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ローリング・サラリーマン詩篇

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むかしむかしあるところに、一人のサラリーマンがおりました。 かろやかに、つまづきながら、生きておりました。 *********** この詩篇はフィクションです。 実在の人物・会社… もっと読む
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ローリング・サラリーマン詩篇    prologue

満員電車を乗りこなし エレベーターの到着音も高らかに 揺るぎなくもあんま意味なく できうる限りの定刻出社 本気のホンネは 仕事そこそこみぴょこぴょこ かろやかに、つまづきながら 働く、勤める、戯れる 俺の名は、ローリング・サラリーマン ボトルコーヒー、実装完了 貸与PC小脇に抱え 会議室を渡り歩けば なんか出来る感じ 仕事回してる感じ 開ける未来は 四半期毎の オフィス渡世は とつおいつ かくもおかしく、かくもたのしく 俺の名は、ローリング・サラリーマン あくなきコンペの繰り

ローリング・サラリーマン詩篇    chapter 1: CONVENIENCE STORE

(あらすじ) むかしむかしあるところに、一人のサラリーマンがおりました。 本人なりにまじめに仕事をしつつ、さほど評価されることもなく、ただ己の思うところには忠実に、かろやかに、つまづきながら、生きておりました。 これは、そのサラリーマンが日々の出来事や妄想をそこはかとなく書き作った物語です。 一流のビジネスマンに時流を読む目が必要とされるように、一流のサラリーマンにはその日一日が平和に過ごせるかどうかを見極める勘が必要である。その勘の導きによっては、いつも通りに働くか、遮

ローリング・サラリーマン詩篇    chapter 2: E-MAIL

サラリーマンのベテランといえども、怒られるのはなかなか慣れるものじゃない。それも年下からの突き上げとなれば、ひとしおキツいものである。 「私のメール、ちゃんと見てくれてませんよね?」 こんな時、理想の上司は何と答えるのだろう。何と答えれば正解なのだろう。ちなみに前提としては、メールはすべて見ているつもりだがあまりのスタッフの圧力に、あれ、返信忘れちゃったかな、もしや未読スルーなら最悪だな、と心の中がざわついている場合である。 「見てる、見てる。」 とにかく二回繰り返し

ローリング・サラリーマン詩篇    chapter 3: 7:00AM

誰もいない早朝のオフィス。 たまに早起きしすぎて、のんべんだらり家でテレビを見るよりいいだろうと、特にやることもないのに出勤してみると、オフィス一番乗りを果たしたりする。 節電モードのプリンタや画面の落ちたPCが、窓から差し込む横からの光を受けながら、無音で主人の到着を待っている。人のいないオフィスは驚くほど静かで休日のようだ。無機的だがなぜか平和な印象を受けるのは、ここではない何処かで今始まるそれぞれの生活を夢想するからだろうか。ラジオを聴きながらパンを齧ったり、寝癖を直し

ローリング・サラリーマン詩篇    chapter 4: TRAIN

一流のサラリーマンともなると、どんな場所のどんな時間帯であろうと颯爽と電車を乗りこなさなければならない。 何線のどの辺りの車両が比較的空いてるのか、それとも速さ優先混むのは承知で目的地の改札に近い車両を選ぶのか。乗ったら乗ったで、その時間を何に使うのか。広告でもみるのか、スマホをみるのか、はてまた文庫本でも読むのか。 僕の場合は、何もせず、辺りを眺めて時間をつぶします。 なにせ東京はいろんな人がいはります。吊り革にぶら下がって、人間様の見学です。今日は目の前にタンクトッ

ローリング・サラリーマン詩篇    chapter 5: GODZILLA

いっぱしのサラリーマンともなると、ジェネレーションギャップにぶち当たるのは、世の習わしである。 いつからか、僕は彼女のことを心の中でゴジラちゃんと呼ぶようになった。 いや、容姿はあのゴツゴツとした巨大怪獣とは似ても似つかない、むしろあどけないと言った方が正解の、小柄で童顔のメガネ女子である。それがなぜ「ゴジラ」かという話である。 彼女は同じプロジェクトに途中から加わった入社3年目の新戦力である。随分と後輩なのだが、彼女と会話していると、あまりの若々しさにこちらが疲れて後

ローリング・サラリーマン詩篇    chapter 6:  BIKINI MODELS

敢えて言おう。 仕事でグラビア・アイドルの画像を集めることも、時にはあるということを。 敢えて言おう。 その類いのものは、ついつい集め過ぎてしまうものであるということを。 PRのイベントで起用するグラビア・アイドルの資料を作る必要があり、デスクのパソコンで水着写真の収集に勤しむことになった。誰かにお願いしてもよかったのだが、スタッフはみなさん忙しいので、もちろん自分でやることにしたのである。 ふむふむ、ほほう、コホンコホン。 周りの目を少しばかり気にしながら、しか

