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かつらの香りで思い出す、あの子。

かつらの木が好きだ。
晩秋になると、落ち葉から甘い優しい香りが漂うから。

数年前まで住んでいた町には、かつらの木の小道があった。
その頃は、仕事もプライベートもうまくいかず、とてもしんどい時だった。

今頃の季節になると、当時ルームシェアしていた友人が、そのかつらの木の小道を、一緒に歩いてくれた日の事を思い出す。しんどかった私の隣に寄り添って、何も聞かずに一緒に歩いてくれた。

黄色に染まったかつらの葉がいっぱいになった小道を歩くと、甘い香りがふわっと漂ってくる。かつらの葉は、乾いて踏みつけられるほど、甘い香りを強く優しく放つ。

ルームシェアが終わり、その子は海外に行き、私は別の町に引っ越した。
しばらくたって、かつらの小道があった場所には、大きなマンションが建てられたことを知った。


今頃の季節に外を歩くと、かつらの甘い香りに出会うことがある。
その香りによって思い出されるのは、彼女のこと。
かつらの葉っぱが踏みつけられて、もっと甘い香りを放つように、
その子も、誰かの重荷を背負ったり犠牲になるときに、もっと優しく、あたたかく居られる人だった。

キリストを慕ったパウロという使徒は、「わたしたちは、救われる者にとっても滅びる者にとっても、神に対するキリストのかおりである。」という言葉を残している。その言葉の通り、パウロは迫害の痛みに屈することなく、力強く福音を伝え、弱い人を助け、キリストの香りを芳しく放ち続けた。


落ち葉の季節に思い出すあの子の香りは、いつも周りの人を優しく包んでくれる、甘く芳しいものだった。

私も、いつか彼女のような香りを放つ人になりたいと思う。

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