏は、教え子らへの虐待容疑に加え、無断で作品を自作と偽って発表していた疑いがあるほか、代表作『サユリ』に関する盗難被害の届けが、詐欺目的の狂言だったとも疑われています…』

喜びは前にも先にも実感がない。
ただぼんやりとした現実を掴もうとしている。
そしてそれよりも、目の前の少年少女たちの軽薄な笑い声が聞こえてくる。

「『怪盗団』出たって! 『怪盗団』!」
「鴨志田のやつ? ノーマークだったわ…なんで学校教師の次は画伯(笑)なん?」
「俺こんなネタ見れるなら何でもいいわー、怪盗団でも何でも」
「めっちゃおもろー。次はよ」

 バイブ。
杏をつついて、チャットを出してもらう。

『…氏は会見後、身柄を警察に移される予定でしたが、高齢を考慮され、警察病院での聴取となる模様です。しかし簡易鑑定では精神に異常はなく、責任能力はあるとの見方を示しています…』

【やべえやべえやべえ】!
【めっちゃニュースなってる!
 見た? 見た!?】!?
【教室大騒ぎだぜ】
【もう学校早退してえ】
【あ、違うわ
 告訴取り下げだよな
 おめでとさん!】
〈学校を早退してきた〉

「あ……」
「…貸して」

早口でまくし立てる竜司のチャットに、滑り込んできた祐介の言葉。ニュースキャスターの言葉を伝え続けるイヤホンを挿したまま、杏のところからメッセージを送る。

{蓮です
 もう集まるか?}
〈いや、学業を全うしろ
 妙な動きで怪しまれてほしくない〉
【ぐえ、まじめ】
【あれ?
 じゃあなんで祐介早退してんだ?】?

「…バッカじゃないの?」

杏が同じ台詞をチャットに打ち込む。
俺もニュースサイトページを閉じ、チャットに参加し直す。

   【授業終わったらすぐ集まる
   待っててくれ】>
【今日何限だっけ? 6限?
 今チラッと見たけど怪チャン人来てるぜ】
【怪盗団の予告状!
 ニュースに出てたもんな!】!

「ほんっと…デリカシーない」
「改心、成功したんだな」

ニャア。机の底から話しかける声が聞こえた。

「やったじゃねえか! 個展終わる前に自白なんてな! その調子だと自分のやったこと、全部認めたんだろ?」

俺も杏も、自分の席に座る。そして俺は机の中に手を入れてモルガナの体を揉む。 

「…早まった理由はわかんねえけどよ。これで、祐介は救われたんだな!」
「……うん」

穏やかに、杏がほほえんで、俺の机にそっとスマホを置く。怪盗団チャットに、意味のないスライドを繰り返す。

「信じたからだね」



 チャイムが鳴る前に教科書の類いを全てカバンに突っ込む。モナが机の中で「おい、何してんだ?」と問われるのも構わず、チャックを閉じる。チャックが噛む。

━━キーン、
「あっ! 待て、レン!」
「雨宮君!? ホームルームはまだ…」
━━コーン……━━

 廊下。
 階段。
 廊下。玄関。校門。

『蒼山一丁目、蒼山一丁目、電車が入ります…』
「きゃっ!」
「いって…駆け込み乗車かよ…!」

はあ、はあ、はあ……。

…………。

………… …………。

『渋谷、渋谷です。お降りの方は…』

はあ。
早足で抜ける。

「お兄さん、カード当てられてませんよ!」

ブーッ。

「す、すみません…!」

通過する。地下通路を上がる。駅前広場に上がる。ふとセントラル街方面のビル郡を見上げた。一際太く大きなビルには、大画面が映るようになっており、今日のトピックニュースを見ることができる。すう━━はあ、
もう、十分に見た。
祐介は、銀座線の奥の…

「待って!!」

 あ?

「猫の……秀尽!!」

猫の秀尽。聞き覚えのある声、叫び声。振り向いて、ドタドタと…とても上手くない走り方で、スーツの若いサラリーマンが俺に駆け寄ってきていた。

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……」

そして、俺の目の前でよろめきながら止まって、かがみそうになりながら大きく息をつく。
猫の…そうだ。モルガナがいない。置いてきた…?
俺も自分から、呼吸音がするのに気付いた。走って、いたんだ、俺……。

