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失敗★蓮ストール 26-Ⅱ

【 雨宮蓮へのインストールに失敗しました! 】

♯夢小説 ♯ペルソナ5ロイヤル ♯女主 ♯成り代わり
夢主は周回プレイ記憶者です。



 \前回までのあらすじァ!!/

 5/25のマダラメ・パレス。
オタカラ奪還作戦は、シャドウマダラメを下したことにより、幕を閉じる。
祐介はマダラメに死の宣告を投げつけつつも、手を下すことはせず、オタカラを持ち帰ったのだった。持ち帰れたのは、パレス内で見たのと変わらぬ『サユリ』の絵であった。

この日の後日談をほとんど捏造する回





「で、結局俺たちはどういう集まりなんだ?」

 きっかけは祐介だった。
彼は勇者の試練・3杯目、コーヒー・コーラ・カルピスをくいっと煽る。

「どういうこと?」
「俺たちが『怪盗団』なのはあくまで『異世界』での話なのだろう? ならば、俺たちが共にいるのは、何か別の理由が必要なんじゃないか?」
「あ゛ーー…… そうだっけ…?」

メロンソーダ・ウーロン茶・オレンジでダウンしかけていた竜司が顔を上げる。俺は現在カルピス・メロンソーダ・りんごにチャレンジ中。ふむ、とポテトに逃避する。

「俺たち3人は、同じ学校の同級生だからな。一緒にいても、なんらおかしくないが…問題は祐介だな……」
「最初に私を誘った時の理由で良くない?」
「モデルを頼んだ件だな」
「…それと杏をストーキングしてた件な」
「まだ誤解していたのか!?」

するわ、と竜司が祐介の前髪をつまむ。
数日前から見られてたって話だぞ、と言う竜司に、俺が初めて杏を見たのはその『数日前』の放課後だ、との暴露が出る。「キモッ…」という小声は聞かなかったことにした。

「カバーストーリーを考えるか…」

 ジュースにストローを刺し、ちびちび飲みながら呟く。
カバーストーリーとは、事件などが起きた時に真実にそれっぽい理由をかぶせた話を創作して物事の隠蔽を計ることである。テロ行為の爆破をガス爆発と言い換えるとか。

「じゃあヌード依頼の話はそのままで…」
「モデルね?」
「俺たちが仲良くなった経緯…か。お前たちから言及されたことで、一度は突き放したからな…」
「一番隠すべきは真実に目覚めたことじゃねえか?」
「異世界に巻き込んじまったタイミングか」
「あの時は『杏を追いかけたが見失った』と斑目に説明したんだっけ」
「その後…いや、今もだが、お前たちは通報の対象となっているが、俺たちはその間も、そしてこの先も交流を続けることになる…その不自然を問われた時、どう言うべきか…」
「祐介にも良心の呵責があったから、私たちにはこっそり話してしまった〜……とか?」
「ふむ…」
「ヒミツの共有か。ヒミツのことを話すと、なんか心を開ける感じがするんだよなあ」
「わかる〜」

竜司が2杯目に、ドリンクを継ぎ足しに立つ。おい、ズルいぞ。

「この後、私たちが交流を続ける理由は? 私が絵のモデルを続ける以外だと、2人がいる意味、祐介が変態行為をしない監視ぐらいしか、ないよね?」
「誰が変態行為をすると?」
「キミなんだよなあ…」
「うーん、このままだと仲が深まりそうにないね…」
「んじゃ、いっそ他校ってのを利用すればいんじゃね?」

竜司が、どん、とほとんどメロンソーダをテーブルに置いた。

「せっかく縁ができたし、学校違うけど、俺ら、ナカヨシ、ヨロシク! みてーな」
「ほう。リュージにしてはいい案だな。それから?」
「ナカヨシ!」
「ダメだこりゃ…」
「他校、高校生、仲良し…青春の一幕としてはいいんじゃないか。ある仲良しグループが、ある切っ掛けを元に、他校生徒と学校が違うことも相まってこうして話が盛り上がり、それからも交流を続けることになる……」
「…蓮ってたまに自分が高校生じゃないっぽい言い方するよね?」
「…………やっぱり、カバーストーリーいらなくないか?」
「おーい、言い出しっぺ!」

