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東京国立近代美術館「重要文化財の秘密」(2023/4/15)

前々から気になりつつも、竹橋はちょっと遠いなあ、注目の展覧会だし土日は激混みだろうしなあと半ば諦めていたこの展覧会。

ですが折よく中野へゆく機会ができ、帰りに寄れることとなりました。17:00入場ともなると(それなりに賑やかではありますが)混雑はほとんどなくどの作品もじっくり見ることができました。夜間開館のありがたさ……。

さて、重要文化財に指定された近代美術作品のみで構成された本展覧会。章立ては日本画・洋画・彫刻・工芸とジャンルごと作品を紹介するシンプルなものでした。

キャプションの他、特定の作品には「ひみつ」なるtipsが付されていて、重要文化財に指定された経緯や評価の変遷などが解説されていたり、
壁一面に配された図版入りの指定順年表で、指定の空白期間や指定傾向の変化などが視覚的にわかりやすくまとめられてたりしてはいたのですが、
先週のニコ美の解説を見ていなかったら、「いやーいい作品をたくさん見られてよかったなあ」で終わってしまっていたかも。

各作品の展示期間の制限が厳しく、会期中の入れ替えがかなり多いためか、「重要文化財」のあり方そのものに切り込むような、テーマのある並びは作りにくかったのかなあと、なまいきにも思ってしまいました。
仮に指定順に並べるとしても、入れ替えのたびに順番詰めたり空けたり大変だものな。

印象に残った作品

横山大観「生々流転」

しっとりと霧を含んだ空気や荒々しい岩壁、時に早く、時に緩やかに波打つ水面、岸にぶつかり細かな飛沫をあげる川の流れ……墨の濃淡や筆づかいの表現の豊かさにめちゃくちゃ興奮してしまいました。
クライマックスの、広大で緩やかな海の真ん中で突然上がったささやかな波飛沫で生命、あるいは神性の発生が表されるのすごいし、誕生した龍による大気のうねり! 息を呑んだ。

この先どんな画面が現れるのか、どんな表現を見せてもらえるのか、興奮に震えながらゆっくり歩みを進めた40m、得難い経験でした……。見られて本当に良かったなあ!

下村観山「弱法師」

うらぶれた装いながら、表情や滑らかな手から無垢な高貴さを感じさせる盲目の男性と、彼を優しく祝福するように咲き乱れる梅の花。
画面全体の柔らかく幻想的な美しさに胸を打たれたし、弱法師の側から作品を見ると折り目に遮られて西陽が見えない、という盲目の弱法師と観客の視界がシンクロするような屏風ならではの見え方がすごく面白いなと思った。

枯れ色の着物の破れ目から覗く美しいターコイズカラーは彼の正体を暗示してるのかな。梅の木に隠れた仏画の緑とも対応してる?

青木繁「わだつみのいろこの宮」

実はこの人の絵「海の幸」しか知らなかったんですよね、こんな静謐で神秘的な絵を描いてるとは。直前に「騎龍観音」見ているものだから、西洋絵画の技法と日本神話のモチーフが完全に融合した画面に「ここからこうなるのかあ」とついつい思ってしまった。作者も画風も全然違うんだけども。

水中の青みがかかった画面に山幸彦の背後からさす光が映えて神々しい。木の枝が玉座のような光背のような。

岸田劉生「道路と土手と塀(切通之写生)」

よくスナップを撮るので、こういう「なんてことない風景」をいいなと思ってしまうところにまず親近感が沸いたし、積まれた石の一つ一つや土手の土の質感など、タイトル通り克明に「写生」しているはずなのに、なんでかものすごく不穏で落ち着かない風景になってしまっているのが面白くて好き。
「麗子微笑」も細部めちゃくちゃリアルなのに、全体見るとかなり心がざわつく肖像だもんなあ……。

その他雑感

音声ガイド

800円。アプリ(聴く美術館)とレンタル機械の両方用意されてました。
小野大輔さん演じる「ヒミツ案内人」が作品の秘密をクイズ形式で語る演出で、工夫はわかるんだけど、作品に向き合うのにうるさく感じてしまい途中で止めてしまった。
もったいないからそのうち聞き直したいところ。

グッズ・図録

図録・「鮭」刺繍ブローチ・「漣」ブックマーカー
ブローチどこにつけよう……

靴下や裸体美人Tシャツ、鮭ポーチみたいなイロモノ一風変わった品々が話題を攫っていますが、クリアブックマーカーや刺繍ブローチのような手頃な小物もいろいろあって、図録だけ……と思っていたのについつい財布の紐が緩んでしまいました。
榮太郎飴本舗や空いろ、千寿せんべい等、東京銘菓とのコラボも千葉県民には嬉しい。あんこパイ家族に好評でした。

「黒き猫」や「絵になる最初」の着物柄のグッズがおしゃれで惹かれたけれど、見てない絵のグッズ買うのもなあとスルーしてしまった。作品の入れ替えが多いってほんと難しいですね。

図録は3300円と少しお高めだけど、お値段に見合った贅沢な作り。角背ハードカバーがかっこいい! マット加工と黒箔押しの文字がさりげない上質感を醸しています。ギラギラとどこかスキャンダラスな雰囲気漂うチラシビジュアルとは一転、かっちりと教科書的なデザイン・造本。

図版も全体とアップそれぞれ載せていて「生々流転」なんて折り込みの4p見開きで全体図が見られるし、解説も1点につきまるまる1p割いてて読み応え十分。論文も、展示で語りきれなかった部分に踏み込んでいて面白いです。ニコ美でしきりにアピールしていただけあるなあ。
「明治以降に制作され重要文化財に指定された作品」のうち、今回展示のなかった作品についても図版と解説が載っててお得感がありました。

コレクション展

4Fは、萬鉄五郎の「もたれて立つ人」や下村観山の「木の間の春」(木の幹の描き分け、背景の金色の使い方すごく好き!)、今村紫紅「熱国之巻」のスケッチ、萩原守衛「女」新海竹太郎「ゆあみ」のブロンズ版等々、企画展を補足するような作品がたくさん並んでて、これは併せて見られて良かったなと思いました。

今村紫紅「熱国之巻」朝の巻より
謎の生きものかわいっ
コレクション展より スケッチ
元はもっとちゃんと牛っぽかったんだなあ

2〜3階は、帰りの時間もあるし、ちょっと疲れていたのでほとんど駆け足のようになってしまったけれど、カンディンスキーの「全体」だけやたら印象に残ってます。いろんな味のするミニマルでカラフルなかわいい画面を、お菓子の詰め合わせみたいに1つのキャンバスに収めたようで、もうたまらなくかわいかった……ずっと眺めていたかった。