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母のカナダぐらし 高齢者のカナダ滞在

母がカナダに来て18日経った。そしてわたしは、典型的な高齢者の姿を目の当たりにすることになった。

■ 歩けない
まずは、足が痛くて散歩に行けない。
去年人工関節置換術を行ったために痛みがある。これは、ある程度は仕方がない。術後も痛みが残ってしまう人はいる。
リハビリはリハの先生に褒められるぐらい十分に行ったという。しかし、歩行を見ているとよちよち歩きのようになっている。太ももを上げず、膝を曲げずに着地しているので、棒が歩いているように見える。これは、正しい歩き方とはいえないし、いい方の膝にも負担がかかってしまう。実際両膝が痛いという。足が上がらないから、僅かな段差でも引っかかって転んでしまう、だから、歩き方もおっかなびっくり、下ばかり見て歩くから背筋が伸びず猫背になる。悪循環だ。

足が棒になる

半年以上リハビリしてこの結果なのか・・・正直がっかりした。
湿布の消費量がすごいことになった。(わたしのために持ってきてくれたはずが、以前送ってもらった分までキープしている。しかも、1日に1回張り替えればいいのに、何回も張り替えたりする・・・。高齢者あるあるだ)
あまり歩きすぎると、膝に負担がかかると思い、できるだけ車で移動したのだが、車の乗り降りが大変だった。身長153cm程度の母にはカナダのSUVは大きすぎ、乗るには、踏み台が必要だった。

車の乗り降りの際に、足を大きく開くから股関節が痛くなったという・・・
これは・・・かなり筋力低下しているようだ。

町の中心部から背後の山頂の湖まで回れる広大なトレイル
杖やストックは持たないが、巾着は離さない

バランスが悪くなるので、リュックや軽いショルダーバッグをかけるようにして両手は空けてほしいのだが、巾着袋に執着・・・。

■ 体重増加・・・関節痛がある人には、まず第一に指導されることだ。整形外科医にも体重を減らすように、増やさないように再三言われていたそうだが「減ってない」らしい。しかも、「栄養を取るように言われた」とのことで牛乳がぶのみ。カナダの牛乳は乳脂肪分が少ない。うちはいつも2%のものを飲んでいる。
母「カナダの牛乳、おいしくない。薄い」
わたし「そりゃ低脂肪乳だからね」
で、母のために3.25%の牛乳を買ってみた。

しかし、予想に反して濃いめの牛乳はすぐになくなってしまった・・・
おいおい飲み過ぎだろう・・・
わたし「栄養って、プロテインのことだよね?」
母「知らない。牛乳はカルシウムが取れるから飲むようにしてる」
それは、いいことなんだけど、医師は「良質のタンパク質を摂るように」といったつもりだと思う。
カロリーを摂れとはいってないはず・・・

■ 食欲旺盛
ダイエットしているはずだが、もりもり食べている。
高齢者は、太っていても低栄養になりがちなので、食欲旺盛なのは大歓迎なのだが、贅肉が腹回りにつくだけで、下半身の筋肉は全然つかない。お酒も毎晩飲む。母は、わたしよりずっと酒に強いのでビールはグイグイ飲んでしまう。

ラーメン食べます!

■ 運動をしない
 痛みがあっても、急性期でなければ筋力をつけるためには、家庭でできる簡単なエクササイズ、例えば膝の曲げ伸ばし運動などしなければならない。
わたし「おばあちゃん、家で運動やってた?」
息子「やってない」
母は膝の曲げ伸ばし運動をやってるというのだが・・・
痛みがあるから、歩かない。安静にしている・・・これでは悪循環なのだが・・・
わたしは痛みがあるためにリハビリの意欲がなくて、ベッドに寝たままで食事も排泄もして、しまいには本当に寝たきりになってしまった人を何人か見てきた。その話を母にするのだが、自分とは無関係だと思っている。

