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土地の相続放棄をしたくてもできない!2024年「相続登記義務化」も前途多難

はじめに

 「所有者不明土地問題」の解消を目指し、2024年から相続登記が義務化されるにあたり、俳優の高橋惠子さんが「相続登記促進親善大使」に任命されました。
 相続したことを知ってから3年以内に申請しないでいると、10万円以下の過料が科せられる新制度が施行される予定です。
 今一度、所在地不明土地に潜む問題についてみていきましょう。

調査しても所有者が見つからない不動産も

 人口減少、超高齢化が進む日本では、相続登記が数代に渡り行われていないなどの理由により、所有者が不明となったが公共事業や民間の事業を進めるにあたり支障をきたしたり、長期間放置され荒廃化したりと、問題が顕在化しています。
 実は日本には土地の真の所有者を捕捉するシステムがありません。
 そのため所有者不明土地の全体像を示すデータは存在しないといわれています。
 いくつかの調査から、所有者不明土地の実情をみていきましょう。
 2016年度に地籍調査を実施した563市区町村1,130地区の622,608筆について、不動産登記簿で土地所有者等の所在が確認できない土地は、全体の20.1%。
 地帯別にみると、林地が最も多く25.6%でした。
 さらに地籍調査の実施主体である地方公共団体が追跡調査等を行い、最終的に土地所有者 等の所在が不明である土地は全体の0.41%となりました。
 これが最狭義の所有者不明土地と考えられます。
【地域調査(2016年)所在不明土地の割合】
全体:20.1%(0.41%)
都市部:14.5%(0.38%)
宅地:17.4%(0.14%)
農地:16.9%(0.34%)
林地:25.6%(0.57%)
出所:国土交通省『平成28年度地籍調査における土地所有等に関する調査』※(かっこ)内最終的に所在不明の割合

 また国土交通省は同年地籍調査地区のサンプル15地区(13市町)において、不動産登記の最終登記からの経過年数と登記簿での土地所有者等の所在確認結果を突き合わせたところ、最終登記からの年数が長いほど、不動産登記簿で所有者が確認できない割合が高くなる傾向にあることが分かりました。
 2017年に法務省が全国10ヵ所約10万筆の土地の所有権登記について、 最終登記からの経過年数を調査した結果、登記名義人が自然人であるもののうち、 最終登記から50年以上経過が大都市で6.6%、それ以外では26.6%、70年以上経過が大都市部で1.1%、それ以外で12.0%、90年以上経過が大都市で0.4%、それ以外で7.0%でした。

不動産の相続は良いこととは限らない

 所有者不明土地が、引き起こした支障事例をみていきましょう。

case.1:河川改良事業による用地取得
対象地:約560㎡の墓地
土地所有権の登記名義人:約40名の共有。ただし最終登記は昭和33年
対応:相続調査を行ったところ、法定相続は242人。
   そのうち3名が所在地不明。
   探索を継続しながら解決方法を検討
case.2:急傾斜地崩壊対策事業のため使用賃借
対象地:約5,280㎡の山林
土地所有権の登記名義人:法人3社(約130㎡、約650㎡、約4,500㎡ずつ所有)。
            昭和55年、57年、平成7年最終登記。
            3社は解散
対応:会社解散の際に清算処理がされず法的に放置の状態。
   当時の清算人の探索を継続しながら解決方法を検討
case.3:未利用地を広場やグランドとして利用
対象地:約18ha
土地所有権の登記名義人:約850筆、 地権者約170名のうち、約80筆、地権者約40名について相続登記がされていない。
対応:所在不明土地が多くあるため、樹木の伐採などできず、景観悪化、
   ごみの不法投棄などが発生。
   方針を立てることもできずにいる
出所:国土交通省『平成29年土地白書』より
 所有者不明土地が発生するのは、前出のとおり、相続登記がしっかりと行われていなかったことが大きな理由のひとつ。
 部外者は「せっかく土地を相続できるのに、もったいない」と考えるかもしれませんが、相続の対象となる土地が資産性の高いものであれば、喜んで相続登記するでしょう。
 しかし現在はそうではないようです。

 国土交通省が行った『土地問題に関する国民の意識調査』によると、土地所有に対して「負担を感じたことがある/感じると思う」が42.3%。
 また実際に空き地を所有する人たちの47.4%が「土地所有に負担を感じたことがある」と回答。
 さらに「相続により取得した空き地」を51.4%が「負担に感じたことがある」と回答しています。

 土地や不動産の相続放棄は可能。
 相続放棄が認められたら、固定資産税等を払う必要はありません。
 ただし相続放棄が認められても、次の引継ぎ先や管理者が決まるまで、管理義務は残ってしまいます。
 また不要な土地などは国や自治体へ寄贈すればよいと聞いたことがあるでしょう。
 しかし多くの自治体では、土地の寄贈を受け入れないことが多いようです。
 自治体にしても管理に費用がかかりますし、リスクもあれば消極的になるのも仕方のないことかもしれません。
 かといって、利用価値の低い土地を個人や法人に寄付するのは、さらにハードルの高いことでしょう。
 放棄するにも放棄できない……結果、相続登記がされず、所在者不明になってしまう土地が増えていったという背景があるのです。
 再来年からスタートする相続登記義務化。
 10万円程度の科料で登記が進むとは思えないほど、実は根深い問題なのです。


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