手早く竜司のメロンソーダを奪い取り、直接口をつけてぐい呑みする。

「俺たちは子供で高校生であり、そこに肩書きなどない━━。祐介が斑目の弟子なのはたまたまであり、祐介が純真に高校生であることに何の関係もない」
「なんだそれは」

と言いつつも、どこか可笑しそうな様子である。

「高校は絵の推薦で受かったようなものだからな。だが、自分が斑目の弟子ではないただの人間であるとは…フフッ、考えたこともなかったな」
「これからは自由だぜ? なんだってやっていいんだ」
「なに、絵を描く以外の道など考えていないさ。母からも託された物があるしな」
「そういうところ祐介〜」
「怪盗としても、力を発揮してくれよ〜?」
「そこも当然。そして異世界の経験も全て、絵に活かす」
「ほんっとブレねえなお前〜」

こうしてファミレスでわいわい話し合う仲。
そこに特別な理由がいるかもしれないなんて、杞憂だったか。
 祐介が「ご馳走様」と言って3杯目のグラスを置く。そしてそのまま次の勇者の試練に向かっていくのを、竜司はことさら、俺も半ば呆気に取られて見送った。

「……つえー」
「全然進んでないわよ、言い出しっぺ君?」
「食べ物で遊ぶなよ…」

杏がニヤニヤ笑う。モルガナが飲み進まないドリンクのグラスを、呆れた様子でつついていた。


 祐介、少しキャンバスいいか?
 うん? 何か気になるのか?
嗅いでみた。……。普通に絵のにおいがするだけだ。
「蓮まで変なテンションになるんじゃねーだろうな」と竜司に言われたが、あながち否定しきれない。
脱出前の車内は、例えがおかしいが、むさ苦しい汗の臭いが充満するごとくオタカラのニオイが満ちていって、正直何か催しそうだったのだ。本当に、何なのだろうか……。




 気付けば日の落ちるまで勇者の試練を飲み明かしていた。
部屋のソファに座ってスマホのSNSを開き、『予告状』の反響を確認する。斑目の動向は不明。掲示板には、あの怒りようをみた者の書き込みもあるようだ。
くたびれたソファの前に、モルガナのクッションを置いて、いつでも情報共有できるようにしている。
モナは疲れた体を、くーっと伸ばす。

「2人目の大物までやって、しかも新しい戦力まで! いやあ、順調、順調!」
「モナの案内がいいからだろう?」

と、半分笑いながら膝の上にモルガナを乗せる。

「くぅ〜! どっかのバカリュージに爪の垢を飲ませたいぜ… それにしてもオマエ、『持ってる』よな。五人目のペルソナ使いだぜ。戦術の幅もだいぶ広がる」

モナが尻尾をくねらせて(くすぐったい)膝の上から俺を見上げる。

「それに、怪盗に審美眼は欠かせない。その点、ユースケは本物だ。芸術家なんて、そうはいない逸材だぜ。まあ、ちょっと変わってるけど…」

 俺がスマホを置くと、モルガナがつられるように目を向ける。そして、じっとそちらを見ている。

「芸術家か……」
「ん?」
「ワガハイって、どんな人間だったと思う? 実は悪いヤツだった…なんてオチはねえよな? 人の欲望の塊に、あんな夢中になっちまうし… 他にも、異世界での変身だって、ワガハイだけ、自由に猫になれたり、車にもなれたり…。特別だけど…やっぱ、妙だよな」
「モルガナ……」

ゆっくり、虚空を見回していたモルガナが、くっと俺を見上げた。

「ワガハイって……何者だ?」

…………。
“俺”が持っている答えは、モナが求めているものでも、求められて出す物でもない。

「モルガナは、人間だ」

どんな“存在”か、『今のタイミング』であることを抜きにしても、“俺の知っていること”を軽々しく言えない。そっと小さな手を握った。

「…ほ、本当にそう思ってる? 適当に、返しやがって…」

ぶるんと身を振ったモルガナが、「わっ」俺の膝上をするりと抜ける。

「まあ、ワガハイみたいに立派な志を持ったやつが悪人なわけないか。西に困っている人あらば助け、東に悪人あらば成敗する! 南で歩きタバコする人がいれば注意し、北でイタズラされてる猫がいれば見捨てない。体は丈夫で、雨の日も風の日も、一日一善!」

ニャア! と声高に宣う。…なんだか楽しそうだ。

「そんな理想的な人間…のはずなんだよなぁ。だから、人間に戻れば、きっとあの子も…振り向いてくれるよな?」
「ふぅん。好きなのか?」

我ながら、悪い笑みを浮かべて。

「ワガハイが? ふざけんなよ! ワガハイは恋愛でも追われる立場だ! ハーァッ!」

 まったくわかっちゃいないぜ、とモルガナは伸びをして、座り直す。

「人間になったら、どこ行こうかなぁ…。どんなところが好きかなぁ…。遊園地、映画館、オシャレなカフェ、ショッピング…、オマエ、どう思う?」

ぱたんぱたんと尻尾をふりふり、尋ねてくる。さあ、どうだろう。

「モルガナの行きたいところに、行けばいいだろう? そこが一番いい場所だ」
「なーんだよ、オマエ、ごまかしてねえだろうなあ?」


 ぴぴぴぴ。

【うぃっす、お疲れ】
{みんなでがんばったよね}
〈改めてだが
 礼を言わせてくれ〉
〈母の想いが詰まった絵を
 取り戻せた〉
【祐介にそれ言われると
 マジ救われるな!】!

