「戦国鍋TV」最強ユニット 信蘭の乱

 「ミュージックトゥナイト」の人気NO.1ユニット「信長と蘭丸」。この信長を村井氏が演じていた。

戦国鍋は、基本的に史実に基づいているのだが、このユニットは別格。持ち歌の「敦盛2011」では、「衆道説」に基づいたアブナイ歌詞の世界を、トークから楽屋まで持ち込み、ファンサービスの「そわそわ編」(痴話げんか編)と呼ばれる小芝居満載のバージョンまで作ってしまった。
「そわそわ」というよりは「あせあせおろおろ」。たぎる情熱のままに行動する、まっすぐでチャーミングな信長様。コケティッシュな蘭丸にメロメロだ。ダンスの振り付けも放り出し、地団太を踏まんばかりに「君だけだ」と訴える。一生懸命すぎて汗をかきまくり、喉はカラカラ。振付の合間に思わず真顔に戻って生唾をゴクリ、こぼれるため息。こんな姿も好感が持ててしまうのは村井良大だからだ。
相方は白皙の美青年にしてそつのない俊才、鈴木拡樹扮する蘭丸。浮気症の信長を手玉に取る。すねた態度をとりつつも、カメラに向かえば妖艶な笑みを浮かべる。ほっそりとしたしなやかな体で可憐に舞い、涼し気な表情で朗らかに歌う。主君の必死の猛アプローチに振り付けがちょいと乱れ、いたずらな笑みをちらりと浮かべるあたり、やっぱ好きなんだよねと思わせるくすぐりだ。成長した暁には底の知れない策士になるであろう末恐ろしさまで感じさせる。本物は若くして殉死しちゃったけどね。役に感情移入して突っ走る村井氏を、キャラクター設定をきっちり消化した鈴木氏の、ぶれない演技が支えている。これはもう、ミュージカルのワンシーンだ。
 
 「カバンの中身拝見コーナー」のスマホ履歴発覚から始まる痴話げんかの回、驚き、疑惑、強がり、淡い期待、失望、悲しみ、いじけと変化していく鈴木蘭丸の表情は見ものだ。こんなにハイクオリティーでいいのかしら。嬉しいけど。ひと悶着あった後の仲直りトークで、ぴったりと寄り添う二人。MCを相手に、仲なおりの経緯を事細かに報告する蘭丸に、きまり悪そうに照れる村井信長。うっすら開いた唇からちらりとのぞく桃色の舌がなまめかしい。BL設定のワイルド系とクール系、極上の美青年コラボ。その上にこの演出だもの、ただでさえギンギンになって見入っている腐女子はもうキュンキュンである。
 
 蘭丸の役作りの徹底ぶりはビジュアルから始まる。衣装のブレザーは少し大きめで、「信長様からの頂き物」感を出すとともに、体を華奢に見せている。さらに和装で言うところの襟を抜いた着こなしで、白く長い首を鎖骨のあたりまで見せている。あどけない表情で首を傾げたりすると、ふるいつきたくなるほど色っぽい。黒と赤を基調とした信長の衣装と対照的に、他の小姓と同じ白いシャツにブルーのブレザー、銀色の装飾の白いベルトが清純な印象で、ギャップに萌える。鈴木氏は、「AKR47 フィーチャリングKIRA」にも、気障なイケメン「吉良上野介」役で登場するが、村井氏よりちょっと大きい。ダンスシーンでは、カメラに対して斜めのアングルをとって肩幅を狭く見せ、二人が並ぶときには膝を緩めて腰を落とし、ダンスシーンでは足を広めに開き、左右の振れ幅を大きくして高さを調節している。陰でえらい苦労をしているのに、それをさらりとやってのける。振り付けも微妙に違う。挑戦的で、格好良さに凝った信長とは対照的に、蘭丸はちょっと走り気味。動作の端々が直線的で、若さと清楚な小姓らしさを醸し出している。実は、通常バージョンの1番で、マイクの持ち替えが遅れるというちょっとした失敗をするのだが、その後の「しまった」という表情でスタッフを伺いながら踊っている様子が実にかわいい。信長じゃなくても惚れてしまいます。
 
 「戦国鍋テレビまさかの1周年記念 調子に乗ってCDまで出しちゃいますライブ」を編集した回には、曲の合間に出演武将へのインタビューが入っていたが、この時の鈴木蘭丸には舌を巻く。愛する信長にそっともたれて話を聞いているのだが、ぽうっと上気した面差しに引き込まれそうになる。主を見上げるまなざしの愛くるしさ、しどけなく包み込むような笑顔。信長の腕に抱かれ、蘭丸は、鬼もとろける色香を放つ。
 
