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俺もにゃるらになりたい、それどころか/醜態の果てに

 Twitterをやっていると、頭が狂う。
 これは正しい。
 事実、こないだも脳イキしかけた。
 この頃は、何が本物の敵で、何が本物の問題で、そうした複雑な問題の本質を見定め、堅実に勉強を重ね、一つ纏まった論稿であるとか小説であるとかを提出すること……。そうすることで、世界を転覆できると考えていた。亡くした友達を取り返せるかもしれないし、好きな子のためになれることを出来るんじゃないかって。実際、本当に出来るかもしれない。そのために、勉強も続けているし。たしかに、まだ問題は残っていて、醜形恐怖が治ったという訳でもないし、それに誘導される社交不安も治っていない。それでも、大学の専門科目(数学)には顔を出しているし、落単もあるけど、クネクネした調子で前期ももう残すところはテストだけになった。何か誠実に堅実にものを言って、本当に大事な仕事をするためには勉強しなきゃならないし、だから学費も出してもらってる大学を蔑ろにすることは出来ないし、文章を書くにしても哲学とか現代思想とかも勉強し直して、先輩に教えてもらいながらも自分でも色々頑張ってやってみている。手探りだけど、それが何かに繋がると信じて。
 そう、そういえば、だから醜形恐怖症の話をする必要があったんだ。これは根深いようで本当に単純な話で、馬鹿げてる。「俺のことは何処からどう見ても女の子に見えるって思われたい!」という叶いようもないキモい夢を抱いて、一連の事情によってそれが叶いようもない妄想でしかないということに気付きだしたから、そうやってキモい奴だと他人から見られるのが受け入れられなくて苦しいだけだった。それさえ受け入れられてしまえば本当にどうでもいい話なんだろう。別に、まだ受け入れられたという訳ではないけど、それだけのことと分かれば、比較的症状は落ち着いた。本当に受け入れられる日が来るとすれば、私がこの一人称をやめるついでに髪をショートにでもするんだろうか。思えば、最初から間違っていた気がしてくる。小中高とかで、「女の子みたい」と周りから言われて育ってきて、実際男の子のことが好きで、ちゃんと男にもなれなかった俺が、多少なりとも女性社会でやっていけるのかもとか思ったところから。今までは、俺はたまたま家庭の事情とかがちょっと複雑だから、リアルで上手く行かないだけでちゃんと上手いことやる術を弁えてるんだって、思い込んでた。だけど、大学だとかの現実で上手く歯車が合わないということに本格的に気付き出してしまってから、結局、どこにも居場所がないということが明らかになるだけで、やっぱり、俺の居場所はインターネットしかないらしい。俺の人生は、未だにゆっくり霊夢が実況している。こいつのせいで、俺の人生は全部YouTubeのスクリーンに表示される動画でしかなくなった。
 違う、全然話がズレた。それで、こないだの自撮りの話を弁明させてほしい。だから、この場合、私はもう「そういうオカマ」として見られることを比較的受け入れつつあり、かつ内輪ノリで消化するためにあの自撮りを投稿したのであって、その行為自体に承認欲求は(ないと言ったら嘘になるけど!)あんまりなかった。実際、私が本気で自撮りをしていた頃は重加工を重ね、心ゆくまで自らを偽るために何時間も試行錯誤したものだったけれど、あれは適当に五分で撮った奴だ。結局、謎のオタクから冷笑されてしまったので消したんだけど。
 そう、だから謎のオタクから冷笑されてしまったから消したんだけど、それから暫く考えてみてから、それがむしろ「美味しい」ということに気付いてしまった辺りから本当に不味かった。あれほど世界が自分を中心に回っている錯覚に陥らせることもない。今までもツイートが伸びたことは何回かあったし、その度に俺は「このバズに動じない俺カッケェ……」と自惚れていた訳だけど、今回ばかりは射精を伴っていた、と言わざるを得ない(去勢しちゃって精液でないのに!?)。偶然とは言え自撮り自体もそれなりにいいねされた訳だし、それに加えて大勢のオタクから弄ってもらえるというのは(ほとんどの人は特に文脈を把握していた訳ではなくて文面が面白いからいいねしているだけということは頭では分かっていたんだけど)、これほど人の承認欲求をくすぐるものもない。いま、自分が自意識過剰で本当に気持ち悪いことを言っているのは分かっている。でも、多分大事なことだから最後まで聞いてほしい。
 そんな訳で、にゃるらはこのオーガズムに囚われて射精し続けてしまったんだと思う。もっとも、彼も誹謗中傷の嵐に吹かれているから大変なこともあるのは分かっているし、この一言で片付けてしまっては不味いんだろう。だけど、彼を定期的にジョークの材料に使う私も彼のことを尊敬していないと言ったら嘘になるし、そうした誹謗中傷は彼の人気の裏返しであるというのは、誇張じゃないだろう。それは勿論、誹謗中傷の正当化という意味ではなくて。そう、だから、俺ももっと射精したい!インターネット露出狂になりそうな気分だ!こんなものが、まやかしに過ぎないとは分かってる。たしかに、一部の上手い連中はこういうインターネットでの幻覚にも見紛う人気に上手いこと身を任せて、選挙で11万票獲得したり、生配信の同説で11万人集めたり、あるいは、あるいは……といったことを実現してみせているらしい。単なる自意識過剰でしかないものが、なるほど実際そうさせることがあるみたいで、にゃるらの場合もこれに近いものがあったんだろう。いや、私の場合は、そんなのには箸にも棒にもかからない訳だが。
 そう、あそこまで自惚れたことを言っていた訳だけど、実際誰が私を本当に評価したというんだ?にゃるらは『NEEDY GIRL OVERDOSE』を作って、加藤純一は『アマガミ』を実況した。暇空でさえ、私はまったく支持を表明するつもりで言っているんじゃないが、あれだけの票を集めてしまったという点だけを見れば一つの大きなことをした人間だと思う。それで、それで、それで、お前は何をしたの?聞いてれば、さっきから全部話が井の中で終始していて、井の中でさえ何も出来ていなくて、そう、何もしていない。
 素晴らしい。
 私はほとんど自意識過剰な厨二病だ。成し遂げたことは、まだない。東工大には二浪して落ちた。こないだは女の子に土下座をしてきた。最近はエミリアたんに萌え萌えしている。最初の勉強が云々の下りも、諸々のこともすべてが単なる自己憐憫と見栄を張っていただけの——カッコつけていただけのことで、俺はただの自意識過剰な菜月昴らしい。暗い部屋に貼ってある霧矢あおいのポスターが、幾つかのフィギュアが、この二時半の寂しさが根拠だ。
 等身大の承認欲求の欲望がある。それは、こんな俺でももっと認めてほしいということ。Twitterでごちゃごちゃ言ってても、実際の俺はもっと本気で大したことなくて情けないということ。外を歩くだけで人の視線に怯えるのも反転した自意識過剰でしかないんだろうし、誰かを守るために勉強したいっていうのも都合のいい口実でしかないってことを。亡くした友達とか、その土下座してきた女の子のためとか、そういう人達のために文章を書くという体でいれば、自分の欲望に向き合わないで済むと思ったし何よりそれを見て苦しむのがもう辛かったから。だけど、俺がその女の子——エミリアに土下座することになったのは、まさにそういう自己欺瞞が内訳の多少なりとも五割ぐらいを占めていたんだと思う。立川の駅前で土下座した光景が未だに目に浮かぶ。「私あなたみたいな衒学的な人が一番嫌いなんですよね」それで、俺は、どんな欺瞞も許せない気がしてきた。かの哲学者スピノザ(出たよ)は、人間の本性を欲望と喜びと悲しみによって分類したらしい。だから、俺が節制するのは節制の欲望がチラつかせているだけでしかなく、そんなものを「欲望を諦めて大義を誓った」なんて言い方をしてしまうのは、余計に欺瞞というものかもしれない。それでも、嘘のつもりはなかった。それだけは分かってほしいと思ったから、それが土下座のもう半分の内訳だ。こんなもの、「あなたが大切だからやっているの」とか言って虐待する母親と何も変わらない論理なのかもしれないけど、俺は俺なりの愛情があったつもりだし。ナツキ・スバルは、たしかにエミリアのために余計なことをした。王戦を控えてるエミリアのところに呼ばれてもいないのに勝手に行って、自分が本当にすべきはずの語学の勉強とか鍛錬とかをせずに出しゃばって、レムに乗せられていい気になって、だから本当に普段から頑張ってる騎士達に無意味な愚弄をしでかしたし、エミリアにもひどいことを言った。本当に、あのときの俺はどうかしていたと思う。本当にガキだったって思うけど、でもあの日レムに言ったことにも偽りはない。