本当に。今回のオタカラは、まさに祐介のためのようなオタカラだった。

{ホントホント}
{斑目が改心したら
 祐介の生活どうする?
 とか悩んだし}
〈気を遣わせてすまん
 俺は後悔していない〉
{てかさ、
 今回も改心するよね?}?
   【大丈夫だ】>
【鴨志田と同じにやったし
 最後も似てただろ?】?
{そういえば
 斑目が最後に言ったの
 気になるね}
【俺たち以外の
 侵入者の話?】?
【黒い仮面だっけ?】?
〈あのとき斑目は
 かなり混乱していた〉
〈口からデマカセかもしれない〉
〈今は斑目の改心を待とう〉
{わかった}


 ……コンコンコン…… カランカラン……

「んにゅぅ……?」

寝る準備を整えていたところで、ふと、音に気付く。眠い目を擦りながら、耳を傾ける。

「……げっ、カスミ!? おい、こんな日にカスミかよ!」

転がっていたモルガナが、ピョンと四肢で立ち直る。なんだってこんな日に!と鳴き、「居留守使っていいんじゃねえか」と俺を見上げた。
……しかし。
合図のノックの手が止まらない…というか、明らかに間隔が早くなっているような…

「……って言ったって、この間もこの調子だったじゃないか」
「そうだけどよお」
「ずいぶん慌ててるみたいだし…俺、行ってくる」
「あッ、待てって! 服、ちゃんと着てけよお!」

そうだった。上着を羽織る。
ガチャガチャ…大きな開錠音に、ノック音が止まる。
ガチャッ。

「いらっしゃいま」
「助かった!」

雪崩込んできた!? …男はべたん、と玄関先でへたり込んでしまう。

「大丈夫…ですか?」
「い、いや…う、ぷ、うう…… 貸して…トイレ……」

よく見れば、彼の体は小刻みに震え、真っ青な顔で口元を抑えている…モルガナがバタバタとトイレのドアを叩き、「早く吐かせてやれ!」と叫んだ。
慌てて彼に肩を貸す。

 ━━閑話休題。

コップを貸し、洗面所で口を洗ってもらう。戻ってきたカスミ先生は、まだ青い顔で、憔悴した様子だったが、どうにかカウンター席に縋り付いて「ありがとう」とコップを置く。
ビュッフェの時の吐き方ではない。

「レン君…本当に、ありがとう。はは…往来の、情けないサラリーマンの、仲間入りをするところだったよ……」
「判断が正しくて良かったです」
「飲みすぎたのか? コイツ本当はバカなんじゃないか?」

カウンターテーブルから、モルガナは長い尻尾を垂らしている。明らかに見下している。

「…飲み物のご希望は?」
「え……?」
「お客の口に合わない物を出すと、マスターに殺されますからね」
「殺……そんな、気を使わなくていいのに」
「では、俺が何か飲みたい気分なので」

冷蔵庫の中には、俺が入れたカルピスなどのジュースも入っている。というかここ最近、俺の買い物でだいぶ占領が進んでいる気がする。佐倉さんは何も言わないが、整理しないとな…。
自分のグラスにミックスオレを注ぐ。

「なあ、この時間からホットミルクはムリかー?」
「なんだ、モルガナも喉が渇いたのか」

火元の栓は閉めてしまったが、電子レンジはまだ動く。

「君は猫ちゃんの言葉がわかるのかい?」

ほんの少し、先生が笑う。

「ね、猫ちゃ……」
「ずっと一緒にいれば、主張のひとつやふたつわかりますよ」

グラスを置いて、ぐるぐるぐりぐりとモナの頭を撫でてやる。その腕を両手でハッシと掴まれて、やれやれと手を離した。じっとそのやり取りを彼が見つめている。

「……そうだね。一緒にいればお互いへの理解が深まるもの…、そうなんだよね」

 ご注文は、と改めて促した。
ホットミルクを…、と頼まれて、マグカップに注いだそれをレンジに入れ、温めて、ハチミツを加えて出す。モルガナ用にもう一杯淹れて、皿に注いでそっと置く。モルガナは冷めるのを待つのももどかしそうで、手をそっと近づけては引っ込めている。