 設定の突飛さと役者の個性に支えられてきた「ミュージックトゥナイト」だが、妥協を知らない鈴木氏は、この企画に放たれた美しき刺客となった。清らで健気な蘭丸。どの表情も綺麗で、どんなポーズも華麗に決める、瞬きすら見せない生きたフィギュアだ。ただでさえなんでも全力で頑張ってしまう村井氏。この蘭丸の完成度の高い演技に、役者魂に火が付いたか。かくして、この後長きにわたりファンを引き付け続けていくことになる「信長と蘭丸」が、生まれた。以降、「ミュージックトゥナイト」のユニットは、劇的進化を遂げる。楽曲的にもレベルアップし、コント仕立てのお勉強になるトークは、役者ならではの楽しさで、それぞれに人気を博していく。ファンから望まれるままに、数年にわたって幾度のステージを成立させることになるのだ。
 
 戦国鍋で放映されていたころは、村井氏がイケメン俳優の殻をぱりぱり破っている真っ最中で、鈴木氏のほうが一枚上手の感があったが、これがステージとなると、様相が変わってくる。舞台上から観客を魅了する、本物の役者ならではの迫真の演技。なんたって、お客さんが喜んでくれるのが3度の飯よりも大好物なのだ。美しすぎるリアルなコメディーにギャップ萌え必至。強烈な媚力に観客は熱狂する。二人は呼応しあい、客席のエネルギーを吸って、さらに怪しい輝きを放つ。武士ロックのオープニングの「信蘭」は、今でも語り草だ。ステージのとりを飾ったアンコールの一発勝負は、さながらボスキャラ同士のバトル。蘭丸の胸に抱いたマイクに向けて「愛してる」とささやき見つめる信長のエロい目、小鳥のように愛らしく微笑む蘭丸の流し目に、背筋が泡立つ。ラストの決めポーズ。愛しい蘭丸を背に守り、頼もしい信長の表情はそそる。早変わりで何役もこなし、疲れもピークに達した最後にこれだ。「舞台」だと一味違うんだよね。

 「敦盛2013」、スタッフは相手が「できる」と見ると、限界まで挑戦させなければ気が済まないらしい。女子でも歌えるようにとの配慮か、終始高音域。しかも半音だらけ。初めの六小節から、すでに、こんな意地悪しないでと泣きつきたくなるくらい音がとりにくい。これを村井氏はふわりと歌いこなす。ダンスはハードではない。素人でも楽勝で真似をできそうなレベルに見える。が、これが食わせ物だ。一度踊ってみればわかる。上半身で歌詞の世界を表現しつつ、下半身では、タンゴのリズムに乗って、微妙に変化するステップとターンを次々と繰り出さねばならない。付いたり離れたり二人の距離の調整も至難の業。ものすごくめんどうくさいのだ。早変わりで一人何役もこなし、声と体力を絞り尽くしたラストステージだ。高音で声を張りつつ、観客サービスのBLの世界を微笑みを浮かべながら演じ、こんなダンスを完璧なシンクロで楽々とこなしてみせた彼らには感服する。一回しか披露されないかもしれなかったのに。
 
 「信長と蘭丸」の配役、逆でも面白かったのではないかと思う。はまりすぎて、「まさか」を追求する「戦国鍋」のコンセプトには反するかもしれないが。しなやかで怜悧な美丈夫、鈴木信長に、敏くて小生意気で愛くるしい村井蘭丸。見てみたかったなあ。
 
 あんまり触れたくないけど、全く触れないのも逆に申し訳ないから言っちゃおう。「敦盛2015」。初代蘭丸は、今や2.5次元界の美の化身と君臨するあの鈴木氏だ。ファンの期待はあまりに大きかった。村井氏は歌唱に磨きがかかり、円熟した大人の色気を発散している。ところが、新しい蘭丸君は、若き日の村井氏とキャラがかぶっていた。どうしたって、ファンはマダム・キラーだったころの村井君と比べてしまう。子どものころから一線で注目を浴びてきた須賀君は、いい役者だけれど、これはこれで別物としてありなのかもしれないけれど。スペアがきかない役もあるんですよ。
 え、2021もあるって。・・・ごめんなさい。

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