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DIC川村記念美術館美術館②「芸術家たちの南仏」(2023/3/25)

①はこちら https://note.com/cinita/n/nf6d2c20b564f

常設展を見終えて細い廊下を通っていくと、企画展エリアにたどり着く。館内図の端っこの2室だけなので、結構ささやかな展示なのかしらと思っていましたが、そんなことはなく、油彩から版画、陶芸にタピスリーと150点の作品がぎっしり。
うーん、茶席で休憩入れといてよかった。

企画展タイトルから連想するような、パリから出向いた画家たちが見た郊外の風景! みたいな作品だけでなく、第二次大戦時にフランスから「敵性外国人」として収容されたり、ナチスに「退廃芸術」として弾圧され、他国への亡命を求めて避難したりと、不本意な経緯で南仏へやってきた芸術家たちの作品も取り上げているのが面白かった。

土地へのイメージも変わったし、これまではなんかよくわかんねえ絵だなと思っていた抽象絵画やシュルレアリスム絵画も、そういう背景があったんだと思うと見方が変わってくるというもの。

以降、印象に残った作品について小学生並みの感想をダラダラ書いていきます。

印象に残った作品

キスリング「風景、パリ-ニース間の汽車」

展覧会入ってすぐの壁に大きく飾られていた一枚。
積み木みたいな車両の汽車がモックモクの煙を吐いて勢いよく走行する様がなんともかわいらしい。全体的にスモーキーな色彩なんだけど、汽車のパワフルな躍動感への感動や旅先への期待感を感じてなんだかこっちもワクワクしてしまう。
いざ南仏、いざニース! しょっぱながこの絵っていいですね。

アンリ・マルタン「習作」

暖かい日差しを感じる穏やかだけどカラフルな色彩と柔らかいタッチが、ザ・南仏! って感じですごく好きだな~と思った。行ったことないけど。
旅先だと何てことない町中の人々の姿も目新しく素敵に見えるものだけど、この人もそう思って描いたのかな。

アンドレ・ドラン「マルティーグ」

海の青がとにかく綺麗だった! かなり幅の広い平筆を叩いたようなラフなタッチで、水面のキラキラした感じがよく出ていた。ちょっと俯瞰気味に海を見下ろして切り抜いた構図も面白かったな。ヨットの見切れ方とかスナップみたい。

アンリ・マティス「待つ」

本展覧会の目玉の一つ。レースのカーテン越しの柔らかな光とか、窓を覗き込む女性の背中とか、穏やかでアンニュイな情緒を感じて好き。誰を待っているのか想像が掻き立てられるよね。壁紙や窓の下に掛けられた布の色柄も素敵。
周りがマティスのドーンと来てバーンな裸婦像で固められてたので余計に清純派な雰囲気が際立ってた感。裸婦像もよかったですが!

ジャン・アルプ、アルベルト・マニェッリ、ゾフィー・トイバー=アルプ、ソニア・ドローネー
「ジャン・アルプ、アルベルト・マニェッリ、ゾフィー・トイバー=アルプ、ソニア・ドローネー」

何だこのタイトルって感じですが、大戦時に亡命手続のため南仏に集まっていた抽象画家たちが、お互いの作風を引用しあって制作した抽象画の版画集とのこと。こちらから5枚展示されていました。

どの絵もオシャレで面白いんだけど、とくに柔らかいくすみ系の緑と赤を取り合わせた一枚は、ひと目見て「あっいいな」と思った。クリアファイルになっていたので買っちゃった。嬉しい。(ヘッダー画像の絵です)
不本意な南仏行きではあったけど、その中でこうした創作者同士の出会いがあって、厳しい状況の中でもお互いの創作を高めていこうと連帯したのかなと思ってグッときた。

ヴィクトル・ブローネル、アンドレ・ブルトン、オスカル・ドミンゲス、マックス・エルンスト、ジャック・エロルド、アルフレッド・ジャリ、ヴィフレド・ラム、ジャクリーヌ・ランバ、アンドレ・マッソン
「マルセイユのカード遊び」

こちらも亡命待ちのシュルレアリストたちによる合作で、マルセイユ・タロットらしい赤青黄黒のカラーリングと随所に遊び心を取り入れた図柄がオシャレなオリジナルトランプ。スートやKQJのマークもアレンジされてます。
不安な情勢を、あえてゲームと捉えて洒落のめしてやろうとして制作したんじゃないかと解説されてました。