「見つ、かって、良かった…ハァ、ハァ……」
「……ふう、……はあ」

ゆっくりと彼…中野原が顔を上げた。

「厚顔…、で、すみません。頼みたいもの…渡したい、ものが…届けてほしいものが…お願いします、どうか…お願い、します……」

顔を上げたはずが、すぐにばっと頭を下げる。深く何度も下げる。

「あの…お久しぶり…です」
「……はい」
「……あの」
「す、すみません、用件を早く…急に絡まれて、迷惑でしょうから」

慌てた…いや、戸惑った?なぜ?そんな様子で、彼は仕事鞄を開ける。……取り出したのは、少し大きめの封筒だった。

「こ、『洸星高校2年生・喜多川祐介』…美術科の特待生…です。『洸星高校』…『喜多川祐介』」

不安げに、中野原はそれをこわごわと俺に差し出した。…ゆっくりと受け取った。封筒は、一度糊を開けた跡がある。封筒を渡し終えて、また中野原が頭を大きく下げる。

「どうか、高校生のご縁で…よろしくお願いします!」
「……その、これは何か。詳細をもう少し、お聞かせ願えますか」

しばらく彼は無言で、地面を見つめていた。…そのまま、ぼそぼそと話し始める。

「……朝、郵便に、入って…いました。それで、何気なく開けたら…その…『喜多川祐介』、と、宛て名の…見覚えのある字で、封筒がもう、一枚……」

少しその声が震える。指を軽く入れる。確かに、二重封筒になっている…。

「…………それからの、アレ、でしょう」
「…………」
「……か、怪盗には…、感謝します。彼を…救ってくれて、ありがとう…と、どうか…。そして、どうかそれを…届けて…ください。届かないと……、ダメなんです」

……?
首を傾げる俺に、「よろしく、よろしくお願いします!」とまた中野原が頭を下げて…逃げるように行ってしまった。…封筒に入れた指そのまま、もうひとつの封筒を、引き出そうとしてしまう。その指が違和感に触れた。覗き込む。これは、ファンタジー世界でよく見る… ……封蝋?
中の封筒をすぐに戻す。封筒を小脇に抱え、少し痛みを訴える足で、通路まで昇っていく。


 何度も何度も見た、長身痩躯に、かける言葉を失っている。それは懐の封筒のためで間違いなかった。
夕焼けを浴びる横顔が影になる。

「蓮」

そして俺を呼ぶ。
歩み寄らないわけには、いかなくなった。
目の前まで来て、封筒を抱え直して、少し上を見て、

「おめでとう」
「…………ああ」

感慨深そうに目を伏せて笑う。
早退してきた理由はあの教室を思い返せば、そして彼の身の上を考えれば想像がつく。それでも祐介は、今の状況にむしろ安寧の心を抱いているようだった。
雑踏は噂話を鳴らし、遠く見えるビルは今もニュースを放映しているが、それよりもただ、穏やかに在る。
…懐のそれは、絶対にそれを乱す物だ。

「……祐介」

それでも…これが“2人”の宿願なら…。

「お前の兄弟子…『中野原』さんが、俺に渡してきたものがある。彼も『渡された』そうだ」
「中野原先輩……っ?」
「……そして、『届かないダメだ』と…。受け取ってくれるか」

こうまで言ってまだ、ためらう手で封筒を差し出す。静かでわずかだが、目を大きく開く驚きのまばたきと共に、祐介がおもむろにそれを手に取る。
カサッと中の物が揺れた。

「開けてある……二重……?」

訝る目でゆっくりと手を封筒の中に入れる。


「 ……蓮ー! あ、いたー! 」
「 よ、良がった、会えてぇ… 」
「 レン!バカっ! …何してんだ? 」


 バサッとカバーの封筒が落ちた。
祐介は封蝋のされた封筒を、目の前まで持ってきて凝視している。そして俺は、その裏の筆で書かれた墨字を読むことができる。
【祐介、お前はこれを破り捨ててもいい】

「ハァ、急に教室飛び出して…なに考えてんの? モルガナまで置いていって!」

俺は封筒の裏の文字をつつく。竜司は祐介の背中から身を乗り出して、封筒を見て、

「なんそれ…班……? 班…目…一流!? マダラメっ!?」
「リュージ! 声がでけえよっ! …って、マジなのかよ…?」
「中野原さんからの預かり物だ」

祐介が黙って封筒をひっくり返し、俺のつついた場所をやや顔を背けながら睨んでいる。

 ━━バリッ! ビッ! ビリビリッ…ギッ!
「うわあ!? マジで破ることなくない…いやある…?ない…?」

悲鳴を上げながら、杏も祐介の後ろに回った。
封蝋すら無視して封筒は乱雑に開けられたが、中に入っていた紙に引っかかって止まった。一度止まった手は、切れ端となってくっついたままの紙を掴んで再度、今度こそビッと破り捨てる。そしてそのまま、ぱらっと祐介の手から、封筒の残りの部分も通路の床に落ちて滑った。
紙の束。
俺も紙が見える位置に回り、モルガナが俺の頭によじって登る。
祐介の手が震えている。和紙。これを破るには別の力が必要だ。その上をのたくる達筆の墨。彼の歯ぎしりが聞こえた。
 ━━読み進める。