何もしてこなかった、何一つ俺はやってこなかった!あれだけ時間があって、あれだけ自由があって、なんだって出来たはずなのに、なんにもやってこなかった!その結果がこれだ、その結果が今の俺だ。俺の無力も、無能も、全部が全部、俺の腐り切った性根が理由だ!なにもしてこなかったくせに、なにか成し遂げたいだなんて思い上がるにも限度があんだろうよ。怠けてきたツケが、俺の盛大な人生の浪費癖が、俺やお前を殺すんだ。

リゼロ一期十七話『醜態の果てに』

 それでも、俺はエミリアを救うことができる。お節介を焼いて、身の丈を弁えずに自意識過剰なまま、正しい仕方で欲望をすることが出来る。エミリアと初めて会ったとき、二人して「これは私のためなの」とか「これは俺のためだから」とか言って、半ばツンデレみたいな演技をしたのをよく覚えてる。お日様が彼女の白い髪にかかって、本当に綺麗だったことも。あのときは照れ隠しのつもりで言っただけだったけど、でもそれが本当に重要なことだったっていうのにやっと気付いた。俺は、他でもない俺のために、エミリアにしてやれることがある。
 あぁ、何にせよ、文章は書かないといけない……。スクリーン上に表示される通知が私を現実に引き戻してくる……。明日もバイトがあって、明後日に読書会があるのにまだレジュメを完成出来ていないし、実際同人誌で何を書けばいいのかもよく分からなくなってきた。このままじゃまた土下座することになってしまう。人に見限られる前に、自分に出来ることはしたいって思うけど、どれぐらいが自分に出来ることなのかはよく分からない。いくら失敗しても、白鯨は討伐しなくちゃいけない。やらないといけないことが山積みになっている。にゃるらになりたいとか言ってる場合じゃなくて、自分のことをやらなきゃならない。それにしても、やっぱりにゃるらのことはぶっ飛ばしたいよな。

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