本の記録:ユヴァル・ノア・ハラリ『サピエンス全史』(上巻)

三部構成で、第一部「認知革命」第二部「農業革命」第三部「人類の統一」。

地球上のただの動物にすぎなかったホモ・サピエンスが「人」の定義を手にした認知革命。虚構の上を、すなわち想像上の秩序に生きる能力を手にすること。
この瞬間から歴史が生物学からの独立を宣言したと喝破する著者の一文は秀逸。この想像上の秩序に生きることができる能力があるからこそ、生物学的な世界とは異質の「文化」と呼ばれるものが誕生する。社会科学は実態のない(共同主観的な)想像上の秩序に何らかの客観的な意味を肉づけしようとし、文化は内在する様々な矛盾に折り合いをつけようと試みる。そして、この矛盾への折り合いこそが文化の本質であったりする。

元来ホモ・サピエンスは、雑食の狩猟採集民族であったのだけど、ひょんなことから定住の農耕民族となった。人類は類稀なる想像力があったから、善なることとして農耕を始めた。そして、農耕は受け継がれ、振り返ると実は個としての幸せ(肉体的負担や精神的負担)は元来の狩猟採集民族であった頃に比べれば落ちた。しかし、種として考えれば驚異的な進歩をもたらしていたので、もはや戻ることはできなかった。そして何よりこの変化は漸進的だった。たぶんこの犯人は小麦である。
個として幸せだろうと考えて始めたことだが、思いがけない結果となってしまった。人間の想像力といっても所詮その程度であり、贅沢品は必需品となるという歴史の鉄則を著者は指摘する。

個の不幸せと種の繁栄とはつくづく、厄介な問題である。

種として大成功をおさめた人類は巨大化した社会を、虚構を生きる力で運営し、そしてその中に生きた。こうした成り立ちを持つが故に、世界には色々な秩序を持つ社会が溢れていた。そして各々の社会がその秩序を何らかの理由で正当化していた。ただ、すべての社会に当てはまる秩序が幅を効かせるようになる。それが経済秩序であり、貨幣を利用した新たな秩序である。この秩序と武力を併せて帝国が様々な社会の統一を推進し、この統一の流れは今のところ止まるところを知らない。



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