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『人数の町』:紹介編

一度も映画館に行かなかった8月の反動でしょうか、9月は観たい映画がたくさんあって、その1本目として観てきました『人数の町』。

「借金で首が回らなくなってヤクザにボコられていた主人公が、なんだか怪しい男に助けられた。行くアテがないなら良いトコあるよ?と謎のバスに乗せられてたどり着いた町は、やっぱりなんだか怪しいところだった・・・」というお話。

“ユートピアだと思ってたところが実はディストピアでした映画”の系譜というんでしょうか。星新一の小説のような、藤子不二雄のS・F短編集のような、「すこし(S)・ふしぎ(F)」が楽しい作品でした。ヨルゴス・ランティモスの、特に『ロブスター』が好きな人にはとってもオススメ。

序盤の“世界観のルール説明”パートがやっぱり面白いです。

SF映画の大きな楽しみのひとつは、序盤に「この映画で描かれる世界は、こんな世界観で、こういうルール設定があるんですよ。」っていう紹介パートですよね。

この『人数の町』でも、「こんな人が町に集まってくるんですよー。」とか「こういうルールでこの町は運営されてるんですよー。」とか、「ルールを破ろうとするとこういうペナルティがありますよー。」という設定が描かれていきます。

例えばこの町の住人は、家族を持つことを禁止されてます。でも常時自分の部屋番号を印字したカードを携帯していて、気に入った相手に気軽にカードを渡し、カードを受け取った相手の気が向けばその番号の部屋に行って過ごすことができる。誘うことも、断ることも、ハシゴすることも「フツーのこと」になってるフリーセックス文化なんですね。

また別の例では、この町の住人の基本食は乾パンなんですが、タブレットがズラっと並んだ部屋に行って、ある商品の絶賛レビューや批判レビューをすることの報酬として美味しい食べ物が与えられたりするという「運営の仕組み」も紹介されていきます。この「運営の仕組み」っていうのが、“人数”の皮肉な意味を表していて、そしてその皮肉の毒味が、この映画の面白さになってます。

人数の町は、おかしな町です。なので、その運営者たちも住人たちもおかしな人がいっぱい。だから映画としては“キャラ祭り”な面白さも楽しめます。

運営側の「黄色いツナギの人たち」なんて、みんな素晴らしく“キモ・変な人”揃い!“僕らの橋口純之助”こと橋野純平、目がイッてます。サイコーにサイコです。

近年『岬の兄妹』とかで評判の松浦祐也も安定と信頼のキモさでしたねー。

そして「ハンモックに寝転んでるだけで1本の映画を成立させてしまう謎女優」柳英里紗も、『惑星のかけら』とか『ローリング』路線の、“ちょっと足りな・カワイイ女”を、体型から作り込んで演じてます。演技の射程広い。

あとはなんつっても、主演の中村倫也が良いですねー。「無課金主役キャラ」というか、「どこにでもいそうなんだけど確かに主役っぽい人」っていうか、どんな人でも感情移入しやすい主人公像を演じられる俳優さんなんだなーと思いました。スタローンが演じるランボーに自分を重ねられる観客ってあんまりいないでしょ?その真逆で、中村倫也が演じる主人公には自分を重ねやすい。つまり観客を映画の世界観に没入させるのが上手い俳優さんかなーということですね。

というわけで、面白そうな世界観と、その世界にいるオカシイ人たち。面白いです!!オススメ。

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