ファイナルファンタジー15 日常と神話をつなぐゲーム② 【FF15のしくみ】
ここから完全にネタバレなので、未プレイで、FF15が傑作であることに賭けてみたいと思う方は、ここで読むのをぜひ止めてください。先に説明されたら勿体ないです。
■FF15の仕組み
FF15の物語。
それは、典型的な「貴種流離譚」を採用した、典型的な「行きて帰りし物語」です。
FF15のゲーム本編あらすじを、可能な限り省略して以下に書いてみます。
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①王子ノクトが仲間とともに結婚の準備で王都から旅に出る
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②ノクトが不在のうちに、王都が敵国からの侵略で陥落する
↓
③ノクトは王都を取り戻すため、神様や過去の王様の遺産から力を借りることにする
↓
④王都に帰還し、借りた力で敵を打倒し、ノクトの命と引き換えに世界が復活する。
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なんか、割と普通というか、ひねりはそんなに無いというか、なぜか既視感がありますね。
似たような物語が古く昔から語り尽くされているような気がする。
果たして今更語る意味はあるのでしょうか。
それがなんと、僕としては大いにあったんですね。
なぜあったのか。
僕はそれが、FF15の登場人物たちが、全員現代人だったからだと考えます。
簡単に言いますが、これが凄いです。
ノクト、イグニス、グラディオ、プロンプト。
FF15はこの4人のパーティによる冒険の物語なのですが、FF15の世界は地球ではない別の場所でありながら、この4人の精神構造や行動様式は現代日本人とまったく同じです。少なくともそう意図して設計されています。
暑いから歩くのがだるいと言ったり、インスタ映えする場所を見かけて写真を撮ったり、動物を愛でたり、音楽を聴きながらドライブしたり。ベースにあるのは観光客のマインドです。
ノクトはいちおう王子なのですが、適当というかルーズというかめんどくさがりと言うか、単純に品行方正とは言い難い性格をしていて、臣下であるはずの仲間たちからも一種舐められています。若干わがまま気ままでもあり、それが王子が故のわがままさなのか、現代の若者としてのわがままさなのか、どちらともとれるように曖昧に描写されています。
このあたりの、「王子としての出自を意識させながらその実精神的には現代の若者そのもの」というバランスは、極めて見事だったと思います。何故なら、FF15は彼が王になるまでの物語なので、ノクトがそんじょそこらの若者であることに共感でき、かつ最終的に王になる王子であることに説得力を持たせるためには、そこのバランスにリアリティを充分に持たせることが非常に重要だったからです。
仲間たちも、そういうノクトのことをただ舐めているわけではもちろんありません。決めるところは決める彼のことを信頼すべき友として、守るべき未来の王として、情愛をもって接していることが伝わってきます。
単純な臣下、単純な友人でないがゆえに、彼らの強固な信頼関係が伝わるという仕組みになっています。
しかもFF15ではこれらの微妙な人物造形や人間関係をストーリーで説明しません。AIで制御された普段の行動で表現します。
ある特定の(そしてさりげなく、特に意味がない)場所、時間、状況にキャラクターたちが置かれると、日常的な会話を散発的に勝手に発し、キャラクター同士を気遣ったりわがままを言ったり、料理のレシピを思いついたり、戦いに疲れたりする。そういう直接的にストーリーに関与しない行為の積み重ねで、彼らがどういう人間でどういう関係にあるか伝わってくる、という仕組みなのです。
https://www.youtube.com/watch?v=UsiDzMglLjQ
「説明」でなく「表現」。
これがFF15を楽しむ上でのキーワードの一つだと思います。
たとえばイグニスの料理。パーティキャラの一人であるイグニスは料理が得意で、キャンプのたびに仲間たちに料理を振る舞います。
以下の二つの写真を見比べてください。同じ料理です。一方はレストランで出されるメニューで、一方はイグニスが一度それを食べてレシピを覚えたうえで、仲間たちに振る舞った料理です。
どちらがイグニスが作った料理でしょうか。
正解は、下です。
そうです。レストランで食べる料理よりも、イグニスが作る料理の方がなんか凄くて美味そうなのです。美味そうなアングルや照明にしたり具材が贅沢になっていたり、という「ズル」もあるんですが、重要なのは美味そうに見えるという事実です。
しかもこれはゲーム内で言葉としては説明されません。食べるタイミングが違うので、並べて見比べる機会もありません。
ノクトやプロンプトがイグニスの料理を評価し好んでいる、という発言をするだけです。そしてプレイヤーには、イグニスの料理は美味そう、というイメージが、ゲームから強制された「見立て」や「お約束事」としてではなく、この写真に証明されるような事実として残っていくのです。
