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鏡の不思議:ひとつの解決案

 鏡の問題をといた論考は、概してページ数が多い。鏡では、なぜ反転が起きるのか、なるべく簡潔に考えてみたい。ややこしい表現があるので、ゆっくりお読みになってほしい。

 鏡が、床に置かれている場合を考えたい。鏡は、鏡に向かって、下に飛んでいく光を、反射させ、反射した光は、上へと飛んでいく。

 上へと飛んでいく光は、下へと飛んでいった光に等しい。したがって、上へと飛んでいく光を見る(鏡を見下ろす)ときの光景は、下へと飛んでいく光を見る(床から天井を見上げる)ときの光景に、基本的に等しい(そのため、天井を見上げた像が見える)。

 しかし、次が肝心である。下へと飛んでいく光を見るときには、視点は下にある(例えば、床に寝そべっている)。だが、鏡を見下ろすときには、視点は上だ。したがって、鏡においては、下へと飛んでいく光を、上の視点から見ている。

 すると、下の視点から、光を見るとき(寝そべっている)と、上の視点から、光を見るとき(鏡を見下ろす)では、左右が逆になる。

 ふつう、天井を見上げるときには、下へと飛んでいく光を、下の視点から眺めている。しかし、鏡の場合、下へと飛んでいく光を(同じ光が上へと返ってくるため)上の視点から眺めており、その点で、ふつうとは視点が逆転する。

 例えば、右手の手のひらを下に向けて、床の鏡に向ける場合、下へと飛んでいく光を、下の視点から見ることは、その手のひらを、下から眺めることにあたる。この場合、親指は、視点からみて「右側」にある。

 それに対し、下へと飛んでいく光を、上の視点から見ることは、先ほどの手のひらの光景を、視点だけひっくり返して、上から見ることを意味する。想像するしかないが、この場合、親指は、視点からみて「左側」だ。

 同様の、光と視点の関係から、正面の鏡での反転も成り立つ。この場合、鏡に向かって、前へと飛んでいく光と、反射したあとの、後ろへと飛んでいく光は等しい。

 ふつう、正面に立つ人を見るときには、前へと飛んでいく光を、前の視点から眺めている。だが鏡では、前へと飛んでいく光を、後ろの視点から眺める。そのため、視点が入れ替わって、ふつうとは逆の光景が見える。

 ゆえに、次の関係がいえる。Aへと飛んでいく光を、Aの視点から見るのが、ふつうである。鏡の場合、Aへと飛んでいく光を、Aとは逆の方向の、Bの視点から見るために、視点が入れ替わって、左右が逆になる。

 それは、鏡が光を反射させた、Bへと飛んでいく光の情報が、Aへと飛んでいく光の情報に等しいために、Aへと飛んでいく光を、Bの視点から見ることが可能になるためだ。光の情報と、その光を受け取る視点が、鏡ではあべこべなため、左右は反転する。

 左右反転の、基本的な仕組みは、以上のように考えると、ある程度分かりやすいと思う。ただ、光の情報に対する、視点のあべこべが、なぜ左右のみ反転させ、上下を変えないのかは、別の問題だ。

 それは、Aに対するBという、視点の入れ替わりが、鏡に向かい合う方向においてのみ、生じるためだ。

 まず、鏡が立っている場合、AとBという視点の入れ替わりは、垂直に立っている鏡に対して水平に、すなわち前後方向にのみ、生じうる。前後が入れ替わると、左右も入れ替わるが、上下は変化しない。

 他方、鏡が床に置かれている場合、視点の入れ替わりは、水平に置かれている鏡に対して垂直に、すなわち上下方向にのみ、生じうる。この場合、上下が入れ替わると、左右も入れ替わるが、前後は変化しない。

 つまり、視点の入れ替わりは、必ず鏡に向かい合う方向に生じ、それは前後もしくは上下だが、左右は、そのいずれの可能性においても反転する、唯一の方向だ。そのため、鏡は、条件にかかわらず必ず、左右を反転させるが、他の方向の反転は、鏡の条件に依存する。

 今のところ考えつくのは、このようなところだ。問題というのは、わからないときが、最もうつくしい。この問題という花が、咲き終わったのであれば、うれしい。

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