見出し画像

「図書館は民主主義の最後の砦」生きる権利を求めて声をあげる『パブリック 図書館の奇跡』

 昨年、ドキュメンタリー界の巨匠、フレデリック・ワイズマン監督が3時間を超えるボリュームで映し出した『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』で、アメリカの図書館がいかに市民生活に重要かを体感した方も多いのではないだろうか。図書館イコール本を借りる場所だけではなく、コミュニティ拠点としての役割や社会サービスとしての役割を果たしている。全ての市民に開かれた図書館は、分断が露わになるアメリカの中でも、まさに民主主義の最後の砦だった。そして、今年は図書館の存在意義を改めて問う劇映画が公開されている。製作・監督・脚本・主演を務めるエミリオ・エステベスが新聞記事に着想を得て、11年の歳月をかけて作り上げたという『パブリック 図書館の奇跡』だ。

 米オハイオ州シンシナティの公共図書館。いつものように開館と同時に、顔なじみのホームレスが来館し、寒さをしのいでいくが、記録的な寒波の襲来で日々ホームレスの死者が出る事態に。ホームレス用のシェルターが足りなくなり、命を守るためにシェルターが用意されるまでの間、ホームレスたちは閉館後の図書館に留まろうとする。その数100人ものホームレスが閉館後の図書館フロアに留まり、フロア担当のスチュアートも最初はなだめようとしたが、結局はホームレス達と留まり、館長や詰め掛けた警察、検事らと相対することになるのだったが・・・。

 立場上、ホームレスに退去を呼びかけざるを得なかった館長も、突入前提で事を進めようとする検事らの横暴な態度に反発し、「図書館は民主主義の最後の砦、勝手なことはさせない」と言い放つ。まさにワイズマンの『『ニューヨーク公共図書館』で体感したことが重なり、図書館員たちの権力と対峙してでも来館者を守ろうとする姿勢に、現在世界中で起きている人権運動の縮図を見る思いがする。

 国のために闘った退役軍人がホームレスになってしまうという現状や、前科やアル中に苦しみながら、本に救われ更生したスチュアートの複雑な事情など、個人の葛藤やドラマを浮き彫りにしながら、サプライズなエンディングが待ち受ける。久々スクリーンで観たクリスチャン・スレイダーの野心満々な検事も見事だし、白人、黒人関係なく、図書館通いが功を奏して妙に博学なホームレス仲間たちの描写も冴え渡る。事実と異なるフェイクニュースを、視聴者を煽るために平気で流そうとするメディアも皮肉り、見どころ十分の必見作です。

(C)EL CAMINO LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?