【喜多川祐介へ
 お前と、その友人のおかげで、覚悟を決めることができた。
 感謝する。
 全てを白日の下に告白し、公に罪人になる。
 今頃、私は大衆に醜態をさらしているだろう。
 この醜聞にお前を巻き込むことが気がかりだ。
 不甲斐ない父親もどきの罪を許してくれとは言えない。
 だが、祐介はどうか許されてほしい。
 それが私の、お前の将来に期待することだ。
 私のことなど切り捨ててくれ。お前はずっと昔から切り捨てていた

「ちょっ…ま、まだ、全部読めて…ぅおい!?」

手紙が放り投げられる。

【お前には後悔している。
 もっとすれば良かった務めを果たせば良かった。
 今更何を言うのだろう?
 誰よりも賢い子供で、 学芸会の招待状を持ってきた時、 私が何の理由もなくそれを断った時、 お前は父の役目を担う私を見限って、 とうに汚れきった私も何とも思わなかった。
 私はお前に母を奪い、 父を与えることもできなかった。】

そっと紙をめくった祐介が、叩きつけるようにそれを捨てた。慌てて竜司が紙を拾う。

思い出した。思い出した思いだした
 祐介が3つにならぬ内の、 私の貸す空き部屋の一室でお前の母が、 ぐずるお前を寝かせようとしていた絵に描けるわけもない光景、
 あの時まだ私はまっとうに生きていて、 ほほえましく思って美しさに胸打たれたいた時のこと。
 私が料理するために、そして料理をやめ、 奥にしまったはずの土鍋。
 父になるかわからぬ内のこと、 小さな祐介を見て、 祐介がどう生きてどんな人間になるか 思い巡らせていたはずが、 結局私はお前の人生の幅を狭めた。
 申し訳ない。申し訳ない。】

熱い吐息が聞こえる。ひくつく手が次の紙をめくろうとして紙の上を滑る。片手で顔を拭く。うめき声。息が早まる。
紙が手の横から滑り落ちる。

【性根の腐った私が祐介にあの 生活を強いることは 変わわなかったかもしれないが、 私がもっと良くしてi lれば、 お前の気は少しは安らいでいたか?
 私の自己満足か?
 いずれ許されない。
 許してほしい。申し訳ない。後悔している。愛せば良かった。父になれれは良かった。先生など呼ばれる器でなかった。もっと小癪な老入をそう呼ばせるべきでなかった。他に慕わせる者を持たせれば良かった。思えば奥底から変わらず可愛かったお前をこんな縛り付け方をするには、、、

「 今さら戯けたことを言うな━━ッ!! 」
「ユースケ!!」

 ゴンッ!!

「あっ……痛い、…痛い、痛い、はっ、はあ、いたい、い、たい、ハッ、ハア、ハァ、あ、あ、」

祐介は壁に叩きつけた拳を握り締めて、荒い呼吸でうわ言を呟き続けている。全部ばらけ落ちた手紙を、竜司が慌てて拾い集めている。その場に腰を落とし、手紙の続きを読むことなく祐介を見上げている。
眉に、目に、歯に、全身に力を込めて、
怒りを以て覚醒の時に見開いた顔の、口を逆にひん曲げた表情で、顔を朱色に染めて、ポタッと歯の間から涎が垂れ落ちて、

「くそがっ! 渡せ!渡せ!!」

ガッ、と竜司に掴みかかる。

「おわっ、あぶ、ね! 3枚は読んだだろうがっ! …なんで最初から捨てなかったんだよ!なんで読んだんだよ!」
「捨ててやる、こんなもの! お前のじゃない! 俺の物だ!!」
「い、言ってることめちゃくちゃじゃねーかっ!」「おぇのああああッ!!」

吠えた。明らかに強い力が竜司の肩を掴んだ。それでも丸まって手紙を守る。その背中をなおも引っ掻く。

「おッ、お前のオヤジ、は、いてっ、いででで、クソだっ…たけどよ! 残すモン、残して…」
「返せ! 返せーッ!!」
「助けてえ!」
「リュージ!! ユースケ!!」

モルガナが真っ先に飛びついた。祐介は腕を振り回して振り払おうとするが、がっちり掴んだまま離れない。杏は顔を青く凍らせて数歩を置いている。
当たり前だ。
大の男が同じ男性に暴れて痛めつけているのが怖くないわけがない。
ひゅっ、と息を吸う。
 ━━俺も飛びついた。組み付いた。