ローリング・サラリーマン詩篇    chapter 7: PRESENTATION

「ほら、今日は先方もお偉いさんが多いから、キミは会社で待機しててよ。」 部長にそう言われ、彼は何か見失ったような表情だった。しかしすぐに用意した企画書や資料のデータをすべて渡してくれ、「よろしくお願いします。」とプレゼンに向かう僕らに頭を下げた。 なぜ、彼が説明してはいけないのだろう。 この仕事では、彼がチーム内で最もたくさんデータを集めて読み込み、最も時間をかけて考え、今日の資料を作ったはずだ。大きな仕事に若いプレゼンテーターは軽く見られるだろうか。若いと同じ内容でも

ローリング・サラリーマン詩篇    chapter 8: MASSAGE

さして難しいことをやってるわけでもないのに、パソコン疲れに会議疲れ、ゴマすり疲れで、どうにも首・肩・腰が重くなり、仕事をサボってマッサージ屋さんに行く様になれば、それはもう立派に一流のサラリーマンである。こんな時、一流のビジネスマンは一体どうしているのだろう。
 今日はサラリーマンのインスピレーションに従って、中国式に入店。ベテランらしき大連出身だと言うおばさんがついてくれた。 あたしゃこれまでこなした数が違うのよねと言わんばかりに、ぐい〜んぐわ〜んぐいぐぐい〜ん、と中原

ローリング・サラリーマン詩篇    chapter 9:  STAFF

其れはジェネレーションギャップの空より舞い降り、軟弱の先輩社員をついばみ、生きたまま喰らえり。 其れは自由気儘に会議室を飛び回り、ぺちゃくちゃと声を発し、己が意を撒き散らせり。 —『ローリング・サラリーマン古文書』より 翻弄されている。 商品のターゲットがF1層だったので、僕以外はスタッフが若い女性三人というプロジェクトチームを立ち上げ、嬉々としてやる気になっていたのも束の間、見事に翻弄されている。 女性になぶられるのは今に始まったことではないのだが、幼稚園のつばめ

ローリング・サラリーマン詩篇    poem: なりたいもの

自分がなりたいものが、やっと分かった 15年も社会をさまよって 遠回りして なりたいものが今日分かった 僕は できるビジネスマンになりたいわけじゃない 鋼のキックボクサーになりたいわけでもない 完全な男になりたいわけじゃない なりたいものが やっと分かった ユニクロのブラトップになりたい 淡い存在の光を放つ ブラトップになりたい 白のブラトップになりたい 両肩に手を掛けて 手長猿のようにぶら下がり 浜辺を歩く朝には 鼻歌を歌いたい 波踏む足の水音にあわ

ローリング・サラリーマン詩篇    chapter 10: TAXI DRIVER

期末を迎えたサラリーマンともなると、連日夜遅くまで仕事をすることもあるのである。で、そんな時に限って、慌てて駅に走ったのに終電に乗り遅れたりするのである。へろへろになって、べろべろに混じって、タクシー待ちの列に並ぶのである。やれやれ。 その夜、タクシーに乗ってすぐ、運転手がテキトーに走り始めているのに気がついた。僕は「目黒通りから山手通りを入って、田道の交差点までお願いします。」と告げたのだが、運転手さんは、山手通りは知っているのでルートの確定申告もせず走り始めたらしい。

ローリング・サラリーマン詩篇    chapter 11:  NIGHT LIFE

愛する国日本を舞台に活躍するサラリーマンともなると、年に何回かは出張である。しかし経費削減の嵐により、最近めっきりと日帰り出張ばっかりが増えているため、たまの宿泊ありともなると、かの地で地元の美味しいものなどを飲み食いもできるじゃないかと妙にそわそわしてしまうのである。 その日、A市に出かけ、イベント現場の下見調査を済ませ、打ち合わせを数件こなすと、夕食にありついたのは午後8時を過ぎていた。 同行の二人は、他課だが気心の知れたオッサンである。三人で和風居酒屋に入り、地元食

ローリング・サラリーマン詩篇    chapter 12: GHOSTS 

会社というところにはいろいろと怖い話があるものである。 パワハラセクハラ大魔王なのにハラスメント相談窓口を発足させた自覚症状ゼロの役員、毎春誰かに一目惚れし秋口に終わるストーカー癖のある課長、定刻に出社後すぐ外出してずっとどこに行っているか誰も把握していないのに首にならないスパイ疑惑のある社員、ショッピングサイトを一日中閲覧している大御所女性社員、これらはリアルに怖いものである。 そしてまた、このような古いビルともなると、リアルかどうか誰にも証明できない怖い噂も耳にするの