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営業再開の神戸・元町映画館で観たフィルム上映の『ニュー・シネマ・パラダイス』には、もう一つのドラマがあった。

 6月1日から東京都がステップ2に移行することが発表された5月29日は、関西の映画宣伝会社からも公開日決定のメールが相次ぎ、文面からもようやくという意気込みが伝わってくる。旧作ばかりのラインナップに6月5日あたりから続々と公開作が加わるが、その中でも多分一番早い新作公開となるのは、6月1日東京、大阪同時公開の、先日取材させていただいた内藤瑛亮監督の『許された子どもたち』ではないだろうか。6月に開催される全州国際映画祭(韓国)、ニッポンコネクション(ドイツ)に正式出品が決まっている作品。映画祭でも話題を呼ぶこと間違いなし、「これを観なければ、今年の日本映画界は語れない」レベルの作品なので、席数半減の上映ではあるが、ぜひ多くの方に観ていただきたい!

 そして昨日、5月30日は地元でもある神戸・元町映画館の営業再開日だった。今年の8月で10周年を迎える、関西ミニシアターの中では若手の映画館だが、その存在感はピカイチ。個性豊かなスタッフ、特に最近は若いスタッフがトーク司会やイベント企画、臨時休館中にはリモート短編制作と頑張っていた。そして、この休館を利用して、先輩の映写技師に映写を一から習い、練習しているスタッフ(通称南無さん)がいたのだ。

 再開朝一番の上映は、かの名作、『ニュー・シネマ・パラダイス』のフィルム上映。南無さんの映写デビュー戦である。『ニュー・シネマ・パラダイス』はかつて大阪・堂島にあった名画座、大毎地下劇場で劇場公開編もディレクターカット編も観た。そのかつて観た映画がやや色が褪せたとしても、そのままの風合いと深みのある色合いで鑑賞できるのは、やはりデジタルとは違う感慨がある。

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 いよいよ出番!のSave Our Local Cinemas Tシャツ を着て、スタッフよりも本当に早い一番乗りを果たすと、「僕たち、まだそのTシャツ、届いてないんですよ〜」。1週間で13000枚以上もの受注は想定外だったそうで、Tシャツの生産が追いつかず、今も鋭意制作配送中だという。スタッフ分は最後に、さらに劇場で販売する白地に黒ロゴの同デザインTシャツは7月ぐらいに販売できるかなぁ〜というところだとか。そんなTシャツを着ている人が続々と訪れるのだから、取材にきたテレビ局の人も驚いていた(笑)

 元町映画館は2階にイベントや小さな上映会ができるスペースがあるが、しばらくは立ち入り禁止に。1階奥にあるシアターは座席数を減らすと満席になっても34席で、しばらくは時間短縮のため、かける本数も少なくなる。営業が始まっても、それはそれで厳しいというのは、他のミニシアター以上のものかもしれない。でも、休館中も新しい可能性を見出してきた同館のこと、オンラインでの企画や、物販など、色々な企画を考えていると聞き、これまた楽しみになってきた。

 上映前には、全スタッフが前に集まり、休館中の支援へのお礼の言葉に大きく拍手を。それぞれの休館中の時間を過ごし、映画館で上映という日常に戻ったスタッフのみなさん、そして映画館で映画を観る日常に戻った観客と、なんともいえない一体感を味わう。上映前もドラマがいっぱいだったが、肝心の上映もいきなりのテーマ曲にのって、海辺の映像からトトの母の家の中まで、静かにすーっとカメラが引いていく、その美しさにホロリ。ローマでの兵役を終えて帰ってきたトトに、ローマへ行き、ここには帰ってくるなと強く促したアルフレッドが、駅での別れ際「自分のすることを愛せよ」。映画監督の道を目指そうとしていたトトへ、くじけても戻ってくるなと退路を経ち、好きの気持ちを信じて進めと言うアルフレッドの言葉は、目が見えなくなっても、相手の気持ちがわかる熟年の凄みだ。今、思い通りのことができない人が多い中、この言葉は、一つの道しるべになるかもしれない。この映画は映画が、映画館が、そして自分の愛する広場が大好きな人たちの物語。時代が変わり、器はなくなっても、好きの心はなくならない。久しぶりにスクリーンで、そしてフィルム上映で観た 『ニュー・シネマ・パラダイス』、見事な映写技師デビューを果たした南無さんにも大きな拍手を!『ニュー・シネマ・パラダイス』を2週間上映後は、ジャン・ルノワール監督の『フレンチ・カンカン』をフィルム上映で!新人映写技師、南無さんの活躍はこれからも続く!!!

元町映画館

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