ぼくは ぼく / LOVE MYSELF
『のはらうた』でいちばん好きな詩は「ぼくは ぼく/からすえいぞう」。初めて作った詩画集のタイトルにも付けさせてもらいました。
まわりの鳥たちの「いろつきの はね」をうらやましく思ったこともあったけど、生まれつき備わったこの黒い羽根で空を飛んでいくことにした──。これまで描いてきた絵にやっと自らOKを出せて「ぼくは ぼく」で行こうと思えるようになった、去年から今年にかけての心境とも重なっています。
中学生になった娘と一緒に最新のポップソングを聞くと、「自己肯定」をテーマにした曲が増えていると感じます。「私は私」「自分を好きになること」etc…。同調圧力や、外部からの様々な攻撃・プレッシャーの中で、自分らしさを貫くこと、ありのままの自分でいること、自分を好きになることが、とりわけ現代を生きる若者たちにとって難しい時代なんだと思います。
ありのままの自分でいること。そんな自分を好きでいること。
きっと若い世代だけでなく、どんな世代の人にとっても大切なこと。もちろん、人生の後半をとっくに過ぎた頃になって、自分にしか描けない絵の道を再びとぼとぼと歩き始めた“ぼく”にとっても。
最近、娘や家族の影響で、BTSを聴くようになりました。
躍進目覚ましいK-POPグループの一組として認識していた彼らのことを、特別な目で見るようになったのは今年(2021年)に入ってからのことでした(最初の出会いは2019年、Spotifyのバイラルチャートで偶然発見した「Boy With Luv」とJ-HOPE「Daydream」「Chicken Noodle Soup」)。
多くの人が指摘するように、彼らの活動には音楽やダンスの才能(とたゆまぬ努力)、アイドルとしての魅力だけにとどまらない「社会運動」的な要素があると思います。ARMY(アーミー、아미=アミ)と呼ばれるBTSのファンは、単なる消費的な「推し」としての立場を超えて、“前線”に立つ彼らを支えながら団結し、自身も共に戦う戦士にもなります。
このような新しいファンダムの形が、日々供給される“兵糧”や“戦略物資”とも相まって、彼らに関与する体験を面白くし続けているのだと思います。いますべて戦争の比喩で表現しましたが、彼らのゴールや武器は、戦争とは真反対にある平和そのものです。
BTSが2018年、『LOVE YOURSELF』というテーマで発表した連作の結末に「Answer: Love Myself」という曲があります(『LOVE YOURSELF 結'Answer’』に収録)。歌詞は、同じく2018年に行われた(リーダーのRMを代表とする)国連総会でのスピーチに通じる内容です。BTSは、世界中の子どもや若者の自尊心を促すため、ユニセフと協力し、アルバムと連動した「LOVE MYSELF(私自身をまず愛そう)」キャンペーンなどをサポートしています。
「私は私」のような自己肯定を促すポップソングの多くに、社会や外敵への反発や防御としての、自分らしさの強調、というモチーフがあるとしたら、BTSの「LOVE MYSELF」にはそれらとは少し異なる、長いスパンで人生そのものを包み込むような、一つひとつの「個」への強くて温かい肯定の眼差し(=愛)が感じられます。そのメッセージは若者だけでなく、世界中の人々の心を優しく明るく照らしてくれているに違いありません。
ちなみに、同アルバムには「IDOL」という、自己への絶大な自信(とファンへの信頼)を示す曲もあります。「俺はいつだって俺だから」「お前には止められない 俺が俺を愛することを」……この振り幅も面白い。
『のはらうた』の、くどうなおこさんの短い詩と、詩から浮かんだ光景をただシンプルに描いた絵。そして、その背後に流れる、自分の心の中だけにしか見えない人生の時間(失敗とわずかな喜び)。それらがひとつに合わさって、星のひと粒のように小さな詩画集とグッズがやっと生まれました。
それでもまだ、BTSのように揺るぎない確信で心が満たされることはありません。スタートラインに立てたとすらいいがたい状況です。ただ(欠点も数々の間違いも含め)「これが ぼくだ」ということが、ようやく理解できたのは間違いなさそうです。この“ぼく”で、これからも少しずつ前に進んでいきます。
ぼくは、ぼくの星をこれからも夜空にひと粒ずつ刻んでいくだろうと思います。自分のやり方で。願わくば、偶然それに気づいた人の心を優しく照らせるように。
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