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ヤン・シュヴァンクマイエル監督インタビュー特別公開:『ファウスト』YouTube初無料公開記念

インタビュー ヤンシュヴァンクマイエル


*本稿は『ヤン・シュヴァンクマイエル ファウスト』のBlu-ray(発売元:WOWOWプラス 販売元:(株)KADOKAWA)封入ブックレットに収録された、1994年に行なったヤン・シュヴァンクマイエル監督インタビューの書き起こしを、WEB上で公開するものです。

 私の全ての映画について共通の分母を探そうとするなら……これらの全ての映画の内なる連続性やテーマを見つけようとするなら……おそらく「不安や恐れを取り除こうとする」ことに関係していると言えるかもしれない。こうした不安や恐れのような感情との戦いが、おそらく私の映画の基本的なテーマだ。いにしえの魔術師の本に書いてあるんだ、もし悪魔や幽霊をお祓いしたいと願うなら、私たちは彼に名前を与えたり、彼の名前を見つけてやる必要があるんだ、と。それこそまさに、私が自分の不安や恐れを取り除く時にしている方法だと思う。つまり、私は自分の映画を作ることによって、そうした者たちに名前を与えているんだよ。

 私のある種の対象やモノに対する執着は、もちろんある種の強迫観念から来ているものだ。私の収集物はとてつもなく厳選されたものばかりだが、その選択の基準は、そのモノがどのように私に働きかけてくるかにあるのであって、そのモノ自体が持っている価値の高低ではない。私は全人生において常にモノを集めてきたし、たいてい、コレクションが充実してくると、そこから1本の映画が生まれるんだ。

 私はそうしたモノを用いてある種の言語を見つけようとしている……エーリッヒ・フロムのような実存主義的精神分析者なら私に「屍体愛好」のラベルを貼るだろうが……でも、当てはまるとは思っていない。だって私はモノに生命を与えようとしているわけだから。アニメーションというのは、単にモノを動かすということではなく、魔術的な儀式や祭礼のように、素晴らしい助けになるものなんだよ。

 私はそれらのモノとの接点を探り出し、対話し、それらの感情や、内側に閉じ込められていた中身を掘り起こそうとする。なぜなら――ここで私は年老いた錬金術師として発言するわけだけれども――私は、これらのモノたちには、かつて人の手から手へと渡っていったり、特別な愛情を持って人に触られたりした時の感情が刻印されたり、閉じ込められたりしていると思うからだ。そうした感情の全てが、彼らから語りかけてくる鍵であり、また私が常に探し求めている鍵であったりする。これが私とモノたちとの関係だ。もちろん、こうした考え方の全てはシュールレアリズム的なものであり、だからこそ、私の歩みはシュールレアリストの活動に向かってのみ前進することが出来るというわけだ。

 もし誰かが、特に1970年以降の私の映画についての鍵を見つけたいと望んでいるとしたら、その人は、1970年以降、私がメンバーとなっている、ボヘミアのシュールレアリストのグループの活動を研究しないことにはどうにもならないだろうと思う。

 このグループの活動というのは、シュールレアリストの想像力の研究に特化していて、つまり、創造的な活動とか、エロティシズムとか、最近ではユーモア、夢、恐れといった精神的な形態学の変容など、いろんなテーマを検証している。私の1970年以降の映画を研究すれば、どの作品もこうしたテーマのどれかに依拠していると判ると思う。たとえば『地下室の怪』(1982)のテーマは精神的な形態論のカテゴリーに属していると言えるし、『アッシャー家の崩壊』(1980)、『陥し穴と振り子』(1983)のテーマは恐怖、『アリス』(1988)は夢がテーマだ。『ジャバウォッキー』(1971)も精神的形態学の範疇だろう。『オトラントの城』(1973)はクリエイティブな活動の一解釈だ。簡単に言えば、それを大っぴらに宣伝したいわけではないんだが、私の映画はどういう形でかこのグループの活動に引き寄せられる傾向にある。1970年以降の私の映画作品のほとんどは、シュールレアリスト・グループによる集団批評のようなものなんだ。完全に自主制作したわけでない作品でさえ、このグループの活動の一部だったと言える。矛盾しているように思えるかもしれないが、そうだったんだ。
(1994年翻訳:原田俊英/山下泰司)

★『ヤン・シュヴァンクマイエル ファウスト』をシネフィルWOWOW プラス公式YouTubeにて6月14日(金)21時から2週間限定無料公開

© 1994 Athanor, Heart of Europe Prague K Production, Lumen Films, BBC Bristol.


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