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小説

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#阿波しらさぎ文学賞

グローカライズ

 この町の人間はまどろんでいると、アキは言う。  まどろんでいる。よく言えばのんびりしている。みんなどことなく朗らかで、潮が満ちると逆流する汽水の川のように、ゆるゆると、所在なさげでもある。集合時間を十分過ぎても許される「阿波時間」なんて言葉もあるくらいだ。  年に一度、大きなお祭りがあって、その日の朝、町ははっきり目を覚ます。それから祭りが終わると、またゆっくりと、眠りにつくように静かになる。そんな話をしながら、アキは東京観光のパンフレットに折り目を付けていた。修学旅行

ぽんぽこあわもち

「名物の『ぽんぽこあわもち』です」  大きな一枚板の座卓の真ん中に、小皿が置かれていた。 「まあ、食べてみんさい」  小皿には包装紙に包まれた餅だか饅頭だかが二つだけ乗っている。私はその一つ、紅と白があるうちの紅色の方を手に取って開く。中から黄金色の、潰れた形の餅が顔を出す。 「これ、去年出来たばっかりの新名物なんです。新名物って言っても、文献を調査してね、古い名物を再現したんですわ。芋の一種を餡に使って、それを厩肥で包んで焼くんです。狸の伝説があったらしいんで、ぽんぽこあわ