これらの執拗な、豊饒なリアルの追求が、FF15では至る所に見受けられます。
何故「説明」でなく「表現」なのか。
それはもちろん、リアリティのためです。
説明は単なる約束事の強制ですが、表現は共感であり、自然な納得を促します。
自然な納得によって得られたリアリティは、語るべき物語の土台となり、その説得力を引き上げます。
徹底的に現代の技術をぶち込んで作り上げられたFF15のリアルな世界が、一体何のためにあるのか。なんでそこまでリアルにこだわるのか。
それはもちろん、それ自体が架空世界内で気ままに体験するだけで十分楽しめるものですが、やはり僕としては、本題となる貴種流離譚、行きて帰りし神話を身をもって体験させるためにあったと考えます。
いや、これは僕の考えとか感覚とかそういう問題ではありません。
ゲームの設計が明確にそうなっているからです。
FF15の基本的なゲーム進行様式がどうなっているかに注目します。
特定の地点でミッションを受注し、目的地に移動し、戦闘し、解決し、報酬を得る。そして回復や補給をして新たなミッションを求める。
FF15はそうした繰り返しで進む、ミッション受注型のゲームになっています。昨今では、特に目新しいスタイルではありません。
しかし、このサイクルの中で、僕が特に取り上げたいのは「移動」です。
FF15の移動は基本的に3種類。徒歩、チョコボ(馬)、そしてレガリア(車)です。
FF15の世界では、舗装された道路がほぼ世界中に行き届いており、基本的に全ミッションは、レガリアで道路を通って目的地に可能な限り接近し、あとは徒歩かチョコボで最終地点に辿り着くことで進行します。
車を降りて荒野や雑木林をかき分けていけば、そこは間もなくモンスターの領域です。あるいはさらに足を踏み出せば、貴重なアイテムや遺産が眠る、より危険なダンジョンが待っています。
また、移動は基本的には昼間行わなければなりません。何故なら、夜になるとシガイと呼ばれる強力なモンスターが現れ、プレイヤーを襲ってくるからです。レベルがかなり上がるまで、夜のレガリアの運転機能は一部制限されています。
これ、何かに似ていると思うんですよね。
僕はこれ、「遠足」っぽいなと思いました。
あるいは観光旅行と言ってもいいかもしれませんが、ファンタジーに出逢うという意味で、「子供時代の冒険」だと思います。
道を越えたすぐ向こう側に、見たこともない世界が広がっているかもしれない。
あの草むらをくぐっていった先に、未知の生き物がいるかもしれない。
FF15のフィールドデザインは、この類の安易な想像力を最大限に生かすという発想でできていると思います。
もしもFF15が単に徹底してリアル志向なら、こういうデザインになってないはずなんですよね。きっとレガリアは初めからランクルみたいなオフロード車だし、ノクト達一行の服装はゲリラ兵みたいになっているはず。
FF15の移動、そして冒険は、僕たちの生活感覚とリンクしているように見えます。あるいは、子供の時代の想像力と繋がっているように見えます。
日常とは昼間であり、車が走れる範囲(道路)である。
そこから外れると、モンスターが現れる。日が沈むとより強力なシガイが現れる。
徹底してリアルに描かれる日常から一歩踏み込むと、非日常のモンスターの世界が待っている。
日常から非日常への移り変わりを、道路と車、そして光、という現代文明の代表物からの断絶によって表現しているのです。
この表現は、道路と車、そしてそれにまつわるベースの生活をリアルに表現していなければ達成できません。
僕がここで「遠足」と言うのは、言うまでもなく誉め言葉です。これは、我らのすぐ近くにファンタジーがあるかもしれないことを示す表現です。神話のない時代に、ファンタジーを我らの手に取り戻す試みとして、これほど有効な手段もないかもしれません。
道をそれるとモンスターがいて、奥に進めば王の墓があり、召喚獣の住処がある。
そしてそれが終われば、何度でも日常に戻って来れる。
個人的には、FF15がゲームとして凄いのはここだと思います。日常から非日常に移る導線にリアリティがあり、しかもその往復が極めてスムーズに移行するようデザインされているのです。
では、そうしたデザインで描かれるFF15は、どのようなストーリーをたどっていくのか?
基本的に、上記で示したようなゲームデザインを達成したFF15は、この時点である程度勝利しているようなもので、あとはしかるべき非日常を粛々とたどっていけば綺麗に完成するものと思われます。
しかし、そこはFF15、文字通り一筋縄でいきません。この項の冒頭に紹介したあらすじには、物凄い罠が仕掛けられています。
次の項「③ FF15のストーリー」では、その幾重にも絡まったストーリーの縄を解説してみたいと思います。
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