あまじょっぱい

お餅を食べるとき、姉は決まってきな粉
私は絶対砂糖醤油
焼き鳥を食べるとき、姉は決まって塩
私は絶対タレお鍋を食べるとき、姉は決まってしゃぶしゃぶ
私は絶対すきやき
お煎餅を食べるとき、姉は決まって海苔
私は絶対ざらめ

あっさり消えないあまじょっぱい味が好き
食べた後もゆっくり幸せだから


あっさり消えない人間が好き


姉は26歳の誕生日に音信不通になった

私は最初、それほど気にしなかった
充分大人だし、人間関係も生活も簡素な人だから
理由は携帯が壊れてた、とかで
何事もなくあっさり戻ると思ってた

あっさりしたのは寂しいから嫌い


姉は寂しくなかったのだろうか

一人暮らしで彼氏が2人、両方家庭を持っていたらしい
ダックスフンドを飼っていたけど連絡が途絶える二週間前に友達に譲られていた
姉は消える準備を1人淡々と進めていた

いつか言っていた姉の声を思い出す
「いまが全部だから、なんも未練が無いんだ、私。」

私は全部後から知った
姉のいまを何も知らなかった


火葬場で食べるお弁当はあまり美味しくない
食べるという生に直接結びつく行動を、わざとしい質素さで隠している様がむしろ生々しく思える

淡白な味付けの和え物や焼き魚はどれも姉好みだった
私はやっぱり好きじゃなかった


占いをするといつも私がお姉さん気質と出て姉はひとりっ子気質と出た
その度なんだかわからない絶望感と寂しさを感じていた
姉はカラッと笑って「だから占いは信用無くて大好きなんだよな」と言った


あっさり消えた姉が嫌い


ダックスフンドにリリと名前をつけて可愛がっていた事、私全然知らなかったよ
東京に出るって言った私のこと、引き止めず送り出したのお姉ちゃんだけだったじゃん
あっさりしてない私のこと、好きじゃないのかと思ってたよ


お土産に買ってきたあられの詰め合わせは親戚一同に大好評でどんどん無くなっていく
「あまじょっぱいの好きじゃないからリリカ全部食べな」
そう言って渡してくれる人がいないから仕方なく残った塩味を食べる
あっさり消えてく味が残す少しの寂しさにやっと気付いて、今更私も、好きになった



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