SBT(Science Based Targets)の概況および新ガイダンス
1. SBT(Science Based Targets)とは
SBT(Science Based Targets)とは「科学的根拠にもとづく目標設定」と呼ばれており、パリ協定が求める水準と整合した、企業が設定する温室効果ガス排出削減目標のことです。
SBT認定を取得・コミットする企業・団体は、世界全体で年々増加し、国別では82カ国から6,380社が参加、3,730社が認定されています。日本では参加企業677社、認定企業601社、うち中小企業435社となっています(2023年9月30日現在、表1. SBT参加企業参照)。
2. GHGプロトコルと国内法制度の相違点
SBT認定取得するためには、国際基準の「GHGプロトコル」を用いて、温室効果ガス排出量の算定、報告を行い、削減目標を設定しています。
我が国では、エネルギーの使用の合理化等に関する法律(省エネ法)および地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)に基づき、一定規模以上の事業者に対して、エネルギーの使用状況等について定期的に報告を義務付けています。
その報告のために収集したデータや算定した排出量を、GHGプロトコルと整合したScope1、2排出量の算定にそのまま活⽤することができます。
しかし、表2、3のとおり、地理的範囲、組織境界線、算定対象範囲について、国内法制度とGHGプロトコルでは相違点がありますので、CO2排出量を算定する際に注意が必要です。
3. 算定方法および削減方法
温室効果ガス排出量の算定方法は、①算定目的の設定で目的の明確化を行い、②目的に基づいて算定対象範囲の設定を行います。まずは全体像の把握をしてから、削減対象に対して精度をあげていきます。③Scope3は15 のカテゴリがあり、自社の事業活動が該当するカテゴリを抽出します。④カテゴリ内での、算定対象範囲(活動)を特定します。⑤カテゴリごとに必要な活動量データを収集し、算定します。
また、クレジットを排出削減量としてカウントすることは認められていませんが、Jクレジット(再エネ由来の電力・再エネ由来の熱のクレジット)は、再エネ証書として使うことが認められています。
省エネ運用改善だけで、年4.2%の削減率を達成するのは非常に困難ですが、例えば、省エネ運用改善1%、設備更新2%、残りは再エネ、再エネ証書、Jクレジット(再エネ電力・熱由来クレジット)によって達成する方法も考えられます。
4. 新ガイダンスの動き
SBTi(運営事務局)は、さまざまなセクター別(業種別)にガイダンスを開発しています。
今年4月には、「Forest, Land and Agriculture(FLAG)」(森林、土地、および農業)のガイダンスを発表しました。
世界の食料需要の増加に伴い、2050年には農業生産は約50%増加すると予想されているなか、森林、土地、農業部門は、気候変動の影響から最もリスクの高い産業の1つといえます。
このFLAGガイダンスにより、世界の温室効果ガス排出量の約22%を削減可能とされています。林業と農業のサプライチェーンからの温室効果ガス排出削減と除去を目的とした世界初の基準で、大気中への累積排出量の削減および炭素吸収源の強化につながると考えられています。
カーボンニュートラル達成に向けて、自社のみならずサプライチェーン排出量(Scope3) も含めた抜本的な温室効果ガス排出量の削減が求められています。
そのために、大企業だけでなく、中小企業においても、SBT認定を取得する企業が増えています。
SBT認定を取得することで、①資金調達で優位、②顧客からの評価向上、③サプライチェーンの調達リスク低減やイノベーションの促進、④社員のモチベーション向上・採用力強化などのメリットが見込まれます。
しかし、SBT認定取得がゴールではありません。
温室効果ガス排出量削減に向けての新たなスタートです。
(執筆者:エネルギー診断プロフェッショナル 木下)
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