コロナが教える Eat Localと食料安全保障の大切さ

新型コロナウィルスが生活の様々な場面に影響を与えており、世界各地の食の現場も例外ではなく、多くの国で食にまつわる変化が起きています。特に、欧米では大規模なロックダウンが実施されて早1ヶ月ほど。ロックダウンが実施されている国々の食の現場への影響がニュースの形で日々伝わってきます。そして、その食の変化からは、日々の食のシステムがどういう問題や脆弱性をはらんでいるのかが見えてくるように思いますし、そこから日本が学ぶべきこともあります。それでは、いくつか分類をしてここ1ヶ月ほどの主な世界(特に欧米)の食のニュースをご紹介します。

①:生産現場編

・春の農繁期を迎えるヨーロッパの農業国で人手不足が深刻に
フランスをはじめヨーロッパの農業大国では、アフリカや他のEU諸国から季節労働者を受け入れる形で農繁期の現場を運営しています。それが、アフリカからの渡航はおろか、EU域内での移動制限が行われているため、春の農繁期を迎えるにもかかわらず人手が集まらないという事態になっています。これは、外国人の技能実習生に生産が支えられている一部の日本の地域でも同様の問題が発生しており、フランスではコロナによる失業者を農作業人員にまわそうという動きも出ているようです。ただし、収穫等の農作業は決して簡単な仕事ではないため、スタッフを緊急で集めることができても生産性には不安が残りそうです。

・アメリカで食肉工場の閉鎖が相次ぐ
JBS(世界最大の食肉加工企業)など、アメリカ国内の大手食肉企業の工場で新型コロナウィルスの感染者が発見されるケースが相次いでおり、感染が確認された工場が次々に閉鎖されています。今後このような事態が長引けば、食肉の供給が滞る事態も予想されます。

・アメリカの農場で大量の食品ロスが発生
ロックダウンにより外食産業が閉鎖されたアメリカでは、レストラン向けの行き場を失った農産物が大量に廃棄されています。アメリカの農産物は外食産業への依存度が高く、この影響は重大です。

②:流通現場編

・航空、船舶輸送網が世界的にスタック状態に
世界的に移動が制限された結果、航空便の大幅な減便や港湾労働者の不足により、物流網が停滞しています。船舶輸送は、中国での港湾労働者不足が一時期に比較すると回復してきているものの、インドで大規模なロックダウンが新たに実施されている影響などで世界的には停滞が続いています。

・アメリカのスーパーマーケットで防護具等が不足 営業不能に陥るケースも
アメリカでは医療現場などにマスク等の医療防護具が優先的に供給された影響で、スーパーマーケットなどで防護具が不足しています。この結果、従業員が出社を拒否したり、スーパーが自主的に感染拡大を防止するために休業するケースが出ているようです。

・アメリカでフードバンクに農産物の寄付が集中するも、廃棄に
上述のとおり、アメリカでは農産物のダブつきが深刻になっていて、多くの農家が収穫した農産物をフードバンク(規格外品を生活困難者などに無料で配布する施設)に寄付しています。ただし、農産物の多くは生鮮食品であるがゆえに、貯蔵するための冷蔵設備が足りず、結局廃棄となってしまうケースが多発しています。

・ロサンゼルスでCSAの利用者が三倍に
ロサンゼルスのCSA(Community Supported Agriculture ※地元の農家から野菜を買い取るシステム)による食品宅配の利用者がロックダウンが実施されて以降、三倍に増えています。感染防止のためにスーパーへの外出を自粛しているためもありますが、高度なサプライチェーンの脆弱性が明らかになったことで地産地消への需要が高まっていることも考えられます。

③:消費現場編

・アメリカの個人経営レストランの75%が倒産の危機に
営業不能となっている個人経営レストランの実に75%が倒産の危機にあるという試算が発表されました。テイクアウト専門に切り替えて営業しているレストランが多いですが、感染防止のための従業員による出社拒否やデモが起きており、経営者は従業員の出社を自粛する傾向にあるようです。

・ストレスによるファストフードへの需要が急拡大
欧米では健康志向の高まりから、スナック菓子や冷凍食品などの調理済みファストフードの消費が減少傾向にあったが、コロナによるロックダウンが実施されて以降、こうした食品の消費が急速に拡大しています。在宅勤務が増え、外食の機会が減ったことも要因の1つにあるが、長引くロックダウンなどによるストレスの増加で高カロリーなこうした食品への需要が高まっていると考えられています。事実、普段はオーガニック野菜などを好んで食べるような人たちの間でもこうした現象が見られるようです。

・失業者が急増しているアメリカでフードバンクがパンク状態に
失業者数がリーマンショック時を上回っているアメリカでは、失業者がフードバンクに殺到し、施設がパンク状態に陥っています。アメリカでは学校給食が停止されたことで、貧困層の子供たち向けの朝食と昼食の無料提供サービスを中止となり、失業した家庭では食料確保が深刻な問題となっていると考えられ、毎日数百台の車が施設の前の道路に列をなしているようです。急速に増える需要に対して食品の寄付やボランティアスタッフが不足しており、施設側のリソース不足が深刻です。

④:コロナを通じて見えること

こうしたコロナによる食の世界の変化を観察して、改めてはっきりとすることは、現在の食の世界が広大で複雑なサプライチェーンに依存して成立しているということです。ここでいうサプライチェーンの「サプライ」すなわち供給は、物質的な供給に止まらず、人的リソースの供給までも含みます。生産現場から流通に至るまで、世界中の様々なファクターが複雑に絡み合い、見事ととも言えるチェーンがあって初めて、現在の食の世界が成立しているのです。

そして、今回のように、この複雑なチェーンはどこかでひとたび問題が発生すれば、途端に破綻し得るような脆弱さをもはらんでいることを実感します。
例えば、アメリカでは外食産業への食の依存度が高いがゆえに、外食産業がストップすると農産物が行き場をなくし廃棄される。ここで重要だと思うのは、消費者の需要は決して減退していないということです。消費者はその農産物を欲しているにも関わらず、既存のサプライチェーンが個人に届くように組まれていないので、結局は食品ロスとなる。そして、ロスが続けば、農家も農業を続けることが難しくなるでしょうから、食の基盤そのものが怪しくなってくる。

さきほどCSAの利用者増の話題もありましたが、こうなるとよく言われるとおり、地産地消でなるべく短いチェーンで食品を供給することが安全だということになります。欧米メディアの言葉を借りれば「Eat Local」です。

ただ、もう1つ、このコロナで起きている現象で興味深いのは、多様な食に囲まれた現代人の嗜好はそう簡単には変えられないということでもあります。つまり、さきほど紹介したニュースが示すとおり、普段は健康に気を使った食事をする人たちでもふとした瞬間にジャンキーなものが食べたくなったりもします。多様な食の機会があるのが現代的な豊かさだとも思いますし、この豊かさを経験した我々が地元で取れた食べ物ばかりで生活し続けるのは難しいということもあるでしょう。

なので、完全なEat Localは難しいにせよ、ローカルな食品への関心を保ちながら、自分たちの環境では作れない食品は輸入するという姿勢が現実的な食の在り方なのかと個人的には思います。特に、我々日本人は、自分たちの環境では作りにくいものを食べるのが大好きな国民です(だからこそ自給率が低いわけですが)。

結論として、僕らが今回を機に改めて考えなくてはいけないのは、Eat Localの重要さと、周到な食料安全保障戦略の重要性なのでしょう。
今後、こうした危機に瀕した時であっても、多様な食の機会をできる限り守り続けられるように、コロナを教訓として活かしていかなくてはいけません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?