引き合いに出すのもおこがましいですが、はるか昔に大学のサークル(漫研)でオリジナルタロットを作ったときのことを思い出しちゃいましたね。誰がどのカード担当するか取り合ったり、他人の解釈に感心したりとワイワイして。厳しい状況の中でも、制作はきっと楽しかったんだろうなあ。

復刻版も販売されていたみたい。ほしいな、お高いけど。
ちなみに絵札にはそれぞれ画家がチョイスした偉人が割り振られているようで、推し偉人のパラケルススを見つけてニッコリ(何故か図柄はタコでしたが……)。

マックス・エルンスト「ポーランドの騎士」

静かで深みのある青の美しさと、その上に結晶のように描かれた憂い顔の馬頭の人物。鳥や街並み等あらゆるモチーフがが散りばめられているのにどれも掴みどころがなくて、走馬灯のよう。静謐で幻想的、硬質で謎めいた画面にしばらく見惚れてしまった。
こちらは大戦後、亡命先のアメリカからヨーロッパに帰還した後に描かれた作品。なんでこれが「ポーランドの騎士」なんだろうと思ったら、同名のレンブラントの絵が元ネタなんですね。白馬しか共通点ないが……イメージの膨らませ方すごいな。

note書くために作品リスト見返してて初めて「石化せる森」と同じ作者だったのを知りました。びっくり。図書館で画集探してみよ。

パブロ・ピカソ「三脚花瓶」「彫刻された瓶」

ピカソは南仏の街ヴァロリスの陶芸家と共同で作品を多数制作していたそうで、それらの作品群がガッツリ紹介されていました。点数も多いし、作品だけでなくドキュメンタリー映像や制作風景の写真も展示されていてなかなか充実。

ガラスケースに閉じ込められていなければそのままトコトコ歩き出してしまいそうな「三脚花瓶」と、あまりに素朴でゆるかわな生き物がデカデカと彫り込まれた「彫刻された瓶」(そのまんまや)が特に印象に残ってます。本当にかわいかった。この子らでグッズ作ってほしい。

メモと記憶を頼りに再現✍️(4/4画像差し替え)

展示資料のおかげで、本当にピカソがこのかわいくてヘンな子たちを作ったんだなあと実感できたのがまた面白かった。

アンリ・マティス「ミモザ」

企画展キービジュアルであり、トリを飾っていた一枚。この絵にちなんでミモザ割(黄色のアイテムを身に着けていたら200円引)なんてやっていました。
同行者が苦し紛れにカバンに貼っていった市民マラソン大会のワッペンシールでも係員さんは苦笑交じりでOKしてくださいました。ありがとうございます……。

青の使い方がいいなあ、イキイキしてオシャレな図柄。実物が想像していたより何倍もでかくて驚いた。タペストリーの原画だったんですね、タペストリーのほうも見てみたい。
でかい分、紙の端の切り損じた部分やガタツキもよく見えて、ああ本当に切り絵なんだ、てかマティスさん沢山切り絵制作してるけど別に紙を切るのがうまいわけじゃないんだなとなんだかホッコリしてしまった。

その他雑感

シャガールも大作・小品問わずかなりあったので好きな人にはたまらないんじゃないかなあと思った。同行した家族も感激していた。
(コラボ和菓子美味しくいただいておいてナンですが、個人的にはちょっと苦手。)

見落としただけかも知れませんが、作品リストは配布していなかったので、公式サイトの企画展ページのPDFを印刷して持参するといいです。
あと、作品リストの記載順と実際に展示されている順番が違うのでちょっと困った。ちゃんと番号振られてるから慣れればなんてこと無いんだけど。

図録は迷って結局買わなかったんだけど、画像検索しても出て来ない作品がちょくちょくあるし、文章も多くて読み応えありそうだったからちょっと後悔してる。同行者を待たせてはいけないと、キャプションをじっくり読めなかった作品もあったしなあ。

コラボメニューのミモザケーキも食べそこねたし、「ポーランドの騎士」ももっとじっくり見たいし、期間中もう一回くらい行けたらいいな。
今度は晴れた日に。