「母のイングリッシュガーデン」#紅茶のある風景
ウチの庭はこの辺りでは珍しい英国風の庭、イングリッシュガーデンだ。
薔薇のアーチをくぐると、そこには一面、ピンクの濃淡でアレンジされた
薔薇の園が広がる。
古い写真では何の変哲もなかった庭が、私の物心がついた頃には既にこう
なっていたので、チェンジしたのは母が嫁いできてからに違いない。
なぜなら、母はイギリスに留学したこともあるくらいの親英家で、
英国かぶれっぷりが半端ないからだ。
そもそもは、ダイアナ妃に憧れたのがきっかけだったとか。
イギリスで習ってきたスコーンを焼き、サンドウィッチやスウィーツも
添えて、この庭の特等席でアフタヌーンティーを楽しむ。
ウチではこのスウィーツのカテゴリーに、大福やどら焼きも含まれる。
その辺は、ちょっと緩いお作法だ。(笑)
もともと「3時のおやつ」の習慣があった祖父母も、このアフタヌーン
ティーに順応するのに時間はかからなかったそうで。
それだからだろうか、世間で言う「嫁姑問題」「嫁舅の確執」などウチには
存在しない。
そんなこんなで、アフタヌーンティーはいい習慣だとは思うが、よろしくないことが1つだけある。
三食+おやつの食べ過ぎで、なぜだか私だけが肥満児に育っていたことだ。
これだけは納得がいかない。私は被害者だ。(笑)
さて、母曰く、「アフタヌーンティーは日本の茶道の様なもの」とのこと。
細かい決まり事、マナーがたくさんあるのだという。
例を挙げると--------
紅茶を飲むときは、ソーサーを持ち上げてはいけないが、テーブルと
距離が出てしまう場合や立食時は、ソーサーも一緒に持ち上げるとか。
うーん、ややこしい・・・
皿が三段になっているケーキスタンドがあるが、下からサンドウィッチ、
スコーン、ケーキの順に食べていき、逆戻りはしてはいけないとか。
まぁ、ウチではそれらは守っていないが。
なにしろ、テッペンに大福をのっけちゃうくらいですから。(笑)
とはいえ、茶葉の計量や蒸らし時間の「数字」はキッチリ計るなど、
紅茶の入れ方に限っては、しっかりと守りたいようである。
そりゃ、味に直結することだからね。
そうそう、イギリスでは、ティーポットのフタを押さえず片手だけでお茶を
注ぐのがマナーで、これだけは純日本人の祖父母は「行儀が悪い」と未だに
眉をひそめている。日英文化の違いが面白い。
紅茶が抽出されるときの、お湯の対流による茶葉の動きをジャンピング
と言うが、熱湯を勢いよく注いだ後、上下する茶葉を覗きこみ、
「ジャンピング、ジャンピング ! 」と言いながら、ワクワクしている様子が、わが母ながら可愛らしい。(照)
そんな母のお気に入りは、タップリの牛乳に少し濃くなった残りの紅茶を
注いで作るミルクティーだ。
それから忘れちゃいけないのが、スコーンには生クリームとバターの中間
のようなクロテッドクリームなるものを、これまたタップリとのせること。
ジャムも添えてね。
「クロテッドクリームのないスコーンなんて」と、何処かで聞いた様な
セリフを、いつも尤もらしい顔で言っている。(笑)
スコーンを一口大に割って口に頬張るとき、それはそれは、幸せそうな顔で微笑む。
見ているこっちも幸せをもらう。
現在は独立して一人暮らしの私。
ティーセットもケーキスタンドもないし、なによりあのキッチリ計らなくて
はならないお作法は、私には億劫でしかない。
にも拘らず、アフタヌーンティーの習慣は今もなお続いている。
なぜなら ---------
わざわざお作法をしなくても、様々な製法を駆使して、
より香り高く美味しい紅茶が、コンビニで手に入るからである。
有難い世の中だ。
いつものように、片手には「午後の紅茶」。
実家では、家族がアフタヌーンティーを楽しんでいるであろうこの時間に
私もホッと一息。
うん、繋がっていると実感できるこのひと時。
糖質抜きダイエットを始めた私には、ケーキスタンドは御法度。
あれやこれやの添え物が無くても、それだけでゆったりとした気分に
させてくれる、この1本さえあればいいのだ。
ボトルにゴールデンドロップを集めたかような、
香り高く贅沢な味わいがある。
あ、そうは言ってもモンブラン、あったらいなぁ・・・