マガジンのカバー画像

時を越えた瞬間の記録

10
二度と忘れられない瞬間は時間を越えて、今でも心にあり続けます。
運営しているクリエイター

#フランス

時を越えた瞬間の記録【アヌシーⅡ】

2017.6.8 France, Annecy 芝生の上にじっと座って、デスペラードというテキーラ風味のビールを飲みながら甘ったるいピスタチオのジェラートを食べ、友人と水色の湖をぼうっと眺めた。手前の道には自転車がさっと通り過ぎた。その次に散歩と途中の高齢男性がゆっくり視界にあらわれた。かとおもえば観光で浮かれている欧米人数名がにぎやかに歩いて、いなくなった後には犬を連れた散歩途中の夫婦がさわやかに横切った。 1度目のアヌシー滞在はこんなふうに時間をかけて人々を眺めるなど

時を越えた瞬間の記録【パリ】

2019.10.25 France, Paris すべての運命は既に決められていて、そこに書かれた内容をひとはなぞるだけ。アラブの世界に「Maktub(マクトゥーブ)=書かれている」という言葉があるように、つまりは覚悟を決める前から物語は始まっていた。2015年に初めて訪れたパリ、右も左もわからない複雑な街でたまたま予約したアパートは、スペインのサンティアゴ・デ・コンポステラへと向かう経路、レヴィ通りのすぐそばだった。 その後もパリに訪れるたび、この通りを何度も歩いたはず

時を越えた瞬間の記録【ヴァランス】

2019.10.17 France, Valence 向かいのホームには誰一人ひとがいなかった。 直線と曲線が入り混じった建築、ヴァランス駅。近代的なこの駅を大きく見守る空は、秋のやわらかな水色をまとい、白い雲はまたふんわり、うっすらと青に溶け込むようになびいている。時折見せる日差しは黄金色に輝いて、20キロの荷物を詰め込んだスーツケースとともに駅に立ち尽くすわたしをじんわりと励ます。いま何かが動いた。ホームの先のロータリーにバスが滑らかに立ち入って、数人の乗客を吐き出し

時を越えた瞬間の記録【アヌシー】

2017.12.22 France, Annecy 「コーヒーの音楽をしっかりと聴くんだ。それが火を止める合図だよ」。 数日前にイタリアで買った、BIALETTI(ビアレッティ)の直火式エスプレッソマシン。使い方を知らないわたしに早速使ってみようと声をかけ、嬉しそうな表情をするひとがいた。学生用レジデンスの共同キッチンに移動して、直火で新品のマシンをセットするとそのひとは真剣な顔をしてこういう。耳をすますんだ、コーヒーの音楽が聞こえてくるから。それが火を止める合図だよ。や