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Emergencyに行く

カナダでは急病になったとき、かかりつけ医や、ウォークインクリニックに行けない場合はEmergencyいわゆるERに行くしかない。

その日は突然やってきた。
クライアントの股関節脱臼疑いに対してX-rayの指示が来た。緊急ではない。
痛みもなさそうだし、腫れてもいないし下肢の血流障害もなさそうだ。
お母さんとHealth Care Centerで合流することになった。
ただ、まだX-ray受付時間ではない。1時間ほど待つことになりそうだと言うと同僚がLifelabsに行こうよという。LifelabsでX-rayもやってるのか?と聞くとわかんないけど行ってみようという。
「私の知る限り、Lifelabsは血液検査とかしかやらんよ。X-rayとか血液検査とか受けたことないの?」「ない」「OMG」
彼女もアラフィフだが非常に健康体だったのと、日本では職場で義務付けられてたりする健康診断という制度がカナダにはないらしく、がん検診も一切受けたことがないという。仕方ないので、私が受付などを済ませる。(受付にてrequisition:医師から送られてくるの検査指示書とcare card:保険証みたいなものを提出)

地元唯一のHealth Care Centerで大昔は大きな病院だったようだが、今はEmergencyとX-ray,Ultra Soundとカウンセリング等があるだけのこぢんまりした建物になっている。
X-ray撮ったところで、医師のもとに写真データが送られるのは48時間後だし、週末挾むから受診は来週になるだろうなぁとタカくくってた。しかも、X-ray technicianが「liftないから撮影できるかどうかわかんないですー♥。ちょっと確認してきますぅ。」だと。
私「ケアギバーが2人いますから。」
同僚「え、私には無理だわ」
私「・・・」
お母さん「こっちは3人いるし、誰か手伝ってくれたら台に載せれるわよ」

カナダは、医療従事者が患者を人力で動かすという発想は「ゼロ」
リフトがなければ、動かさない。たとえ、誰かが床に倒れてても、泣き叫ぼうとも・・・リフトが来るまで何十分でも転がしておく・・・

4人で車椅子からヨイショする。もともとスリングを敷きっぱなしなので簡単に動かすことができるのだ。
撮影介助に鉛のエプロンをつけて入る。最後につけたのはいつだったか、全然思い出せないのだけれど重さが懐かしい。

X-ray Technician「あ、脱臼してますね。先生に報告してきます」
まさかの、違和感がある方の逆の股関節が脱臼(dislocation)してたのだ・・・
Emergency併設なので、医師に確認に行ってくれた。気が利く。
医師登場。
鼻ピアス、アクセジャラジャラ、髪型は・・・(心の声:アンタが医者なの?)整復(reposition)できんのか?
医師退場。
何やら、他の急患のカテ入れるとかで後でまた来ると。で、ストレッチャーもないし、整復後X-ray撮る必要があるからそのまま撮影台に載せとくとのこと。医師も動かさなくていいと。ストレッチャーないのかぁ・・・

検査室占領。1時間経過・・・
(心の声:他の患者さんたちいいのか?カテって心カテとかじゃないよな?尿カテか?なんでこんなに時間かかる?バルーンだったら私やってやろうか?)
日本人的には、一時的に処置室とかに移して、他のX-rayを待ってる患者さんの撮影を進行させるべきじゃないか?と思うのだが、カナダ的思考では
リフトがないから動かさない・・・他の患者さんは、待たせてもNo problemらしい。まあ、脱臼してるし動かさないほうがいいだろうな。

ところが、おむつの交換の必要が出てきてしまった。流石にX-rayの撮影台の上を便汚染とかまずいよなぁ・・・お母さんは、主治医に電話して指示を仰ぐなどバタバタしている。同僚がおむつを替えようとする。
私「今動かさないほうが・・・」
同僚「いいのよ。脱臼してたっていままでも同じようにやってきたんだから」(つ、強い。)
看護師が鎮静剤持ってきた。
同僚「今、おむつ替えてるからあとにして」
看護師退散。(つ、強い。)
鼻ピアス先生再登場。
医師、こっちはおむつ交換中なのに、モノともせず、電話で指示を受けながら整復する。(こっちのほうが強い)
なるほど、未経験でもこの手があったか。
亜脱臼(subluxation)だったらしく、処置はすぐに終了。

あれ?鎮静剤は?
(ま、痛みもなさそうだし必要なかったとは思う。)
あれ?確認のX-ray再撮影は?
同僚「いいの、もう終わったことなんだから気にしなくていい」
いやぁ、強いわ。強い。お前が決めるか😂

お会計なし。(MSPは無料)
ERの受付なし、問診なし、鎮静剤使使うっていうのに内服薬の確認なし、フォローアップなし、脱臼再発防止のための説明無し。
実にシンプルだ。
野戦病院か?ここは・・・
もちろん、フォローアップは主治医が行うので電話で指示受けしてた時点で話はついてると思うけど。

それで、ケアのときの禁忌肢位って結局どうなの?って聞くと何も言われてないそうです。もともと股関節を90度以上屈曲するな、おむつ交換のとき足上げるなとは言われたそうだけど。膝押したり、腰ひねったり、スリングの角度が深かったり良くないことばっかりしてるようだけど。なんかまた脱臼しそうでやだなぁ・・・
しかも、帰宅後、整復したはずの側の足がまた変な角度向いてるし。

しかし、カナダ人はなにか起きる前に予防するのではなく、
なにか起きてから考える」人たちなので、
整復できてめでたしめでたし、で今日が終わったのだった。

今日のX-rayとEmergencyでのネイティブ同士の会話、半分程度しかわからなかったー。やりたいことはだいたい分かるけど、何をどうしたいのか、何が起こってるのか、なんのためにそれをやるのか、こういうエビデンスがあるからこうしたほうがいいのではないか、といったやり取りがパパっとできないと、まだまだ病院で働くっていうレベルではないなぁ。




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