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厚生年金は「確定給付」だが…確定拠出年金との知られざる違い

「企業型確定拠出年金」導入が進まない中小企業の不利

 2018年の調査では、従業員30~99人の中小企業全体のうち、約8%しか企業型確定拠出年金は導入されていません。

 従業員規模1000人以上の企業では、全体のうち約46%が企業型確定拠出年金を導入していますので、大企業先行での切り替えが進んでいる状況だといえます。

中小企業で導入が進んでいない理由には、

●制度自体が比較的新しいものなので、中小企業経営者の間ではまだ認知度が低いこと

●それまでに用意している退職給付金制度から移行するのに、一定の手間がかかること

●企業型確定拠出年金にもいくつかの導入パターンがあることから、制度が複雑になり、専任の総務担当者などがいない中小企業では導入のハードルが高いこと

●導入前後にわたって必要となる、従業員教育にかけるリソースがないこと(従業員の理解が得られにくいこと)

などが考えられます。

 しかし、今後、大企業での企業型確定拠出年金の導入割合がますます増え、従業員の間でその認知度が広がっていくと、中小企業においても、企業型確定拠出年金を導入していないことが、人材採用や定着率の面で不利になることが考えられます。

 それは、大企業において導入されている制度が存在しないことによって見劣りする点に加えて、転職時にそのまま制度を移行できる(ポータビリティ)という企業型確定拠出年金の特徴が関係しています。

 つまり、これまで企業型確定拠出年金のある会社に勤めていた人が転職する場合、転職先にも企業型確定拠出年金があれば、運用を継続できます。

 そのため、企業型確定拠出年金が導入されているかどうかが、転職先を決める際の条件の一つになるということです。

 今はまだ、企業全体での導入割合は半数以下ですが、大企業ではすでに半数近くで導入されており、年々その割合が伸びていることから、今後は、企業型確定拠出年金を導入していないことによる、人材採用時におけるマイナスの影響はますます強くなっていくものと思われます。

理解しておきたい「『確定給付企業年金』との違い」

 同じように2000年代に入ってから整備された「確定給付企業年金」と比較しながらその特徴を確認します。

 その前に、注意していただきたいのは「仕組み」の名前と「制度」の名前がごっちゃになりやすいので、しっかり区別していただくことです。

 そもそも、「確定拠出」や「確定給付」というのは、「仕組み」の名前であり、固有の制度を表す名称ではありません。

 年金制度は、あらかじめ毎月掛けていた掛金(拠出金)を原資として、将来に給付金を年金として受け取れるものです。

 そして、その金額計算の仕組みには、「拠出金額」だけがあらかじめ決まっている方法と、「給付金額」だけがあらかじめ決まっている方法の2種類があります。

 そのどちらが決まっている(確定している)仕組みなのかを表しているのが、「確定拠出」と「確定給付」という名前の違いです。

●確定拠出年金:掛金額(拠出金額)は決まっているが、将来受け取る給付金額は決まっていない年金制度。

●確定給付年金:将来受け取る給付金額は決まっているが、掛金額(拠出金額)は決まっていない年金制度。

確定拠出年金、確定給付年金というのは、このようにそれぞれ異なる仕組みを採り入れた年金制度の総称であり、一般名詞なのです(固有名詞ではない)。

 では、現在、わが国で実在する具体的な制度としては、どんな制度があるかといえば、確定拠出年金には「企業型確定拠出年金」と「個人型確定拠出年金(iDeCo)」の2種類があります。両者はいずれも、確定拠出年金法を根拠とする私的年金です。

 一方、確定給付年金は、確定拠出年金以外の年金として存在します。

 例えば、おなじみの国民年金や厚生年金、厚生年金基金などは、仕組みとしては確定給付タイプの年金です。

 そして、企業年金として現在広く利用されているのが、確定給付企業年金法を根拠とする私的年金である「確定給付企業年金」です(一般名詞としての「確定給付年金」と、固有の制度名である「確定給付企業年金」を混同しないように、注意してください)。

 両者をまとめると次のようになります。

「確定拠出年金」「確定給付年金」の違いまとめ

●確定拠出年金:確定拠出年金法を根拠とする私的年金で、企業型確定拠出年金と、個人型確定拠出年金(iDeCo)とがある。

●確定給付年金:確定給付の仕組みを用いた年金一般を指す。確定給付企業年金、国民年金、厚生年金、厚生年金基金、生損保の個人年金などがある。

 企業型確定拠出年金と確定給付企業年金の違いの1点目は、先に見たように、「掛金が決まっているのか、給付金が決まっているのか」という点です。

 2点目の大きな違いは、拠出した資産をだれが運用管理するのかという点です。

●企業型確定拠出年金:資産は加入者(年金を受け取る個人)が、個人口座で管理・運用する。

●確定給付企業年金:加入者全員分の資産を、企業がまとめて管理・運用する。



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