「ずいぶん賢い子だね。ちょっと人間みたいだ」
「おお、わかるか、ワガハイの知性が!」
「並みの人間より、賢くて、器用ですよ」

ミルクを飲むカスミ先生の頬は、少し色を取り戻しつつある。

「後で借りていいかい? ……あ、いや、人のペッ…家族を、借りるなんて言い方」
「ふふ、どうぞどうぞ。でも、こいつは借りてきた猫にはなりませんからね」
「うるせー! ワガハイにも行儀ぐらいあるわ!」

いつまでもミルクが冷めないのが不満らしく、バタンバタンと尻尾を振っている。
俺もカウンター席に移って、ジュースをゆっくり飲む。
ほっと、彼の肩に入っていた力がゆっくり抜けていくのがわかって、自分が年下とはわかっていながら、ほほえましい温かい目で彼を見守る。
ルブランのルール━━相手に無理に話を振らないこと。佐倉さんは、聞き流したり、受け流したりしているが…、俺にはまだ真似できそうもない。だから、彼が話したくなったら、聞く。

「……その……」
「なんでしょう」
「…………おかわりって、ありかな」

牛乳は、自分で買ってきている物を渡している。

「…約束、忘れていませんよね、カスミ先生?」
「そうだった」

自分も空けたグラスを満たすために、席を立つ。「お節介だなぁ」と言うモルガナが、やっとミルクを飲み始めていた。
追加のホットミルクを温めている間に、雑誌と新聞を取ってくる。それから、ここ最近集めた、不祥事の噂を聞く著名人への見解を述べていく。怪盗団に提示したのは3人だが、『外れ』と判断したのも数人いる。彼らについても、如何にして自分がそう思ったのかを話す。
カスミ先生は話を真剣に聞き、納得や、視点の不足、根拠の補強などを言ってくれる。ひと通り聞き終わると、先生は週刊雑誌を…、脇に置いて、情報収集に関する知識、心理学、心構えなどを話し始める。そのことについて俺がメモに書き取りたいと言うと快くそれを待ってくれて、教授についての鉛筆書きのメモを覗きながら、ここは間違いで、ここはもっとこう書いた方が、とチェックしてくれる。
話をしてくれる間のカスミ先生は、さっきの気弱な様子などまったくなく、しかし傲る様子もなく、俺のために知恵を使ってくれる。

「ふう……」

 ひと息ついたカスミ先生の膝には、モルガナが乗っかって丸まっている。眠そうだ。

「今日はこの辺にしようか」
「ええ、ありがとうございます」
「…君のためになっているかい?」
「とても。今日のことは、特に、他のことでも使えそうですね」
「そうだね。本格的に、そう、政治なんかに触れる前に、覚えておいた方がいい」

マグを手にした彼が「あれ」と呟き、困ったように笑いながら「冷めてしまった」とそれでも中身を飲む。マグを置いたカスミ先生は、そっとモルガナの背に手を置く。モナは大人しくしている。

