#7 大深度法は合憲か?違憲か?~「公共の福祉」をめぐって
去年の暮れ、大深度法をめぐる問題のいわば本丸「大深度法は合憲か?違憲か?」という議論が、司法の場で本格的に始まった。2023年12月13日、東京地裁103号法廷。東京外環道の大深度地下使用認可の無効・取り消しを求める、いわゆる東京外環道訴訟の第21回口頭弁論だ。
原告側代理人・武内更一弁護士は、「大深度地下の公共的使用に関する特別措置法(大深度法)」は、財産権の保障を定めた憲法第29条の1項、2項、3項のいずれにも違反し、無効であると主張した。
注目は、大深度法が「公共の福祉に適合しておらず、憲法29条の第2項に違反する」とした点だ。
公共事業に伴う収用の根拠としてたびたび語られる「公共の福祉」。
国土交通省は、「個人の土地が公共の福祉(道路整備、河川の整備など)のために必要な場合は、正当な補償を行うことで公共のために用いることが出来る」と説明する。
今回、武内弁護士が引いた説は。
とかく権力的な響きをもつ「公共の福祉」という言葉に「人間的な生存」というある種の“ぬくもり”を吹き込んだのは、憲法学の権威といわれ、東京大学や立教大学の教授を歴任した宮沢俊義(1899-1976)だ。
宮沢は、戦後、国が地主から土地を買い上げて小作人に安く払い下げた「農地改革」をめぐる裁判の判例を例にとりながら、次のように説明する。
原告側は、ひとがその上に暮らす「地盤」が、まさに「人間的な生存を保障」する存在であると主張する。
大深度地下使用法は、宮沢がいう「公共の福祉」に適合するのか。原告側は次のように主張する。
大深度法がはじめて適用されたのは、2016年に完成した神戸市の大容量送水管整備事業。全長12.8キロのうち、270mの区間について大深度地下使用の認可を受けて建設された。老朽化した既存インフラ改修のためのバックアップや、阪神・淡路大震災の教訓をふまえ、給水機能などを兼ね備えた災害に強い送水管として整備された。
ここからは私見だが、大深度法が、こうした生命維持に欠かせない水の確保など「生存の保障」を予定している法律だというのであれば、適合と解する余地はあるのかもしれない。また国土交通省が「公共の福祉」の例にあげる道路整備にも、能登半島地震でもクローズアップされた災害復旧のための役割がある。
しかし、主たる目的が大都市圏の渋滞緩和や所要時間短縮というのであればどうか。
大深度法の4条は、対象事業を道路法や河川法といった各種インフラ関連の法律が定める事業としているほか、16条は使用認可の要件のひとつに、
「事業の円滑な遂行のため大深度地下を使用する公益上の必要があるものであること」
を挙げている。こうした法律の規定と公共の福祉の関係について、立法過程でどんな議論がなされたのか、検証の必要性を感じる。
次回、第22回目の口頭弁論は4月24日(水)午後3時から東京地裁第103号法廷で開かれる。国側がどう反論するかが注目される。
(参考文献など)
・東京外環道大深度地下使用認可無効確認訴訟 原告準備書面 (55)
・FoE Japan主催オンラインセミナー「未来の交通インフラが環境破壊!?〈シリーズ第4弾〉~東京外環道・リニア・北陸新幹線から見る大深度地下法の問題点」
・法律学全集4 憲法Ⅱ[新版]p.406 宮沢俊義 1959 有斐閣
・最高裁大法廷判昭和二八・12・23民集七巻一三号
・国土交通省 北陸地方整備局 用地部「公共の福祉と私有財産」
・災害に強い水道づくり 大容量送水管整備事業 神戸市水道局 平成30年
・[検証]大深度地下使用法 平松弘光 2014 プログレス
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