また、乾杯できる日まで
私たち5人は、一隻の小さな船に乗り、荒れ狂った大海原を航海するような仲間だった。
職場というのは、年齢も経験も出身地も全て異なる人たちが集まって、利益を生み出す場所である。
掲げた目標を成し遂げるには、チームの仲間の意識が同じ方向に向いていなければならない。
仲間を信頼し、尊重し、関係性に深みを持たせる。
一人でも違う方向を向いてしまえば、たちまち海上で漂流してしまうだろう。
眼が細くて、笑ってるのか怒っているのか分からない、頑固な船長レッドおじさん。
お話するのが大好きで、さりげなく気配り目配りをするチームの調整役ブルーおじさん。
普段は落ち込んで暗い顔をしているけど、仲間内の飲み会になるととたんに明るくなるイエローおじさん。
いつもニコニコ笑って、ひたすらお酒を煽る元相棒グリーン兄さん。
私は、ピンクにでもしておこう。
初めに、船に乗っていたのはレッドおじさんと元相棒グリーン兄さんの2人だった。
次にイエローおじさんが船にのり、最後にブルーおじさんと私が乗った。
5人になって、ようやく安定した船は、年度末というゴールに向けてガンガンエンジンを回す。
利益を生み出すために。
与えられた使命を、命令以上のクオリティで還すために。
チームの意識を結束するには、どんなに忙しくても、仲間内で毎月必ず飲み会を行ない、5人で何度も乾杯をした。
かんぱーい。
かんぱーい。
5つのグラスを何度も交わす。
仕事に関する真面目な話は持ち込まず、笑って騒いで今を楽しむ。
ある程度年齢がいったおじさん特有の、何度も何度も繰り返される同じ話。
前に聞いたよそれ、と誰かが突っ込んでも、構わず何度も何度も同じ話をする。
2軒目、3軒目と終電や終バスギリギリまで飲んだ。
経営方針によりたった一年でその船は解体となり、その後、皆がバラバラになった。私は元相棒グリーン兄さんと2人で、何年も船を漕ぐことになった。
短期間のチームだったが、周りの他部署の人から、仲が良いねと羨ましがられるような関係だった。
そんなみんなで最後に「乾杯」したのは、いつだっただろうか。
本来なら、今年の3月か4月に「乾杯」できていた。
新型コロナウイルスが、全ての予定を飲み込んでしまった。
数か月間の仲間だったにも関わらず、何年も一緒に仕事をしたような、濃くて深い関係性。
一番、楽しかった。
信頼するおじさん達や元相棒兄さんと一緒に仕事ができたあの日々が、振り返っても一番楽しかった。
いつも一緒にいた元相棒兄さんも、今はもう、笑うと目じりに皺がよるよね。
私も同じ年数が経っているから、笑うと口元の小皺が目立つのでしょう。嫌だけど。
また、会いたい。
また、同じ話をして欲しい。
おじさん3人が同じ話を永遠にループして、元相棒兄さんと笑って聞いていたい。
元相棒兄さんの好きなエビチリを食べながら。
「また、乾杯しよう」
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?