見出し画像

歌舞伎zakzak-9 ラブパワー炸裂 『神霊矢口渡』

introduction

江戸時代のレオナルドダビンチこと平賀源内は多くの発明のみならず、福内鬼外(ふくうちきがい)という筆名で人形浄瑠璃の作品も残しています。『神霊矢口渡(しんれいやぐちのわたし)』は、その最も有名な作品で、後に歌舞伎化され人気を博しました。元々この作品は、玉川(多摩川)の渡し場の近くにあった新田神社の参拝者を増やすために「この社を題材にした芝居を〜」という神官からの依頼を受けた平賀源内が『太平記』を題材に書いたもので、上演されるとたちまち評判をよび、今で言う「聖地巡礼」をする人たちで新田神社は賑わったという話です。

2023年7月3日〜28日 歌舞伎座
歌舞伎座新開場十周年 七月大歌舞伎
夜の部
「神霊矢口渡」
福内鬼外作
娘お舟:中村児太郎
渡し守頓兵衛:市川男女蔵

STORY

矢口の渡し守頓兵衛(とんべい)の屋敷、娘のお舟(ふね)が留守を守っていた時に、新田義峯(よしみね)と恋人の傾城台(けいせいうてな)の二人連れが訪れる。日暮れ後は舟が出せない掟のために、川を渡れず一夜の宿を求めてのことだった。最初は「ここは宿ではありません」と断っていたお舟だったが、義峯の姿を見て一目惚れ。招き入れて「お連れの方は妹ご?それとも?」と尋ねたのに、「我が妹」との返答。ますます熱を上げ、義峯に迫り寄る。実は二人は足利家から追われて、川向こうにある新田家の本領である新田の庄を目指し落ち延びる途中。それを知ったお船は驚くが、もし父の頓兵衛がそのことを知ったら、足利家からの褒美金を狙って二人を売るであろうことは明白。義峯を無事逃がしたいという強い思いで、娘は捨て身の過激な行動をとる。


突出してるお父さんのキャラクター。娘に対しての「愛はあるんか?」


アグレッシブな娘たち

「年頃の娘はすぐに恋に落ちる」これは歌舞伎のセオリー。この渡し守頓兵衛の娘お舟も例外にあらず。(しかし「お舟」という安直な名づけ、父の愛情の薄さがここにも表れています)田舎娘ではあれど、美人でいろんな男から言い寄られては袖にしたものと思われる(憶測ですが)。地元には粗野な男ばかり、そこへ都から来た気品溢れるイケメン新田義峯。光り輝くような男振りに彼女の心が掴まれてからの素早いアプローチに注目。突っ走る娘の熱情がこの演目の主題です。

チャンスは二度あるか?

この話の前提として、以前頓兵衛は、新田義興(にったよしおき/義峯の兄)を舟に乗せた際、船底に穴を開けて溺死させて足利家から大枚の報奨金を受け取った過去がある。いまの豪勢な暮しができるのもそのお蔭。ここでまた弟の義峯が来たとなると、これを討って再度報奨金を得るチャンス!と思わないわけがない。金に目がくらんだ強欲一徹な父親と、恋に落ちたら手段を選ばない娘、価値観は違えども性格的には似た者同士かも。さすが血の繋がった親子。

「八百屋お七」と、どっちが先?

手負いの娘が櫓の太鼓を打つ場面から「八百屋お七」を連想して、これは趣向の本歌取りかと思いきや、時代的には本作のほうが4年ほど先に上演されていました。1770(明和七年)「神霊矢口渡」人形浄瑠璃
1774(安永二年)「伊達娘恋緋鹿子(だてむすめこいのひがのこ)/八百屋お七」してみると、むしろこの演目の趣向が「八百屋お七」や後に続く「三人吉三」(安政七年)に、影響を与えたのかもしれません。結い髪が解け、片肩脱いだ真っ赤な緋縮緬、櫓に登り必死に太鼓を打つビジュアルの歌舞伎的な美しさと、人形振りで演じられることもあることなど共通しています。

祝!四階の幕見席幕見席がついに再開された歌舞伎座

歌舞伎座
https://www.kabuki-za.co.jp

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?