「…今日は眠そうだね」
「ばれましたか」
「仕方ないさ。こんな時間に押しかける大人が悪い」

そう言って自嘲する。

「そう言うカスミ先生は、ずいぶん楽そうな顔になりましたね」
「…そうかい……?」

まだ不安を抱えつつも、安堵した顔で、眼鏡の奥を細める。そして、黙って、俺の方を、じっと見つめている。疑問符を浮かべて、見つめ返す。

「……いや……」

と、ボソッと呟いて、

「…聞かないんだね、」

そう小さな声で言う。
まあ、普通は事情を聞くようなところだけども…。

「俺は、カスミ先生が、ここで落ち着いてくれればいいと思っています。先生が中に抱える辛い人間を、一度手放して…それが、ルブランですから」
「……そうだ、確かにね」

 カスミ先生が、モルガナを抱き上げてカウンターテーブルに戻す。にゃぁ、と小さく鳴く。彼はそのまま、カウンター席を立った。

「帰りますか?」
「ああ、その勇気が出たよ。今日は本当に、ありがとう」

そして千円札を置く。大きいって。
そんな遠い距離でもないが、玄関先まで先生を見送る。

「そういえば……」

 先生が戸を開けようとして、手を止めた。

「あの斑目画伯の個展に脅迫状が届いたという話、聞いたかな」

モルガナがパタン、と尻尾を振るうのが聞こえた。

「……あれですか。話題ですね。若手のSNSにも流れてます」
「…馬鹿なことを…。脅迫状に限らず、誹謗中傷は、刑法の……」

……。よく意味はわからなかったが、『逮捕何年』『罰金』などなどは理解できた。…うわー。

「……レン君、ないとは思うけど、あの内容に同意を述べるような事も、場合によっては法律に引っかかるから、肝に命じておくようにね」

俺たちがご本人です…。
まさか、最後にこの話題が出るとは……。

「……実は、縁があって全文を読ませてもらっていてね」
「え……?」
「大層な書き方だったが、意味はわかった…けど、意味がわからなかった。脅迫状の貼り方も、まだわかっていない。『怪盗団』というのは、とても危ない橋を渡る者たちのようだね。それに…さっきの話とも重なるが、脅迫というのは、述べられた内容が事実であれ、事実でなかれ、犯罪だ。妙なパフォーマンスで話題になってはいるが、こんなことをする連中が、人々の盛り上がる話題のタネになるようなら、人というものを疑いたくなるよ……」

……かなり心に刺さった。
振り返ったカスミ先生が、慌てて首を振って「く、暗い話題にしてごめんっ」と小さく頭を下げる。
そんな顔、しちゃってたか。

「こ、こちらこそ…」
「あ……うん?」
「俺は…………カスミ先生の話、聞きますからね!」
「…それ…」
「……お、おやすみなさい!」

彼が手をかけていたドアノブを、自分も掴んで大きく引っ張る。夜風がぶわっと吹き込んでくる。何の空調もかけていない、店内だったのに、温度差にぶるっと体を震わせる。

「…おやすみなさい」


 5/25 個展終了まで11日
 ついに、マダラメ・パレスからオタカラを奪還する。
皆に全て話された、祐介にまつわる話、『サユリ』にまつわる話。激怒と共に、祐介は変異したマダラメに斬りかかった。戦いの時の咆哮と絞る声、垣間見える表情、あれほどの怒りに達しながらも、努めて冷静である自分を保とうとしているようにも見えた。
パレスの侵略行為が人殺しに繋がる可能性があるというのは彼に伝えた通りだ。
マダラメの本心の暴露は、祐介の父母を殺した。
その手に武器を持って力を持って、いくらでもどんな手でも、パレスでマダラメを殺すことはできたはずだ。それでも…祐介は情けをかけた。
杏と似て、『生き恥』を彼に選ばせたのか、
『お前の描いた絵ほどの価値もない』ように、罪を犯す相手にはくだらないと考えたのか、
彼が話したくなったら、その時に聞くとしよう。
 今頃持ち帰られたサユリは、斑目邸で姿が見えないようにこっそりと隠されているのだろうか。母があの絵を描いたから祐介が画家を志し、祐介が画家を志したから母の絵は彼の手元に戻って来ることができた。
この後の祐介が、その『サユリ』をどうするかはこの後の話。
…今思い返しても、見たあの妙な夢。
絵の中のサユリが浮かべた笑みと義賊に目覚めた祐介が浮かべた笑みがそっくりだったのが、何かの予知的な物だったのか、たまたま記憶が繋がってしまったのかわからないが、どちらも恐ろしく、美しく、そして似合うなと思うのである。
 これからの祐介も、俺たちと一緒にいてくれることになった。
 表向きは仲良し高校生グループの一員、裏は怪盗団の一員、そして個人は画家を志す高校2年生。
……勇気の試練、強すぎる。
これから祐介に振り回され、そしてあばら家の外の世界に導いていくのを、とても楽しみにしている。

 と、夜を過ごしていたところに、まさかのカスミ先生の訪問。
飲みすぎたらしく、吐いてしまう。
俺はそれを尋ねたりせず(彼がそれを求めるなら聞くが、自ら促して聞くほど俺はカウンセラーができていない)、飲み物と落ち着く場を提供する。代わりに、新聞を読み解く方法を教えてもらう。
話を聞いた方が良かったのかもしれないけれど。
いわゆる、今度は言ってほしい、みたいなことを言ってしまったけれど…。
 唐突に彼から斑目に予告状が届いた話を持ち出されて、かなり“来た”。そうか、まっとうで冷静な大人には、そう見えるか、と。そして、主観のない客観的視点も持ち合わせている。
背筋が冷えた。
もし、予告状と奪還作戦の間に彼との対話が挟まっていたら、俺は『冷静さを取り戻し』、作戦への参加をやめていたのではないか、と思うほどに。
 ……そういう意味で、
彼の意見も、とても貴重なものとして、取り入れられるのではないかと思えている……。




☆★ To be continued!! ★☆

 

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