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これはもしかしたら緊急事態なのではないのか?

雇用主(クライアントのお母さん)が週末から海外旅行に行く。
これは、重度障害児の家族にとってはめったに無い息抜きだ。彼女にとっておそらく初めての長期海外だろう。喜ばしい。

それに合わせて、新しい夜勤ナースが来ることになった。
なぜなら、お母さんがほぼほぼ夜間はカバーしていたので、お母さんがいないときの夜勤をやってくれる人が必要だ。

今までさんざん募集しても、なかなか来てもらえなかったらしい。アイランドはほんとうに医療と介護の人出不足なのだ。特にカナダ人は夜勤なんか絶対やりたがらない。

そしてようやく来たのだが、やっぱりワケアリだった。
彼女はコロナワクチンを打ちたくなかったので、病院や高齢者施設で働くことができず、卒後ずっと日本で言えばサ高住のようなところで働いてきたそうだ。(BC州は、高齢者施設や病院で働く看護師は、新型コロナワクチンの接種が義務だった。日本と違ってピアプレッシャーじゃなくて、ワクチン必須だったのでワクチンを打ちたくない人は、病院や公的機関などを辞めるしかなかった)

つまり、修羅場を経験していない・・・

日本にもたまにいますね、看護学校卒後一度も病院で働いたことがない看護師。普通は新卒は総合病院に入ってみっちり研修を受けて、いろんなことやらされて、経験して3年ぐらいで一人前になる。(エキスパートナース、パトリシア・ベナーだっけ?)しかし、日本の病院勤務は過酷だからメンタル弱かったり、そもそも看護師の仕事が向いてないような人は地方のちょっとのんびりした療養所的な病院とか、老人施設なんかで働くんだよね。まあ、老人ホームとか療養とかはある意味修羅場かもしれない・・・

さてさて、話はそれましたが、何が怖いかというと、新人みたいな看護師に一人で「ミダゾラム」を扱わせることになる。ミダゾラムは、鎮静剤で手術や内視鏡検査の時に使う。ドラベ症候群では、てんかん重積になりそうなときに使う。

私がビビり過ぎなのかもしれないが、ミダゾラムを使うときは緊張する。使いようによっては危険な薬なので、病院では厳重に管理されていた。
(鍵がかかるところに保管して、毎日数があってるか数えて、薬剤師と残数のチェックを朝晩やって、所属長がハンコをおす)

そのうえ、ミダゾラムの副作用として、呼吸抑制が起きるので呼吸のモニタリングをしなければならない。(酸素投与とか、過鎮静になったら昏睡起こしたりするから観察しなければならん)と、ずいぶんしつこくしつこく病院勤務時代に習い、自分もそのようにやってきた。

なんで、私がすごくビビるかというと、人が亡くなるような病棟で働いていた看護師ならみんな知ってると思うけど、

ミダゾラムは終末期の患者さんの苦痛緩和のための、持続鎮静(セデーション)に使うんだ。呼吸苦とか、痛みとさんざん戦ってきた患者さんの苦痛を取り除くために、深い眠りに落ちてもらう。そのままもう、帰ってこないかもしれない・・・。場合によっては、数時間で呼吸が止まってしまうこともあるから、その薬を使う前に、患者さんや家族によく説明して倫理的に問題ないようにカンファレンスもして、医師のGOがあって初めて投与開始する。

でも、家庭で用いる経鼻ルート投与の説明には、あっさりしたことしか書かれてなくて、SPO2を見ろとか、呼吸数や呼吸の深さを観察しなさいとか書いてないんだよな。呼吸がおかしかったら、救急車呼べってなってる。

さらに、実際、てんかん発作が5分以上続いたら、ミダゾラムを投与することになっていて、その後重積状態が続いたら、また半量投与することになる。

この判断が、たぶん慣れてないと難しい。
薬で眠ってるのか、まだてんかん発作が続いてるのか。いつも見慣れてないとよくわからない。

ちなみに、新しい看護師はみんな初めてのてんかん重積に遭遇すると、てんぱっちゃって薬の投与まで行かない。そもそも、サーチ見て、必要あれば酸素マスクつけて、痰詰まりそうだったらサクションもして、意識見ながら安全確保もして時間見ながら、バイアルからシリンジに薬液吸い上げて、アダプターつけて投与という一連の流れを一人で5分以内に行うのは結構ヘビーだ。しかも、クライントの部屋は真っ暗で、ヘッドランプや懐中電灯片手でやる。プレフィルドシリンジだったら、すぐにに投与できるんだけど。モタモタしてると、薬投与する前に発作が終わる。5分以内に終わればまあ、何も介入しなくてもいいんだが。

私は、基本夜勤はやらないので、朝看護師から引き継ぎを受けるとき
「5分以上続く、発作がありました。けど薬は使ってません」という報告を受けることがある。「なんで使わなかった?」と聞くと、「サクションやったりしてあたふたしながら、準備している間に発作が止まった」となる。

で、何が問題かというと、うちのクライアントのてんかん発作は夜起きる。しかも、多いときは毎日。なので、新しい看護師が当番の日に起きる可能性はとても高い。普段だったら、お母さんがいるから何かあったらすぐ助けてもらえるけど、今回は誰もいないぞ。

数回経験をつめば、薬の投与はできるようになると思うけど、なにしろぶっつけ本番だぜ・・・そもそも、シリンジに薬引いたことあるのかよ??
ちょっと怖い。同僚のRetired Nurseも不安そうだ。なにしろ30年のベテランの彼女でも初めててんかん重積に遭遇したとき、薬の投与まで間に合わなかったのだ。
ミダゾラムを二回使ってまだ重積状態が続く場合は、さらに別の向精神薬を投与する。これなんか、錠剤だからクラッシュして懸濁して腸ろうから投与だ。もっと時間がかかるぞ・・・

一つ判断や投与量を間違えたら、命に関わりそう。
なんかあったら私を呼ぶってことになるだろうけど、なんかあったときにはすでに間に合わないから、私を呼ぶ前に911してくれよなー。

なんか、のんきなんだよなぁ。
サクションだって酸素の投与もしたことないかもしれないのに。
どうか、とばっちりが来ませんように・・・





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