松岡美術館 常設展&「美しい人びと」「憧憬のペルシア」(2023/5/29)
白金にある松岡美術館は、倉庫業、不動産業、観光業、教育事業など数々の事業を手掛けた松岡清次郎氏の遺した美術品コレクションを管理・公開している私設美術館です。
東京都庭園美術館の「建物公開2023 邸宅の記憶」を見に行った帰りに、時間に余裕があるし寄ってみるか〜と足を向けたのですが、小規模ながらとっても素敵な美術館でした。
(建物展の方もそのうち感想をまとめたいね)
常設展
常設展は彫刻がメインで、古代オリエント彫刻/現代彫刻/古代東洋彫刻と展示室が分かれています。
あと中庭の見えるきれいなロビーにもギリシャ・ローマ神像が数点。
眼福&大満足の古代東洋彫刻エリア
古代東洋彫刻エリアは一番展示室が広く取られており、美しいお顔の仏像やインド神像がたくさん見られて大変眼福でした! 美しい人びとならぬ、美しい神仏の数々を堪能。
ありがたいことに、こちらの館では著作権の切れている作品は(シャッター音をオフにしていれば)撮影可とのことだったので、たくさん撮らせていただきました。
こちらは中国南北朝時代の「如来立像」。
性別を超越した高次の存在って感じの上品なお顔立ちに、柔和だけどどこか冷ややかな微笑みが素敵です。
こちらはインド神話の太陽神・スーリヤの神像。
仏教彫刻と違って親しみやすくやんちゃそうな顔立ちと表情ですね。童顔とムッチムチの体型のギャップが印象的。
こちらの2点はガンダーラ彫刻の仏陀像と菩薩像。
ほんとガンダーラ仏って丹精で綺麗なお顔してるよね……。
しかしバストショットばっかだな……もっと展示空間とか撮ればよかった。
同室には中国・インド・クメール・ガンダーラと数多く揃っていましたが日本の仏像はコレクションにはないようで、なぜかと尋ねられた松岡氏が「日本の仏像は辛気臭いからイヤだ」と答えたエピソードが解説パネルに書かれていてちょっと笑ってしまった。
実際そうであるかはさておき、こういう収集者の好き嫌いがモロに出るのって、私設美術館ならではの面白さだなあ。
その他
緑深い中庭の見える、明るくて心地のよいロビーにはゼウス神その他ギリシャ・ローマ神像が鎮座ましましています。
レプリカではなく古代ギリシアの出土品がそのまんまカジュアルに置かれているのは驚き。
ザ・肉体美! 腰回りとおへその造形がイイ。
手に持ってるのはキャプション曰く雷霆か杖の名残だそうで。ちんちんかと思った……ゼウスだし……
オリエント展示室は薄暗く、ピラミッドの内部に入ったような雰囲気のあるスペース。こちらはエジプトの神官の娘エネヘイの全身像です。
髪やドレープの繊細な表現ときたら! ため息が出る美しさでした。まさか東京でこんなエジプトの息吹を感じられるとは思わなかった。
ガラスケースの中の展示品はキャプションに背面からの写真も添えられていて、これは親切だなーと思った。「彩色木棺」も鏡がうまいこと配置されていて裏面の装飾がちゃんと見えるようになってるのがありがたかったな。
企画展「美しい人びと 松園からローランサンまで」
▶企画展公式:https://www.matsuoka-museum.jp/contents/7542/
2階は3つの展示室に分かれていて、美人画とペルシャ出土品と企画展が2つ開催されていました。
企画展もすべてコレクション作品で構成されているんですね。このジャンルの縦横無尽さは個人コレクションならではという感じ。
以下印象に残った作品についてつらつらと。
蹄斎北馬「三美人図」
名前から察せられる通り、北斎のお弟子さんですね。
こちらは江戸・京・大坂の三都それぞれの都市にちなんだ美女を描いた三幅セットの肉筆画。(上掲の企画展ページに図版あり)
右手には江戸紫の着物を粋に着こなしポーズをキメた細面の江戸美人、左手にはそんな彼女をじっと見つめている? 豪奢な簪で髪を飾った貫禄ある大坂美人、そして中央には絢爛な振り袖をものともせず飛び降りるやんちゃな京美人が並びます。
ファッションも顔立ちもポージングも三者三様ながら、どの美人もちょっと気が強そうなのは誰の趣味なんだろう?
やっぱり目を引くのがダイナミックな京美人の図。どうも「傘を持って清水の舞台から飛び降り、無事だったら恋が叶う」というおまじないがあってそれを試している図らしい。(先行図版もあり)
無事じゃなかったら恋どころじゃないだろ! というトンでもないおまじないですが、それをエイヤッと実行できてしまう向こう見ずな若さが眩しい。
着物からしていいところのお嬢さんだろうしよっぽど切羽詰まった恋をしているのかもしれない。
鏑木清方「蛍」
(撮影禁止のため図版なし)
少し困ったような表情で袖口を覗き込む女性の立ち姿を描いた一幅。よく見ると、襦袢に重ねた薄物の内側に、蛍が一匹入り込んでしまったよう。足元に咲く蛍袋が画題を象徴していて面白い絵です。
鏑木清方はとにかく清純派ってイメージを勝手に抱いていたので、この女性の濃艶な表情には驚きました。袖口から二の腕までもがチラリと見えて、抑えた表現ながら大変色っぽい。
普段の清廉な作風とのギャップで余計ドキッとしてしまった。
清方作品は、歌舞伎役者がモチーフの「保名」も展示されていて、こちらも小品ながら繊細に描かれた表情や、衣装の色使いによる狂気の表現がとてもよかったな。単眼鏡買ってよかった……。
松室加世子「竪琴」「燭光」
展示室の壁をドンと飾る大作。大きさだけでなく、凛とした女性たちの凄みのある美しさに圧倒されてしまいます。「竪琴」の右側の女性なんて、燭台じゃなく三叉矛でも構えているような雰囲気だし。
洋風の背景にきらびやかな和装の取り合わせがちょっと異質ですが、これは細川ガラシャをはじめとした、切支丹の女性たちなんですね。
殉教した同士たちへ鎮魂の曲を奏でているのかな……としんみりした気持ちになってしまった。
下村観山「隠士」
「美しい男びと」と銘打ったコーナーの作品。こういうテーマで男性にも焦点が当てられるっていいですね~。
遠目で見たときには、歌舞伎役者や麗しい若衆と一緒にヒゲの仙人をここに並べるのは無理あるやろ……と思ってしまったのですが、近づいてみるとなるほど納得、きれいな顔なのです。
いわゆる隠者や仙人から連想する枯れて油の抜けたイメージからは程遠い、ツヤッツヤの顔にキラリと光る目、穏やかだけど含みのあるきれいな微笑、そしてちょっとギョッとするような手の造形に、なんだかちょっと人間じゃないような「魔」を感じて、妙に魅惑的な隠士像でした。正直好み。
企画展「憧憬のペルシア」
▶企画展公式:https://www.matsuoka-museum.jp/contents/7547/
松岡氏がイランで買い求めた古代ペルシアの焼き物の数々。
ペルシアのことなんも知らないけど、動物の図柄が細かに描かれた色鮮やかなお皿や、動物を模した陶製品の数々は今見ても大変にカワイイ! ので、見てるだけで楽しい。
個人の趣味が色濃く出たラインナップとジャンルの広さがすごく面白かったし、広々とした明るいロビーからぼんやり中庭を見るだけでも癒やされる、素敵な空間でした!
公式サイトの案内を見てみたら、桜の季節は中庭に入れるとのことなので、またその時期に来られたらいいな。