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小説

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2023年9月の記事一覧

プラヌラ

 それははじめ天啓にも似た、けれども自分の内から小さく沸き起こるような衝動だった。  僕はその日、ボーレ・ビルの理髪店前に傾いているガムボールマシンに一セント硬貨を込め、今度こそオレンジ色のガムが出てくるのを待ち望んでいるところだった。銀色のつまみを時計回りに回すと、硬貨が詰まったのか、四時のあたりでゴツッと音がして止まった。まじかよとため息をつき、理髪店の親父にばれないように、マシンを掴んで左右に揺すった。赤、青、黄色、黒、いろんな色のガムが球形のガラス瓶の中で飛び跳ね、そ

ライク・ア・タンブルウィード

 浜辺で歩くマインは、歩いているのか転がっているのかもわからなかった。  海は穏やかで、漣が音を立て、けれどもアサキの皮膚には刺激が強すぎるので、泳ぐことはかなわなかった。マインが風まかせに方々を歩く間、アサキは行きがけに拾った木の棒で素振りのまねごとを始める。海は地球の海と似て、潮風が強いので、浜辺に散らばる流木は一様に白く、すべすべとしていた。これでは手が滑ってしまう。グリップが欲しいな。思いながら目を瞑ると緑の芝のコートが浮かび上がる。遠方に背の高い対戦相手。まっすぐと