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山中瑶子監督×池松壮亮トーク|コロナ禍で「声をあげない人のことを考えた」「全体主義は恐ろしい」山中瑶子×池松壮亮トーク@PFF・オンライン映画祭

 先日、9月12日から国立映画アーカイブで開催されるインディペンデント映画の登竜門、第42回ぴあフィルムフェスティバル(PFF)のコンペティション部門「PFFアワード2020」入選作品が発表された。年齢も職業も様々な、新しい才能に満ち溢れた17名の監督たちの作品を、今年も見ることができそうだ。

 本番に先立ち、オンラインで過去にPFFとゆかりのある監督たちの作品を上映&監督とゲストとのトークというPFF・オンライン映画祭が開催され、私は後半2日間を鑑賞した。1日目は8日に行われた山中瑶子監督『あみこ』『魚座どうし』上映&池松壮亮さんとのトーク。才能溢れる山中監督の最新作を観たかったのと、自粛期間中は沈黙の印象が強かった池松さんがどのような思いで過ごしていたのかをぜひ聞いてみたかったのだ。

 『魚座どうし』はキレッキレの『あみこ』と打って変わり、むしろ実にリアルな親の都合に振り回される2人の小学生男女の心情が、不穏感に満ちながら描かれていく。友達に飼育係で育てている金魚が「大きくなったね〜」と言われても、実は気持ち悪いと思っていたり、普通はこうだよねという同調圧力の中の居心地の悪さが滲む。大人たち、特に彼女たちの母親の気持ちの余裕のなさが、子どもへの文句に代わり、負の連鎖が醸成されていく。そんな中、唯一の救いだったのは、近所の散髪屋の男。昔よくいたお節介な近所のおじさんを、「ケンとカズ」のカトウシンスケが包容力たっぷりに演じていた。今大ヒット中の韓国映画『はちどり』に似たニュアンスを感じる作品だった。

 上映後のトークでは、実にフランクに池松さんが山中監督に映画のことを聞いていく。前作『あみこ』がらみでの接点があったそうで、初対面ではないからか、池松さんが『魚座どうし』を「(山中監督が)本物であることを確証した。視野が広い」と絶賛。山中監督も今までは完璧主義だったけれど、今回は初めてスタッフを信頼して作り、その方が映画がいい方向に進むということを体感したのだとか。映画監督は完璧主義であってほしいという池松さんは、この20年ほど映画監督にスピードを求められたがために、そういう監督がいなくなってしまったと分析。確かに完璧主義を貫くには時間もお金もかかる。それは今では贅沢なことになってしまったのだ。

 二人の話は、自粛期間中のことに移っていくが、山中監督がSNSで多くの人が発言している中、発言していない人のことを考えていたと言うと、池松さんがすかさず「全体主義は恐ろしい」。周りと一緒に簡単に言葉にすることの危険性を感じとっていたのだ。「コロナ期間で正しいと思われていたこと、美しい言葉は、わかりにくいことに向き合うパワーが奪われて危険」。人々がSNSにより向かっていく中、沈黙することは無責任と言われそうな風潮すら生まれてきたが、意思をもって沈黙していた二人に、私は共感できた。さらに山中監督は、今まで映画のために時間を惜しんで全てを捧げてきたのが、映画を撮ることができない期間に、「生活の中の正しさしか、生きる上での正しさはない」と感じ、その中から映画を撮ることができるという手応えを掴んだという。「何かの犠牲の上に成り立つのはおかしい」という言葉は、明言はしなかったもののアップリンクに端を発した映画業界の労働問題への意思表明だったのではないだろうか。

 一方、池松さんは、自身の20代における代表作となった『宮本から君へ』についても、「この映画を作らなければどうにかなるんじゃないかという気概があった。10年ぐらいしないと言葉にできない。いまだに映画と呼んでいいのかわからない。日々抑圧を抱えた人間が集まり、爆発したよう」と表現。さらに山中監督に「『山中遥子から君へ』を撮らないと、先に進めないのでは?」と進言。映画界の先輩が、山中監督が一皮剥けて成長するきっかけを提示したように見えた。熱い魂を心に秘めた二人のトークは、旧知の親友のように、和やかかつ話がどんどん広がっていき、こんな池松さんの穏やかな表情を見るのは初めてかと思うほど。日本映画界でますます活躍の場を広げるであろうこの二人がコロナ禍で意見を交わしたこの夜を目撃できて良かった。周りに流されず、熟慮を重ねる映画人の姿がそこにあった。

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映画ライター Yumi Eguch(江口由美) シネマジカルの中の人が、新型コロナ禍からポストコロナまでの映画をはじめとするカルチャーの動きをウォッチしたコラムです。どうぞ、ごゆるりとお付き合いください! https://cinemagical.themedia.jp/
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