人参コーヒー

カップに入った人参コーヒーは先日のイースター休暇でバリ島のコーヒープランテーションにいった際に購入したコーヒーの一つだ。
ドライバーのワヤンはこの人参コーヒーが疲労回復に効果があり元気の源で毎日飲んでいるとをいっていた。
そういえば世界有数の海洋国家で17000を超える島々から構成されるインドネシアだが、クラシックなバリ島出身の名前は4つでそのうちの一つがワヤンだといっていた。名前でバリ島出身かそうでないかが分かるのだ。
90%近くがイスラム教徒のインドネシアでバリ島は敬虔なヒンズー教の島であることも興味深い。
私は頭痛に見舞われその日の観光を途中でキャンセルしたため訪問中ヒンズー教の祭りである炎のケチャダンスを見ることができなかった。世界中どこにいっても祭りはあり、各地域その特色があるが音楽があり踊りがあるという部分では共通している。つまりその構造は同じでどの祭りも神のために催される。
太陽が沈んだ夜に音楽が鳴り響く中人々は儀礼的なダンスをすることで一体感という言葉では弱いある種集団催眠的な共通空間への誘いが行われる。そこではリアルから離れたエキゾチックな体験をする。脳は思考をやめ心臓は異次元のビートを刻み始める。虚になった視界では炎が幻想的な光景を作り出す。
何かに触れて私の唇は潤いを感じた。ダスティン・ホフマンが演じた自閉症の兄が初めてキスをした際に女から「どうだった?」と聞かれ「濡れた」と答えた映画『レインマン』のワンシーンを思い出した。だが違うのはここに存在するものは性的欲求と異性への衝動であり、エロティシズムの扉である。離れた唇を次は私から近づけた。二人は抱き合うように踊り私は手を彼女の腰にやり、彼女の手は私の後頭部にあった。私たちは息継ぎをするのも忘れ唇を重ね続ける。彼女の舌が私の口腔内に侵入し歯茎や歯、口粘膜を伝って私の舌と合流する。舌と舌が絡み合い、唾液が遺伝子の確認をするように体へと溶け込む。その間も炎は段々と強くなり火柱が天高く上がる。日没にまた太陽が上がってくるようにこの場所だけギラギラと赤く燃え上がる。
湿度で汗ばんだ彼女の体からは淫靡な香りが漂い、音楽は徐々にリズムを上げ踊りは激しさを増す。物体の外枠が外れるように視野がハッキリしない。それはガブリエル・ミュンターの抽象画のようで、細かなタッチは失われ全てが点と線の始まりに戻る。混沌と混ざり合う世界の中で二人は一つになった。


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