温室効果ガス排出情報開示の義務化と信頼性確保
1.これまでの温室効果ガス排出関連情報開示の状況
多くのグローバル企業が、CDPなどの国際NPOからの要求を受けて、温室効果ガス排出量などの情報をホームページなどで投資家向けに開示している。中小企業も、国際NPOが推進しているSBT認定を受け、ホームページで排出量の開示を行っている例が増えています。
また、排出量だけでなく、気候変動による企業へのリスクや機会といった定性的情報を、国内外の投資家向けに、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)にしたがって、わが国の東証プライム企業は開示しています。
こうした国際的な要請による情報開示とは別に、従来より、わが国では、一定以上のエネルギーを使用する企業に対して、省エネ法で算定したエネルギー使用量を、温暖化対策推進法(温対法)に基づいて、CO₂に換算した排出量を政府に報告することを義務づけています。
同法は2021年度に改正され、そうしたデータはデジタル化され、開示請求が不要となって、公開されています。さらに、排出量以外のデータ、たとえばエネルギー消費原単位なども、2023年度分から任意に開示できるようになりました。
2.温室効果ガス排出関連情報開示をめぐる新たな動き-義務化と信頼性
以上のように、情報開示にはさまざまな種類がありますが、今、この情報についての義務化、そのための“信頼性”担保の重要性が議論されています。
義務化の動きとしては、2024年3月に、国際サスティナビリティ基準審議会(ISSB)の国際基準に整合する形で、わが国のサスティナビリティ基準委員会(SSBJ)は、開示基準の草案を公表しました。(図表1)
このSSBJ基準は、2025年3月までに決定されますが、金融庁が有価証券報告書でのサスティナビリティ開示基準にすることを検討し、2027年3月期から義務化する案も出ています。プライム上場企業のうち、時価総額3兆円以上の企業から適用する予定です。
この背景には、「投資先による温室効果ガス排出量や削減の試みが、投資先の財務パフォーマンスにどういう影響があるか」を開示してほしいという投資家の要望があります。それにより、投資家の投資判断がしやすくなるためです。
3.温室効果ガス排出関連情報の信頼性
SSBJ基準による開示義務化されるのに伴い、この情報の信頼性を担保するために、第三者からの保証を得ることが必要となる見通しです。
実際、項番1で述べた排出量開示のうち、CDPによるものは、GHGプロトコル(排出量算定の事実上の基準)を採用し、その排出量算定の正確性・網羅性などを第三者に検証させることが多くなりました。
このような検証は、これまで法的な義務ではありませんでした。
たとえば、わが国の省エネ法・温対法における排出量の情報は、検証が義務付けられてはいません。
これに対して、“サスティナビリティ保証”というのは、地域(EUなど)や国家が、情報の信頼性確保のために、保証を求めるものです。保証のためには、保証する属性(準拠性/適切性)保証する範囲(全体/一部)、保証する主体(監査人、会計士など)、保証水準(合理的保証や限定的保証)などの論点を整理したうえで明確にする必要があり、議論が続いています。
4.温室効果ガス排出量などの算定の仕組みづくりが急務
一方、開示を行っている企業では、たとえば、SBTで求められているスコープ3の算定の際に、二次データ(業界平均値など)を使う場合がほとんどです。しかし、排出量を削減するためには、一次データ(計測による実績データなど)を使わないと、削減努力が反映されにくい為、データを計測する動きも出てきています。その際、その計測データが信頼できることを担保する必要があります。
国による開示の義務化の動向を見ながら、排出量情報の信頼性を高める仕組みを作ることが急務になっています。
(執筆者:中産連 主席コンサルタント エネルギー管理士 梶川)
自動車部品製造業・産業機械製造業・廃棄物処理業を中心に、温室効果ガス排出量算定・削減、省エネ診断、環境法令順守コンサルティングを行っています。
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