『若き日の啄木 雲は天才である』(1954年)

2012年6月6日(水) シネマヴェーラ渋谷

石川啄木を岡田英次が演じている。
その妻が若山セツ子。
劇中に時折、啄木の短歌が画面に挿入される。

啄木は代用教員をしている。
放課後には通常のカリキュラムにはない世界史を教えるなど、
熱心な教員だが、他の教員たちと折り合いがつかず、
辞表を叩きつけるように辞める。

生活は苦しい。
隠居の父親は一家の惨状を見かね、
せめて自分の口がひとつでも減れば、と置き手紙をして家を出る。
寺に行く、と。
手紙を読み、泣き崩れる母親。
深夜、坊さんの格好で、とぼとぼと線路の上を歩く父親。
ふと振り返ると、雪が降っている。
ここはしんみりする。

啄木は、友人を頼って単身北海道へ。
宛名書きの仕事をするが、「こんなことをしていても…」とすぐ辞めてしまう。
啄木の世話を焼く、啄木の才能を信じている役の人がいい顔だが、
なんという役者さんかわからず。
その人のツテで、啄木は小樽で新聞記者になる。
啄木の「新聞記者にでも……」というセリフや、その後のシーンの記者たちの描かれ方からすると、当時の新聞記者は、与太者の集まり的な感じで捉えられていたようだ(新聞の種類にもよるのだろうが)。

啄木の新聞社の社長役が佐々木孝丸。
社長然としていて、うまい。
ライバル会社を、社長を殴って辞める豪快な男が山形勲。
これもいい。

芸者をあげての宴会シーンがうまい。
いちばんの売れっ子芸者が、角梨江子。
その妹分が左幸子。
左幸子、かわいい。

宴会の俗っぽさに、啄木は一気に幻滅する。
「一芸をやれ」と言われて断ろうとするが、
角が「私が代わりに……」と言うとそれを制し、
啄木は宴会にはそぐわない歌を歌い、場は白ける。
角の芸者は、啄木に惚れる。

上田吉二郎演じる成金が宴会でバカ騒ぎしているのを、
妙に引き&長回しで撮っているのが、こっけいさが増していてよかった。
清水宏的ポエジーというか。

啄木は、お嬢様たちのカルタ大会に参加し、
そこでハイカラお嬢様の久保菜穂子からも好意を持たれる。
モテモテな啄木。

一方、妻の若山セツ子は、姑にいびられ、時に逃げだしそうになりながら、
しかしそんなことは啄木には何も言わず、
「あなたの思うようになってください」と手紙に書く。

啄木は記事を認められて出世するも、またもうまく立ち回れない不器用さから新聞社を辞めることになる。
啄木が小樽を離れる決心をし、東京に向かう船のシーンで映画は終わる。

若山セツ子がけなげすぎて、かわいそうだった…
機会があればまた観たい作品。


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