「やめろ! 離せぇっ! 許さん!」
「許さない! 俺も許さないっ!!」
「ハァ、…ハァ…、やっべ…」
「りゅうじっ」

ぎり、ぎりと満身の力を込めて、しがみついた祐介を背中から引っ張る。そのまま祐介を引き剥がすことができて、数歩、引きずる。モルガナが祐介の足にしがみつく。振りほどこうと振り回した足がガッと俺に当たり、モルガナが「しっぽ!」と悲鳴を上げ、

「くッそ、ああああ…! ……グ、ゥ…うう、あふ、ゥ…!」
「っ、ああ、あいつは許されない、許さない、そして今お前が竜司と自身をこれ以上傷つけようと…するならっ…それも、許、さない…!」
「ゆる、ゆる、す…う、ふう、はーッ、はーッ、……はなして……うッぐ、ふうぅ……ッ」
「いやだ…許さないのはいやだ」

つく息は声と混じり、呻き、荒らげ、苦しさを絞り出す。怒りがあって、悔しさがあって、どうしようもない嘆きがあった。ぜえぜえと濁る吐息が、ゲホゲホと咳き込む。

「祐介」

どうにか肩の後ろから、祐介の顔を覗き込むことができた。
…悔しい。そんな感情が加えて見て取れた。

「楽になろう。苦しむのは、これで最後だ。そして、いつでも、自分の意志でやめることができる」

祐介の肩から腕に沿わせた指を、その指に絡めて握り締める。大きな呼吸を繰り返して、もつれる言葉と共に、ゆらゆらと揺れる体の、一端を掴んだ。

「あっ━━」
「にゃっ!!」

どすんと膝をつく。一緒にへたり込んだ。無遠慮に伏した四肢の下からモルガナが慌てて飛び出す。

「ああ…、はっ、はあ、はあ、うう…う…」

抱き止めていた片手をそっとほどき、ゆっくりと震える背中をさする。竜司は壁際にまで下がって、座り込んでいて、やはり少し怖れた様子で、紙束と自分の体を抱えている。
乾燥した廊下に、抑えきれない感情がぼたぼたと零れていく。
そっと頬に触れる。熱い。雫が熱い上を横切ろうとするのを指が阻む。おもむろに体を離すのは、肩に手を添えたまま。額を付き合わせられる、そちらへ回り込む。

「はーっ、…はーっ、…ぅああ、苦しい、くるしい…いたいぃ…」
「うん、うん…。でも、もう、自分で誰かを痛めたり、誰かが祐介を苦しめたりは、ない、な?」
「うう…いたい、いたい…はあっ、はっ、ぐううぅ…」

ぎゅうっと胸の辺りを握る。手を添える。その下にどれだけの鼓動があるのだろう。
祐介が顔を上げる。ぼろぼろの顔。真っ赤で、不安に怯えていて、大きな呼吸が、歯を噛みしめる隙間から出て、がちがちと鳴っている。

「もう最後だ。最後。祐介なら耐えられる」
「いや…だめだ…一生だ……」
「そんなに背負うこと━━」
「だって! ……ぉ、俺が、せんせぃを、傷つけた、から……あ、あぁ、あ…」

……先生を。
昨日のチャットでの混乱と同じ。祐介は強いはずだ。強いのに、動揺して、こんな弱い顔をして、許しを乞うている。今の彼が本当に望むことは……。彼が望む一番幸せな世界は……、…存在しない、もう来ない…せめて…
肩に手を乗せて、そっと寄せる。

「なら、俺にもその苦しみ…預けてくれ。ひとりじゃない。共に背負うから…」
「…れん……、 まだらめ、せんせぇ…!! 」
「わっ……」

ぎゅうっ、と、男1人の体重が伸し掛かってきて…危うく手をついて、倒れるのは免れた。
胸に押し付けられる慟哭。
こんなにも泣くのか、この男は。
真正面から抱き止めた祐介を抱き返して、ゆっくり背中を、優しく頭を撫でる。震える彼の、表出した怯えや、恐れや、色々な物を融かしてやりたい。彼が思いきり泣けるような、本音を言えるような陰になってやりたい。この胸から湧き上がる心を、全て与えよう。
端々に混じる声が、斑目や誰かに謝る声から、言葉が出尽くしたように、蓮、と俺を呼ぶたびに、その声に応えた。





☆★ To be continued!! ★☆

 

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