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ウェイブ・テクスチャ

好きになったバンドは解散、あのバンドのボーカルは最近死んだと知った
今更もう遅かった
更新されないアルバムはさざ波に打ち消される砂浜に書いた文字みたいだった

夏、燃えていた
あの感情の原因は分かっていた。
でも感情のテクスチャは思い出せない
苦しかった、でも好きだった
忙しかった、そこに生き甲斐を覚えてしまった
色々詰め込んだ夏のプレイリスト、もう更新はされない。昔の曲がただ埋もれてゆく 波打ち際に押し寄せられた海の残骸

花は枯れた
日は沈んだ
ストップボタンを押す、レコードは止まった
まだどこかで回っている
消えないようにそっと薪を焚べる
まだ燃えている、どこかで、いつかは

波の引力に体が持っていかれて深くへ
深く不覚深く不覚、
そして吐き出される

イルカがこんな浅瀬にいる訳ない、と
透明な息で呟いた

彼女は白い波の尖った破片で手を切った

滲んだ赤がやけに立体だった
しょっぱかった

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