本の記録:石毛直道『日本の食文化史』

久しぶりに気合を入れて読み直した。いつでも日本の食文化史を俯瞰で追いかけられるとても貴重な本と思う。

あらためて思うのは、食文化は常に社会や環境の状況と密接しながら変化をしてきたのだなという、至ってシンプルなこと。

温暖化による稲作にはじまり、農耕社会の形成と宗教が複雑に絡み合ったによる肉食のタブー化。

西欧社会との接触による外来作物や南蛮料理の流入。そして、戦国時代の新秩序の中での新たな食文化の創造。

貨幣経済の浸透による町人文化の発達と都市的食文化の洗練。鎖国下の江戸時代における社会的安定とその構造が日本を(特に江戸を)世界屈指の外食先端都市(美食都市)に育てあげた。

開国に伴う食文化の欧化政策と、日本らしい外来文化の受容(Adopt and Adapt)。外来食文化を日本流にアレンジしてうまく食文化のなかに取り込んだ。この受容の過程で日本が明治〜大正にかけて経験した諸戦争が果たす意義も大きい。

第一次大戦を契機とするいわゆる大戦景気による都市部の中流階級の増加による食文化の急速な欧風化の進展。注目したいのは、都市部と農村部で江戸時代から変わらず、食文化について大きな乖離があった点。

しかし、世界恐慌、そして第二次大戦を経験する日本では大正デモクラシー期の食文化が後退する。戦後の日本全土的な食生活の多様化は言うに及ばずで、これはGHQの対日政策が大きな影響を及ぼした。ここで考えるに、GHQが農村部を中心に食の欧風化を推進したのは、江戸時代以来の都市部と農村部の食文化の乖離を踏まえてのことかもしれない。

戦後日本の詳細な食文化史は別の文献に詳しいが、食と社会がクロスオーバーするところにはやはり興味が尽きない。つくづくそう思う。

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