■ 痛み止めを飲まない
 痛いから、歩行しないとか運動しないとか言っていつも安静にしていると、筋力低下し、関節の可動域が狭くなってしまい→痛みが取れないという負のスパイラルになるので、痛み止めを飲んでもらって積極的にリハビリをしてもらうというのが今どきの考え方だ。
だが、母は痛み止めを持参してこなかった・・・
「痛み止めなんかずっと飲んでないよ」と豪語した。
薬には大なり小なり副作用があるから、飲まなくていいなら飲まないにこしたことはないけれど、日本人の中には「痛み止めを飲んだら負け」みたいな考えの人がいる。いやむしろ多いように感じる。うちの母は特にそれだ。
ロキソニンは胃に悪いから飲まないならわかるけど、カロナールも飲まない。「カロナールは飲んでいいんだよ」と言っても信用しない・・・
「痛みがピークになる前に飲んだほうがいいよ」と説明。自分の家族への指導はやっかいだ。病院の患者さんなら「看護師さんが言うなら」といって素直に従ってくれるけど、母は人の話を聞いてない・・・

ナナイモリバー
大きな平らな岩の上でくつろいだり、水遊びする人たちが
いくら水がきれいでも、あんまり川で泳ぐ気はしないかな・・・

■ 目薬をさすのを忘れる
母は緑内障がある。視野が狭窄し始めている。進行を抑えるためには指示通りの点眼が不可欠だ。だが・・・昼頃目薬をさしていたり、寝る前の目薬をめんどくさいからスキップしようとする・・・

母「ちゃんと目薬さしてたのに、悪くなった。どうしてだろう?」
心の声(ちゃんとさしてないだろう・・・)
緑内障で失明あるいは、失明しかかった方に会うことが多かったけれどみんな同じことを言う。確かに、緑内障の治療は難しいだろう。でも、実際目薬をさし忘れている方は結構いる。枕元に目薬をおいておいて、起きたとき、とりあえずさす。そして、寝る前にさしてくださいね・・・と退院時指導してきた。毎日のことなので、目薬はさし忘れやすい。患者さんの中には、スマホでタイマーをセット、薬袋にチェックを付ける、箱を2つ用意しておいて、さしたら右の箱から左の箱に目薬を移動させてさしたかどうかひと目でわかるようにするなど工夫している方もいた。

■ 新しい環境になかなかなじめない
 別に、難しいことじゃないと思うんだけど、リサイクルのビン・カンを入れる場所が全く覚えられない。「洗った食器を、吸水マットに置く」が覚えられない。日本には吸水マットはないと思う。だからなのか、認識できないようだ。もちろん、洗濯機も乾燥機も使い方を覚えられない。認知症を疑いたくなるが、先日検査を受けて「問題ない」との結果だったそう。
高齢者が引っ越しや入院をきっかけに認知症が進行してしまったという話はよく聞くが、ほんとうにそうだと思う。

■ 英語は全く話せないし、翻訳機を一度も使ったことがない
 母は、何十年も「とっさの英会話」のCDを聞き続けてきた。でも、一言も英語は話せない。来る直前に「英会話教室で、挨拶ぐらいできるように練習してきてよ」と言ってお金も払い済みだったけど、めんどくさがって行かなかった。
「Hello, My name is ●●。How do you do?」は知っているので、じゃあそれでいいから言ってみてといったけど、結局」「Hello」しか言えない。むしろ、Helloも言えないときもある。

翻訳アプリがスマホに入っていて、結構いいやつらしい。
だけど、いざというときに使うのを忘れる・・・家に引きこもってばかりいるので、カナダ人に会う機会もなく、翻訳アプリを使うチャンスはなさそうだ。

■ いままでできたことができなくなった
 母は、絵画が得意だ。展覧会に出品したり、入選したこともある。なのに、せっかく絵の道具を持ってきたのに。一枚も描いていない。むしろ、描けなくなった。意欲もないらしい。母の最近の趣味の一つはハーモニカだ。2週間に一回教室に通っていて、数年前には個人レッスンにも通っていた。だが、簡単な曲の演奏を頼んでも全然吹けないのだ。ハーモニカの演奏は難しいという。ただ元々音楽の基礎がなかった母は、ドレミで言われても音を出せないのかもしれない。コロナ禍のステイホームのせいで家にいる時間は長かったと思うのだが・・・毎日一体何をやっていたのだろうか?

■ 結論
 高齢者が、カナダの田舎に住んでもあんまり楽しめない。
来週はグランピングに行こうと思っているけれど、母の足の状態を考えるとあまりあちこち行けなさそうだ。カナダにはリハビリに来たわけじゃないし、のんびりしてほしいのであまりエクササイズは強制できない。自分の身の回りには、積極的に散歩したり脳トレに参加してる人たちが大勢いるが、その人達の若々しく生き生きしている姿を見ていたので、自分の母がこんなに衰えたとは驚いた。継続は力なり。


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