新型コロナウイルス感染症に係る在留外国人の再入国時の取り扱い

新型コロナウイルス感染症が世界的に拡大して以来、人知れず日本で困っている人たちがいる。在留外国人だ。在留外国人は、その在留資格の如何を問わず(つまり永住者でも日本人の配偶者であっても)2020年4月2日以降に出国した場合は原則として如何なる理由であってもひとたび出国すると、再入国が一切認められないという状況に置かれてきた。

なお、4月2日以降も、日本人であれば問題なく入国できた。空港でのPCR検査と14日間の自主的な隔離は求められていたが、なぜか外国人だけは入国が認められないという状況が続いた。幸い、こうした措置は国内の感染状況が落ち着くにつれ、また、各国からの要請もあって11月1日付で緩和される事となった。現在(2020年11月17日現在)ではビジネストラック(感染状況が落ち着いている国からの短期商用目的での入国)や在留資格のある外国人の入国はできるようになった。

現在の日本への入国・再入国に関するスキーム(外務省HPより)

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しかし現在でもなお外国人に対する差別的な待遇が残っている。それが、「出国前72時間以内のPCR検査及び検査証明書の提出」だ。これは、一部の感染状況が落ち着いている国や地域(韓国・台湾・シンガポール等)からの入国を除き、ほぼすべての国からの外国人入国者に対して課されている。日本人に対してはこの検査証明書の提出は求めていないにも関わらずだ。

「検査ぐらいすればいいじゃん」と思うかもしれない。でも良く考えてみて欲しい。日本でもついこの間までそんな簡単にPCR検査を受ける事はできなかった。現在日本では多くの病院やクリニックで無症状者に対する検査を自費で行う事ができるようになったが、国によっては医療体制や検査体制の状況により出発の72時間前以内にPCR検査を受けるという事が事実上不可能なところもある。となると、結局、この検査証明書を提出せよという要件が事実上の再入国禁止措置となってしまっているケースがある。

また「出発の72時間前に」というのもかなり厳しいハードルだ。自費での検査が容易になってきた日本でも即日に検査結果を取得する事はまずできない。検体採取後、検査機関に検体を送る必要があるためだ。72時間というと3日だ。例えば木曜日の午前中に日本への帰国便が出発するとして、月曜日の朝病院で検体を採取してもらい、水曜夜までに検査結果と、それと合わせて検査証明書(しかも紙の書類…)を医者に作ってもらわないと、木曜朝のフライトには間に合わない。これは日本や韓国のように検査を気軽に受けられる国でもちょっと厳しいのではないだろうか?特に土日を挟んでしまうとかなり望み薄だから、事実上、月曜や火曜のフライトは無理という事になる。

私は何も「外国人の入国条件を緩和せよ」と言っているわけでは無い。政府分科会も「水際対策の強化」を提言しているし、コロナが落ち着くまである程度の入国制限措置が取られる事は公衆衛生の観点からは妥当なものだと思うのだ。ただ、もしそれが公衆衛生の観点から行われるのであれば、外国人だけではなく日本人に対しても一律にその義務が課せられるべきだ。日本人だけがその責務から除外されるというのはどう考えても科学的ではないし、差別的だ。

政府に外国人に対する差別的な意図があってこうした措置が取られたのだとは考えたくない。恐らく、外国人に対しては入国管理法に基づき色々な義務を課すことができるのだけれども、日本人に対してはそうした義務を課す法的根拠が無いとか、そうした法制度の枠組みの問題がある中で、少しでも水際対策を実効性のあるものにしようとしたらどうすれば良いか、悩んだ結果の苦渋の選択だったのかもしれない。でも、こうした措置を課された外国人はこう思うだろう。「日本政府は外国人を2級市民として取り扱い、差別するのだ」と。

在留外国人の多くは日本に生活が根ざしており、日本人と家庭を持っている場合も多い。つまり、多くの人は我々日本人と何も変わらない市井の人である。そして、多くの場合、日本や日本人のファンでもある。そうした人たちに対して「こういう厳しい状況を乗り越えるため一緒に頑張ろう」というメッセージではなく一方的に差別的な取り扱いを課すのはどうなのだろうか。政府が掲げる多文化共生社会の実現という目的に反するのではないだろうか。こうした措置は国家の品格を著しく毀損するものなのではないだろうか。

一刻も早くこうした差別的な措置が是正され、公衆衛生の観点から妥当と思われる措置が、日本人・外国人問わず平等に課されるようになることを祈ってやまない。

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