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【詩】異なるもの(過去作)




憎しみと排斥の霊が世界を徘徊している
大通りでは高ぶる敵意が靴音を立て行進し 
街角からは結集する不安の吹き溜まりが
唾を吐き、斬りかかり、火をつけている
異なるものに

異教徒の家と服には
卑しい印がつけられ
異なるものは
敵なるもの
逆なるもの
善に対する悪と化す
その抹殺は正義と化す

隠れる子供たちは怯え
膝を抱えて守るその胸には
深く、熱く、真っ黒に
傷が焼き付いていく

救いの神を求め懇願しても
手は差し伸べられず
人間に都合よく呼び出された
操られる偽りの神だけが
先頭に立ち
殺戮を命じている

もはやそこに愛を説いた神はいない
敵をも愛せよと説いた神はいない
自分を磔にした者たちさえ赦した
あの神はいない

明かりを消した地下室
逃げ込んだ若者は
荒い息を押し殺し
虚空に問う

教えてくれないか
互いに異なるものが
敵ではなく
悪ではなく
愛すべきものと化す
魔法を

教えてくれないか
異教徒、異民族、
異なる価値観が
忌まわしいものでなく
愛おしいものと化す
科学を

返ってこぬ答え
神々の沈黙

教えてくれぬのならと
若者は目を閉じ
心の中で答えを追い求める





***
2017年頃に書いたものです。
noteに載せている詩集『異なるものの結合』所収。

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